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レイニーガール

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静かに落ちる雨が街を冷たく濡らしていた。
傘を持っていなかったが故にどこかへと雨宿りをすべく足早に街を駆けていく女性。
予期せぬ足止めに遭い、軒先で忌々しげに空を見つめるスーツ姿の男性。

重くよどむ灰色の空が街を押しつぶすように広がり、それを支えるように色とりどりの傘が儚げに咲いている。
傘を持つ人々の表情は一様に沈んでいた。
季節の変わり目、黄昏時に降り出した雨は人々の足を鈍らせただけではなく、冷たい風をも運んできたからだ。
袖口から覗く両の腕をかき抱き、体温を逃さぬよう、身を縮こまらせる人の姿が見受けられた。
望まれぬ冷たい雨は人々を打ち続ける。
冷たく耳に残る雨音を立てて。

多くの人が目線を落とし、濡れる大地を歩くなか、一際目に付く存在があった。
傘を差さず、為すがまま雨に打たれる少女だ。
空を覆っている雨雲を視線で射抜くかのように、顔は天に。
艶やかな黒髪はしとどに濡れ下がり、顔の半分を隠しているためその表情を伺い知ることはできない。
一つわかるのは、受け止めた雨が頬を伝う様子がまるで大粒の涙を流しているかのように見えると言うことだけだ。

足早に行き交う雑踏。
街は人であふれていた。
大きく開かれた傘とその色取りが一層、人の多さを感じさせる。
そんな街にあり、傘をささず立ち尽くす彼女は独りだった。
街にポカンと生まれた隙間を捜し当てたかのように、人の流れには乗らずに、彼女は広場に立つ。
何処へ往くでもなく。
雨を防ぐこともなく。
その場に居る顔ぶれがすべて入れ替わっても、彼女は動かない。
時間が彼女をより一層濡らし、体温を奪っていく。

どれほど時間が経っただろうか。
天を向き続けた彼女の顔が下がる。
一転足下を見つめ、彼女は動き出した。
彼女は人の流れを縫うようにして、そっとその場を離れていく。
彼女が去った後、残ったのは雨上がりの街だった。
雲間から指す陽の光が水たまりに反射し、街を照らし出す。
傘を畳み、相好を崩しながら、太陽を拝む人々の姿を後にして去っていく彼女は、未だに残る雨の残滓を受け止め歩いていた。
まるで雨雲を追いかけるように。

彼女はいつも雨と共にあった。
雨が降るところあれば、何処からともなく現れ、そして雨と共にふらりと姿を消す。
人々は、冷たく濡れる孤独な彼女をみると口々にこう言うようになっていた。
雨女、と。
作品名:レイニーガール 作家名:武倉悠樹