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心の中に

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 卯之吉の心の中では、神への恨みつらみのような感情が蠢き始めていた。いくら信心深い家に生まれたからといって、目の前で家族を惨殺された子供の心情を推し量るには、余りあるものがある。まだ幼い卯之吉が、神に恨みの念を抱いたとしても、それは致し方ないことと言えよう。
 卯之吉は涙を流しながらも、唇を噛み締めながら、烈火の炎を見つめ続けていた。怒声のような悲鳴はもう、聞こえなかった。魂の抜け殻となった、焼けただれた肉塊が無数に横たわっているだけであった。

 その日の晩、卯之吉は一人で寒さに凍えていた。囲炉裏に薪をくべるが、寒さは一向に和らがぬ。歯がカチカチと鳴った。
 そこへ茂吉がやってきた。
「あんちゃん、おらたち独りぼっちになっちまっただな」
 茂吉は卯之吉より二つほど年下であった。茂吉は卯之吉を普段から「あんちゃん」と呼び、慕っていた。
「いや、独りぼっちじゃない。茂吉と二人ぼっちだ」
 卯之吉は茂吉の目を見上げて言った。
「そんならあんちゃん、これ半分こしよ」
 茂吉の家に作り置いてあったのだろう。茂吉は一つの握り飯を半分に割ると、一つを卯之吉に渡した。
「ああ、ありがとう……」
 卯之吉は少しだけ口元を緩めて、それを受け取った。だが、瞳はまだ深い悲しみを湛えている。それは、茂吉とて同じことであった。
 しかしながら、この二人の子供には未来がある。このまま朽ち果てるか、それともしたたかに生きていくかの選択の岐路は、既にこの時、決断を迫られていたのである。
 卯之吉と茂吉は連れだって玉置村を後にした。幼子が二人で、表街道を連れだって歩くわけにもいかなかった。関所で足止めを食らわせられることくらい、二人にはわかっていたのである。
 二人は笹熊川に沿いながら、山を登り始めた。
 持立の山は深い。一里も歩けば、足は棒のようになった。横では豊かな川の流れが轟々と響いている。
「畜生。こうなったのも、イエス様のせいだ!」
 卯之吉は懐から銀の十字架を取り出すと、恨めしそうに睨んだ。
「でも、あんちゃん。そんなこと言ったら、死んだおとうもおかあもパライソさ、行けなくなるでよ」
 茂吉が心配そうに呟いた。
「イエス様はおとうもおかあも救ってくれなかっただ。逆にあんなに苦しめただ」
作品名:心の中に 作家名:栗原 峰幸