心の中に
「あ、あの吾作の息子の茂吉けえ?」
与吉がゴウゴウと燃える業火を、呆気に取られたような表情で見つめた。
「そう。あの茂吉です」
卯兵衛はそう言うと、懐から煤けた銀の十字架を取り出した。それを見た与吉がまた、ハッとする。
「おっ、クルス。そんなものを、今のご時世、みだりに持ち歩くもんじゃございませんよ」
「これはね、茂吉が凶盗となっても肌身離さずに持っていた形見なんですよ」
「ふーむ、こいつが……」
「私はね、茂吉がお仕置きになる時、イエス様にお祈りを捧げていました。だから、茂吉も安らかな笑顔を浮かべて神様のところへ行けたのだと信じています」
「なるほど、それで笑っていたのか」
与吉が唸るように呟いた。
「神は与吉さんも見捨てません。自分が神を殺さぬ限り」
「儂が神を殺さぬ限り……」
与吉は呆けた顔をしている。卯兵衛はニッコリと微笑みかけた。
既に火は大分、勢いが落ちていた。炭の中に薄茶色の人骨が見える。
与吉は川から水を汲むと、火にかけた。ジューッという音がして、水蒸気が立ちのぼる。その湯気が消えたところに、しゃれこうべは鎮座していた。
「このしゃれこうべをもらっていってもよいですね?」
熱が冷めた頃に、卯兵衛がしゃれこうべを拾い上げて言った。
「どうか、丁重に葬ってやってくださいまし。茂吉のみ魂がパライソに行けますように。アーメン」
与吉が鼻を啜りながら呟いた。そして、手を組んで祈る。
「大丈夫です。茂吉はちゃんと私が送りましたよ」
卯兵衛もまた、しゃれこうべを抱えながら手を組み、祈りを捧げた。
その日の夕暮れ、卯兵衛の姿を突光寺の本堂に見ることができる。その突光寺に呼び出されていたのは、鈴丸こと精進尼であった。卯兵衛が頼み込んで愛向尼院から呼び出したのだ。
卯兵衛は恭しく茂吉のしゃれこうべを精進尼の前に差し出す。
「これは?」
精進尼は幾多の修羅場をくぐってきただけに、しゃれこうべひとつではまったく動じぬ。
「私が弟、茂吉めのしゃれこうべでございます」
「ほう、そなたの弟と申されたか」
精進尼の脳裏には不入谷での、卯の吉と茂吉の姿が浮かんでいたのであろう。
「はい。本当の弟ではございませぬが、血のつながりよりも固い絆で結ばれた弟でございます。故あって、大罪を犯し、死罪とあいなりました」
「それではあの時の……」