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心の中に

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「亭主が初鰹食いたさに私を質に入れたのさ。そりゃ、『初鰹は女房を質に入れても食え』なんて、物の例えには言うさ。でも、それえで本当に質に入れる奴があるかって言うんだい。まったく、とんだロクデナシだよ。あいつは……」
「そいつはご愁傷様で……」
 卯之吉が差し障りのないように、返事をすると、おかねは「余計なことを喋っちまったねえ」と言いながら苦笑した。
「で、私が何を言いたいかわかるかえ?」
「……」
「これを質に入れて後悔しないかってことさね」
 おかねの掌で十字架はいいように弄ばれていた。
「二十日にはお給金が出るんだろう。だったら、米の一升くらいは私がくれてやるさ。男だったら、後は自分で何とかしてみな」
 おかねはそう言うと十字架を卯之吉に投げつけた。卯之吉はその十字架を宝物でも拾うかのように、握り締めて、再び懐へと仕舞った。
 そして、卯之吉の顔からは憑き物が落ちたような、爽やかな笑顔が覗いていたのである。

 それは木枯らしの吹き荒れる、寒いある晩のことだった。
 おみつが卯之吉の布団に潜り込んできたのだ。それは単に温もりを求めているだけではないことは、卯之吉にもすぐわかった。
 おみつは着物の胸元をはだけ、まだ蕾のような乳房を卯之吉に押し付けてきたのだ。さすがに卯之吉もこのおみつの仕草には慌てた。
「お、おい……、おみつ、お前……」
 おみつは何も喋らなかった。ただ二つの膨らみを卯之吉の胸元に押し付けてくる。
(まだ子供だと思っていたのに……)
 考えてみれば、十三、四歳で嫁に行くご時世である。おみつの中に「女」が目覚めていてもおかしくはなかった。
 卯之吉は長い間、女を抱いていなかった。まだ流れ歩いていた頃、たまたま人足寄場で稼いだ金で女郎を抱いたことはある。それ以来の女の肌だ。
「ああ、おみつ……」
 卯之吉の手がおみつの乳房に伸びた。そして優しく揉み始める。震える蕾を吸おうとした時だった。卯之吉の脳裏に己の行ってきた、盗っ人としての数々の悪事が甦った。確かに己の食い扶持のみの僅かな金銭を盗んできただけだが、盗っ人には変わりない。
(駄目だ。俺の血は汚れちまってる。おみつを幸せにはしてやれねえし、その資格がねえ……)
作品名:心の中に 作家名:栗原 峰幸