心の中に
城へ上がり、みよは藩主の間へ通された。みよが深々と頭を下げた。
みよの前には時常公が鎮座し、手で扇子を弄んでいる。
「そちが桑原の……」
「みよでございます」
「なるほど。聞きしに勝る美形よのう」
時常公が嘗めるような視線で、みよを上から下へ、下から上へと眺める。
「あの、詮議の筋とはどのようなことでござましょうか?」
絡み付く視線を払いのけるように、みよが口を開いた。
「うむ。そのことだが、そちの身体に聞いてみようかと思ってのう……」
時常公がニタリと笑った。同時に奥の間の襖が開かれる。そこには床の支度が整えられていた。
「お戯れを……」
「戯れではない。夜伽ぎを命ずる。これは上意であるぞ!」
時常公の手がみよの肩に伸びる。みよはそれを払いのけようと身を捩った。
「私は桑原の妻でございます!」
「だからどうしたと言うのだ。予は欲しい物は必ず手に入れるのじゃ。それと桑原の出世も約束しようぞ。どうだ、悪い話ではあるまい」
みよの上に時常公がのしかかる。
「見損なわないでくださいませ。これでも私は武士の妻の端くれ……」
みよは時常公を手で払いのけ、身を捩りながら、気丈にも抵抗を試みた。しかし所詮、男の力にはかなわない。結局、時常公に組み伏せられてしまったのである。
「くくく、そんなつまらん意地を張るものではない」
時常公は床の間へみよを連れていくことなく、その場で犯そうとしていた。
廊下では一人の若き侍、青木平内がみよの悲痛な叫びをじっと耐えながら聞いていた。固く拳を握り締め、目を深く瞑っている。よく見れば、下唇を噛んでいるではないか。
この青木平内も妻帯者であり、桑原左門やみよのことを我が身に照らして思えば、平常心でいられるはずもなかった。
そこへ家老の田島蔵人(くらんど)がすり足で忍び寄ってきた。
「また殿の悪い病気が始まったようだのう。今度は徒衆の妻君と聞くが誠か?」
「はっ。どうやら、そのようにございます」
廊下に座した青木平内が一礼して答えた。その顔は悲痛な面持ちである。
「あああーっ……!」
襖の向こうから、みよの一際高い叫び声が響いた。