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狂い咲き乙女ロード~2nd エディション 愛ゆゑに人は奪ふ~

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「…てなことがあってね。実は私と佐藤君は同士だったのだよ! ってあんまり驚いてないみたいね」
「だって話が上手すぎるだろ…常識的に考えて…」
 薄々感じてはいたのだ。何か裏があるんじゃないかって。だってそうだろう。普通男に迫られて嬉しいやつなんかそんなに簡単に見つかるはずがない。
「それはそれでいいけどさ、これから一体僕はどうすれば」
「襲うのよ」
 森さんの驚くべき言葉に僕の時が止まった。僕にはこの人が何を考えているのかわからない!
「体育の時間に何処かに呼び出して襲うしかないわね。そうだ、体育館脇のトイレにでも連れ込んで喰っちまうのがいいと思うわ」
「ちょ、森さんあなた正気かい? そんなの犯罪じゃないか! 僕は強姦魔になんかなりたくないよ!」
 だが僕の必死の抗弁も今の森さんには届かない。森さんは突如雄叫びとともに目の前の長机を引っくり返し叫んだ。
「黙らっしゃい! もうこれしか手段は無いのだわ。純愛ルートのフラグが折られてしまった以上は鬼畜・調教ルートにかけるしかないのよ! 多少強引でも構わないわ、佐藤君の体に『男』というものを刻み付けて上げなさい!」
 なんだよフラグとかルートって。駄目だ。森さんが壊れた。
「本山田君。冷静に考えて見なさい。男が女を襲うのはNGよね。でも同性同士ってことになれば最悪『じゃれてただけです』って言い訳が出来るじゃない! 完璧よ、マーベラスかつブリリアントな作戦だわ」
 お願いだから森さんに冷静になって欲しい。確かに魅力的な話ではある…でも何だかそれは卑怯な気がするんだよなぁ。僕が欲しいのは千秋の体だけじゃない。身も心も、それもちゃんと段階を経た上で欲しいのであって。そんな乱暴なことは出来ればしたくはない。常識的に考えればそれで決まりだろう。
 しかしもう僕に残されたチャンスは皆無ッ…ここから逆転など極めて無謀…あまりに楽観的観測過ぎるッ…起こり得ない! 奇跡を期待するなどとは愚の骨頂ッ…敗者の思考だ。だったらどうする? 

 手に入れることが出来ないとわかっているのなら、

 シナリオが既に破綻してしまっているのなら、

――――イッソ壊シテシマエバイイ

 そう、極めてシンプルな思想だ。結局辿り着くのはそこなんだ。
 望んだ終焉を迎えられないのならば壊す。
 僕は千秋を壊す。とても簡単な理屈だ。
 そして彼女も壊す。
 目の前で熱弁を振るう彼女も。
 僕はもう千秋だけじゃ我慢出来なくなってしまっている。『男』だけじゃたりない。
 僕は森さんが欲しい。勘違いとかそんなのじゃない。僕の奥にある何か確かなものがそう告げたのだ。彼女は僕の同士だ。そして彼女がホモに興味があるということも間違いない。
 だけど彼女は『女』だ。どんな理屈をこねてもその事実が引っくり返ることはない。
どこまでいっても彼女は『女』だ。彼女は永遠に『男』にはなれない。どれほど憧れても一生傍観者の立場にあることは変わらない。
 だから壊す。解ってもらうために。
 今も彼女は興奮気味に何事かを話している。だけど僕には何一つ言葉として聞こえてこない。まるでサイレント映画の中に入ってしまったような気分だ。彼女が何を話しているかなんてもうそんなに問題じゃない。僕が今何を想ったか、そっちの方がよっぽど重要だ。
 僕の中で、
 悪魔が、生まれる。
 無邪気なその笑みを僕が凍りつかせてあげよう。
 君はきっと二度とそんな風には笑えなくなる。
 同士としての君はもういらない。
 僕は『女』としての君が欲しいのだ。
 
 壊すことによって君を手に入れてみせる。そう、僕はきっと君が好きなんだ。勘違いも甚だしいと君は言うかも知れない。それでも別に僕は構わない。君がどれだけ拒絶しようとも、僕を憎悪することになってしまっても構わない。
 
 好きだから、
 恋をしたからこそ奪う。
 
 それはもう少しだけ先の話ではあるけれど。
 
 気付けば僕も既に壊れていた。
 
 しばしの沈黙の後、僕は再び口を開いた。
「決めたよ。力ずくでも千秋を手に入れてみせる」
 僕の意外な決断に彼女は少し驚いたようだった。
「え? ホントに?」
「だってそうするしかないんだろ? だったらやるしかないよ。男は度胸。なんでもやってみるもんさ」
「あ…そうよね! それでこそ我が同士よ! ちょっと待ってて」
 そう言ってから彼女は奥のスチール・ロッカーを漁り始めた。
「どーこやったっけか…確かここに閉まっといたはずなのよね……あった! これよ、これ」
 手渡された雑誌には『月刊薔薇乙女 強気攻め大特集号!』と書かれていた。こういうのまであるのか。世間というのは僕が思ったよりも歪んでいる。よくもまぁこんな本を部室に置いておけるものだ。
「その本を読破すれば知識の方はバッチリだわ」
「実技の方は?」
「へ?」
 すっ、と僕は彼女との間合いを詰めた。つま先同士がぶつかり、その時僕らの距離は数センチもなくなった。お互いの息遣いまではっきりとわかる。彼女は驚愕の表情を浮かべたままだった。
「君が教えてくれるのかな?」
「え、ちょ…本山田君、な、な、何を」
 身を捩って逃げ出そうとするのを壁に右手をついて遮り、もう一方の左手で彼女の眼鏡を外した。そしてこの一言。
「こんなゴツい眼鏡してたら可愛い顔が台無しじゃないか」
「ま、ま、、ちょ、待って!」
逃げ場を失い困惑しきった瞳を真っ直ぐに見つめて囁くように僕は言う。
「目を逸らすなよ。僕は君の目の前にいるんだぜ?」
「!!!」
 森さんの顔が真っ赤になっていく。漫画とかだったら頭が爆発したりする場面なんだろう。
「       」
 森さんは必死に何かを伝えようと口をぱくぱくさせているが言葉にはなっていない。ちょっとやりすぎたかな。それでも僕にしては上出来か。今日はこんなものにしておこう。不審がられてもよくないしな。
「ジョーダンだよ、ジョーダン」
 そう言って僕は彼女から身を離し、眼鏡を元通りにして差し上げた。そしてあくまでも今の行為はポーズだったことを強調する。
「…ほへ?」
 呆気にとられている彼女にさらに駄目押しをしておく。
「強気攻めってこんな感じでいいのかい? それじゃ本は借りてくね。あ、もう遅いから森さんも気をつけて。じゃね」
 そう言って鞄に本を放り込むと、僕はくるりと背を向け歩き出した。これで完璧だ。
「え、え、え…どういうことよこれって! ちょっと本山田君ってば、待って!」
 叫ぶ彼女を残して僕は部室を後にした。待てと言われてもこっちはスタコラサッサだぜ。決心がついたからか体も心も軽くなった気がする。
僕は今までの僕じゃない。もっとクールで、それでいて大胆かつ己の欲望に忠実な男に生まれ変わったのだ。
 気分は最高にハイだった。今の僕ならどんなことでも出来そうな気がする。それは予感ではなく確信だった。薄暗い校舎を抜け、僕は深まりゆく闇の中へと駆け出していった。