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狂い咲き乙女ロード~2nd エディション 愛ゆゑに人は奪ふ~

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 一人部室に取り残された裕子はかつて体験したことの無い胸の高鳴りを感じていた。
(……なんだろう、胸がすごくドキドキしてるよぉ…まさか私…本山田くんに? ダメよ! そんなのダメよ。私たちはあくまで戦友なのよ? そんな、恋だなんて…んもう! 自重しろ自重しろ自重しろッォォォォォォ! ぬふぅ、まさか私の世界に入門してくるとはッ、本山田君恐ろしい子! ふぅ……あああああ、考えれば考えるほど顔が熱くなってきちゃうよ…この森裕子は言わば腐女子のレッテルを貼られているッ! クラスで気味悪がられたり、家に帰って親から冷たい目で見られるなんてしょっちゅうよ。そんな私でも、まさか『男』にときめくというのかッ! どうしよどうしよどうしよどうしよ…いけない、クールになるのよ私…以下略)

 一方彷徨う千秋はある女子生徒に出会った。
文化棟と普通校舎との渡り廊下を歩いている際に彼は誰かと擦れ違った。傷心の千秋は気にも留めず顔を上げようともしない。しばらく歩いてからその誰かは振り返り、千秋に声をかけた。
「泣いているのね」
「え?」
 そう、その女子生徒こそが『百合』の女王立花由利恵だった。腰にまでかかる長い黒髪を靡かせて千秋に歩み寄った。そして自らのハンカチを差し出した。千秋がちらりと上履きを見ると、どうやら同級生のようであることがわかった。
「これで涙を拭きなさい。美しい顔に涙は似合わなくてよ」
「あ、有難う御座います」
 見上げた彼女に思わず千秋は見とれてしまった。かつてこれほどに美しい少女を見たことはなかったからだ。同年代の少女たちとは佇まいからして何かが違う。
 まさしく『百合』。
 彼女は清く、そして気高く咲き誇る百合の花の様だった。そして独り言のように彼女は呟いた。
「男の子にしておくのは惜しい逸材だわ」
「え?」
 思わず千秋は聞き返さずにはいられなかったが、その反応を見て由利恵は慌てて打ち消すように言った。
「いいえ、何でもないの。大分個人的な話だから。あ、そうだ。よろしければあなたの名前をお聞かせ願えないかしら? これもあくまで個人的な話なのだけれど」
「い、いや、そんな名乗る程の者じゃないですからっ」
 そう言ってハンカチを返して立ち去ろうとした。しかし由利恵はすかさず千秋の手を取って言った。
「あなたに興味が湧いてしまったのよ。私は天文部部長の立花由利恵。あなたは?」
「さ、佐藤千秋です」
(佐藤千秋? 確か昔裕子が言っていた『薔薇』の彼だったはず…ふふふ、これは思わぬ拾い物かも知れないわね)
「佐藤君、よかったら私と少しお話しませんか? まだ部室も開けたままだから場所には不自由しないわ。場合によってはあなたの力になってあげられるかもしれないし、ね?」
 そう言って極上の笑みを浮かべた由利恵に抗える男子がこの世の中にいるだろうか? たとえゲイであっても心揺るがされる少女、それが立花由利恵である。千秋もまたその魔性に魅入られてしまった。そして言われるがままにその後について行った。


 その頃空は暗雲に包まれようとしていた。それは彼らの行く末を暗示しているかのようだった。

 機は熟そうとしていた。
 ようやく運命の歯車は廻り始め、
 そして宿命の朝が来る。