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狂い咲き乙女ロード~2nd エディション 愛ゆゑに人は奪ふ~

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 武と裕子が回想モードに入っている一方で、部室を飛び出した千秋は当ても無く校舎を彷徨っていた。正直これまで出番の少なかった彼にも実は重大な秘密があったのだ。
 佐藤千秋はゲイなのである。
 そのことを本人が自覚するようになったのは高校に入ったばかりの時期である。それまでの千秋は自らは性同一性障害なのではないかと思い悩んでいたのであった。その男らしからぬ容姿に加え、どうにも男に目がいきがちな自分は本来女として生まれてくるべきだったのではないかと思っていたのだった。
 だがそれも違うことに気付いた。自分は女として男が好きなのではなく、男として男が好きだということを理解した。そしてそれは誰にも言えない秘密だった。たとえ可愛いと言われようともあくまで男として生きていこうと決めた。自らの『男』を証明するため、告白されれば女の子と付き合ったりもした。そんな努力を続けていたある日、彼に運命的な出会いが訪れる。
 ある日の放課後。階段の踊り場にて千秋は一人の眼鏡少女とぶつかった。所謂出会い頭の衝突というやつで、その衝撃で少女が荷物をぶちまけるという極めてよくありがちな展開であった。
「ゴメンなさい! 急いでたもんで」
 千秋は苦笑しつつ、
「いや、大丈夫だよ。それより怪我はない? ほら眼鏡」
 そう言って吹っ飛んだ眼鏡を少女に渡し、散らばった薄い冊子のようなものを拾い集めようとした。
「あ、ありがとう御座いますって…うわー! ちょ、見ないで! 見ちゃらめー!!!」
「へ? う、うわっ、こ、これは…」
 その眼鏡少女こそが森裕子だったのである。裕子がぶちまけたのは後輩洗脳用に持ってきたBL系の同人誌だった。美少年同士が抱き合ったり、唇を重ねあっているページがタイミングよく開かれていた。
「ダメダメダメ! 見ちゃダメ! 嗚呼、神よ…私が何をしたっていうのよ…」
 裕子がショックを受けている一方で、千秋は驚きと興奮を隠せなかった。
(まさかこの娘もこういうのが好きなのだろうか?)
同好の士との思わぬ出会いに千秋は驚喜すると同時に、散らばった同人誌に魅入っていた。そして興奮していたのである。
(うあ…こんなのっていいなぁ)
 それは冷徹かつ強気な美少年が、か弱げな美少年を責め立てている場面だった。
(僕もこんな風にされたら…は、いけない)
 頭を振って煩悩を断ち切ろうとしていると、半泣き状態の裕子が極めて恨みがましい口調で言った。
「見たわね」
「いや、その…これは不可抗力というか」
「見たなッ! それだけで十分だ! ウンザリだぁ! そーだよ、どーせ私は腐女子ですよーだ。こういうのを見てハアハアしている変態予備軍の一人ですが何か? それの何が悪いっていうのよ。いいじゃない。全然いいじゃない。所詮この世はフリーダムよ? ホモが好きで何が悪いって言うのよ!」
 そう叫び散らしながら訳のわからない逆ギレを始めた裕子を宥めようと千秋は言った。
「落ちついてってば! その、実は僕もそういうのに興味があるんだ!」
「は?」
 
――――なんたる偶然

 ゲイ(それも受け)の少年。
 そしてBLを愛好する少女。

 出会ってしまってはいけない二人が出会ってしまった。こうして二人のトンチキな交流が始まったのである。
 二人は互いの趣味についてしばしば語り合い、理想のカップリングについて議論を重ねあった。そして在る時、裕子は千秋と一つの約束を交わした。
――――天然総受け体質な千秋にぴったりの男子を見つけること
 それがたった一つの約束だった。