狂い咲き乙女ロード~2nd エディション 愛ゆゑに人は奪ふ~
戦友の温もりの中で僕は幸せだった。思い残すことは多々あれど、正直もう死んでもよかった。最高の同士に看取られて死ねるなら文句のつけようは、ない。
森さん。
君の名前を呼ぶのもこれが多分最期かも知れない。
さよなら。そしてありがとう。君に出会えて僕は本当によかった…
この状態があと数十秒でも続けば多分ここで僕は死に、第二部完ということになっていただろう。
しかし思わぬ闖入者が現れたのである。ドアの開く音をここまで耳障りに思ったことはなかった。止めてくれないか。こんな気持ちになったのは初めてなんだ。頼むからそっとしておいてくれ…って!!! まさか!と思ったその時既にドアは開かれていた。
「失礼しまーすって…あれ…」
最悪の展開だった。
その闖入者とは何を隠そう佐藤千秋だったのだ。
ドアを開けた状態のままで固まっている。
千秋の顔がどんどん赤くなっていくのがわかる。なぜなら僕たちの体勢は誰がどう見ても抱き合っているようにしか見えないからだ。
「…えーっと…その、何て言うか…お邪魔しましたー!」
そう言って走り去ってしまったのだった。マズい。誤解されたというかそんなレベルの話じゃない。現行犯だ。不純異性交遊の現場を押さえられたも同然の話だ。でも何故千秋がここに? 彼は確か帰宅部だったから文化棟に用があるわけがない。
「やば」
森さんが呟いた。
「どうしたの? まさかこの事態に関連することかい? というか彼は何故にこげなところさ来たんだ?」
いかん、衝撃のあまり口調がおかしくなってしまっている。うろたえるな。日本男児はうろたえない。
短いの沈黙の後に搾り出すように森さんは答えた。
「…ゴメン。佐藤君にここに来てくれるように言ってたことすっかり忘れてた」
貴様かッ!
終わった! もう無理だ! 第二部完!
「何故? ホワイ? なしてそげなことを」
「本当にゴメン! だってだって部室に入ったら本山田君が冬美に襲われてるし、気が動転してて・・・やっちゃったぜ、てへ☆」
「可愛く言って済む話か! いや、待って。ということは森さんは彼と交流があるのかい? そしてこの距離は近すぎるから離れよう」
その僕の言葉に森さんの目は輝きを取り戻した。彼女のテンションが一気に跳ね上がる。
「そうよ、大事なのはそこなのよ! 過ぎたことを何時までもグチグチ言っていても何も始まらないわ。本当なら今日ここで二人にお見合いをしてもらうつもりだったんだけどね、こうなった以上は計画変更だわ。本山田君、明日の五時限目の授業は何か言ってみなさい」
「体育だけど、それがどうしたっていうのさ。そして近いよ」
僕の度重なる警告の末、再び僕らは机越しに向かい合う形で話し合いを始めた。僕が口火を切るべきかどうか考えていると、ずい、と森さんは身を乗り出してきて言った。
「それはね…大事な大事なアタック・チャーンスに決まってるじゃない! いいこと、その時に一気に挽回するのよ。ここでしくじれば後はないと思って間違いないわ」
「アタック・チャンスと言ったってどうするの? あんなところを見られちゃってるってのに。そんなことより僕が知りたいのは森さんと佐藤君はどういう関係なのかってことだよ」
ちっちっと指を振りながら諭すように森さんは言う。
「そう焦るもんじゃないわよ、本山田君。こうなってしまった以上は大事なことをありのままに話すわ。実はね…」
作品名:狂い咲き乙女ロード~2nd エディション 愛ゆゑに人は奪ふ~ 作家名:黒子