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狂い咲き乙女ロード~2nd エディション 愛ゆゑに人は奪ふ~

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 まぁ『薔薇』があるんだからあってもおかしな話ではないけど…でもなぁ、僕にだけは言われたくはないだろうけど、なんかイケナイ響きだな。だって女の子同士だよ? それってやっぱり…なんというか…かなりアレな気がするんだよなぁ。其処にロマンはたっぷりあるような気はするんだけど・・・でもこんなしょぼい共学校じゃなくてハイ・ソサエティーなお嬢様校でやった方が気分でるんじゃないのかな、「タイが曲がっていてよ?」みたいな感じで。
「ちょっと人の話聞いてますか?」
 は、いかん。ちょっと違う世界にワープしていたようだ。僕は本当に駄目なヤツだ。かなりいけない妄想世界にあろうことか女の子前で耽溺してしまうなんて。もう駄目だ。どっか大事な所がもう壊れてしまって――
「だから人の話を聞いてるんですかって言ってるんです。頭大丈夫ですか?」
「ゴメン、多分駄目だ。でも大丈夫だよ。もう戻ってきたから」
「…噂どおり精神分裂症気味っていうのは本当みたいですね。まぁとりあえず座ってください。しっかり聞いて貰わないと意味がないですから」
 そう言うと隅に積んであったパイプ椅子を一つ出してくれた。有難く座らせてもらって、僕らはテーブル越しに向かい合った。
「どうぞ」
 厳しい口調と眼つきとは裏腹に、なんとお茶まで出してくれた。多分だけど坂本さんていい娘だ。キャラは大分作ってる感じがするけども。何故だかそんな気がした。そんな詮無きことを考えていると、
「言っておきますが、私があなたの味方になるということはまずありませんよ」
 じろりと一睨みしてから釘を刺された。油断ならない娘だ。気を引き締めないといけないかも知れない。
「では始めましょう。本山田さん」
「は、はい」
「まずお聞きしたいんですが、あなたはどこまでご存知なんです? このミニコミ部について」
 別に隠したってしょうがないので、僕は知っている限りのことを洗いざらい白状することにした。とは言っても森さんからの伝聞情報がほとんどで、僕があらかじめ得ていた情報はかなり少ないものだ。一通り話し終えると、坂本さんが独り言のように呟いた。
「計画の実行は遠そうね…」
 計画? 一体何の話だ? ここは一応質問しておくか。多分誤魔化されるだろうけど。
「計画って何のことだい?」
「いえ、こっちの話です。あなたが気にする話ではありません」
「君たち相手だと何か心配なんだけどな」
 そんな風に言ってみると彼女の眼つきが変化した。単に鋭いだけじゃなく、より冷淡かつ残忍なものへとなるのがわかった。
「ふあっ」
 あっという間の出来事だった。正直何が起きたのかすぐには理解出来なかった。
 
 ただ一瞬。

 ほんの一瞬での行為。

 目で動作を追う暇も無かった。気付けば僕の首筋にアーミー・ナイフが突きつけられていた。身動きがとれない。驚愕と恐怖で体が固まってしまっている。そんな僕を尻目に極めて冷静な調子で彼女は言った。
「余計な詮索はしない方が身のためですよ。死にたいって言うなら話は別ですけど」
 そう言ってナイフを腿のホルスターに収めた。そんな所にナイフを隠していたのか。しかしこの娘は一体何者だ? これじゃ暗殺者か何かの類じゃないか。なんだか向かい合っているだけで体温が奪われていくような気がする。さっきまでの彼女とは違う。何か狂信的な、異常なものに裏打ちされた凄みがある。
「ではお話しましょう。まずは」
「ちょっと待ってよ!」

――――バン
 
 僕が言葉を紡ごうとする前に彼女が机を叩いて遮った。
「質問は一切受け付けません。あなたはただ黙って私の話を聞けばいいんです。まずは由利恵様についてお話します。立花由利恵。彼女こそがミニコミ部の部長であり、我ら『百合』の指導者です。本来ならば由利恵様を中心としてミニコミ部は『少女王国』つまりは『百合』たちの理想郷となるはずでした。私をはじめ多くの者たちがそれを望んでいたのです。ですが『薔薇騎士』、あなたには森先輩と言った方がわかり易いですか、彼女だけが由利恵様を拒絶したのです。一部の未熟な『百合』たちをたぶらかし、堕落させ自らの仲間へと引き入れていきました。そしてせっかく完成しかけていた『百合』の花園を踏み荒らそうとする始末。それに対して…(以下略)」
 その後三十分程延々とトンデモ話を聞かされて、たった一つはっきりとわかったことがある。
 狂ってる。この娘は完全に狂ってる。狂信者だ。それもどっかの原理主義者たちと同レベルの。恐らくその『由利恵様』のためなら殺人だってためらわないタイプに違いない。
 逃げなきゃ。一刻も早くこの部屋から脱出しなければ。僕は椅子から立ち上がると一目散にドアを目指した。しかし僕としては最大限・全力で高速移動を試みたつもりだったのだが、彼女はそれを嘲笑うかのように一瞬にして眼前に現れ、ドアの前に立ちふさがった。
「何処へ行こうというのです? まだ話は終わっていませんが」
 えー、まだ話すことあんの? どれだけ喋れば気が済むんだって、あー、もう、違う! そこツッコんでる場合じゃない。何をしたんだ? まさか座ったままの姿勢から跳躍したのか? いや、そんなことはこの際どうでもいい。重要なのはこの状況を如何にして打破するかということだ。
 もう戦うしかないか。考えたってしょうがない。どうやら腹を決めるしかないようだ。
「ホアチャー!」
 僕は一声上げてから昔見たカンフー映画の構えをとってみた。多分意味は全く無い。けど少しは抵抗の意思を見せておかないと。黙って殺されるのはどうも嫌だ。
「やる気になりましたか。いいですね。その方が殺し甲斐があります」
 狭い部室の中で戦いの火蓋は切って落とされようとしていた。
 その時だった。突如としてドアが開かれようとしたのだ。ガチャリという音に気を取られ、僕は眼前の彼女から注意を逸らしてしまった。
「なーに余所見してるんですかッ!」
 雄叫びと共に先程と同様ナイフを抜いて飛び掛ってきたのだった。万事休す。南無。しかし死を覚悟したその瞬間、何者かによってドアが完全に開け放たれた。
「あら」
 なんと部室に入ってきたのは森さんだった。まさに地獄に仏とはこのことだ。僕はとにかく力いっぱいに叫んだ。
「森さん! 助けて!」
「――なッ、『薔薇騎士』だとッ」
 森さんの名を耳にした途端、何故だか彼女は身を翻して攻撃を中止したのだった。
「本山田くん! 大丈夫? 怪我は無い?」
 森さんが駆け寄ってきてくれた。それと同時に全身の力が抜け落ちた。
 助かった。安堵すると同時にその場にへたり込んでしまった。
「冬美、これはどういうこと?」
 その声は僕の知っている森さんのものではなかった。極めて激しい怒りが込められた鋼のような響きだった。
「別に。大したことではありませんよ」
「なーにが『大したことではありません』よ。ナイフ持って飛び掛るのが普通だって言うの?」
 しかし彼女は森さんの剣幕に押されることもなく、平然とナイフを収め、部屋から出て行こうという様子だ。
「今日のところはこれで失礼します」