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狂い咲き乙女ロード~2nd エディション 愛ゆゑに人は奪ふ~

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 なんだか内容について言及したくない夢を見ていた気がする。だけど肝心の内容を思い出せない。多分思い出すことを身体と心が拒んでいるような気がする。目覚めは最悪だったがそれでも結局はいつも通りの時間に家を出た。
 正直学校には行きたくない。例の『薔薇』の娘たちはそんなに問題じゃない。というかむしろ有難い。クラスでの僕の居場所が問題なのだ。恐らくこれからは迫害と差別に苦しむ日々が始まるのかと思うと足取りは重くなるばかりだ。すれ違う全ての人が僕を嘲笑っているようにさえ思える。
 しかし気が付くといつの間にか校門の前にまで来てしまっていた。もう駄目だ。このままではヒポコンデリアになってしまいそうだ。ようよう辿り着いた下駄箱の前で苦悶していると後ろから声をかけられた。
「おはやう、本山田君。朝から死相が出てるけどどうかしたの?」
 森さんだった。この時間に会うのは珍しい。彼女は毎朝大体遅刻ギリギリに来ていたはずだ。
「おはよう。今日は早いんだね」
「そりゃそうよ。いよいよ今日から作戦開始なんだから。いつまでも寝てられないわ」
 作戦ねぇ。確かにそれは必要だろうな。今の僕と千秋との距離は相当なものになってしまっている。まずはそれを縮めなければならない。僕は靴を履き替えながら聞いてみた。
「勝算はあると思う?」
「大アリよ」
 どこからそれだけの自信が湧いてくるのやら。だが森さんは本気のようだ。彼女の目には寸分の曇りも翳りもない。僕はこの場では深く言及はせず、とりあえず二人で教室に急いだ。
 教室の前まで来ると突如森さんが立ち止まった。
「どうしたの?」
「いや、一緒に登校したと思われると色々とマズイんじゃないかと思って」
「何でさ?」
 そう聞き返すと森さんは真剣な顔で、そしてあくまで静かに言った。
「本山田君。私たちが避けなければいけないことの一つは目立つことよ。そして変化と言うのは目に付きやすいものだわ。それまで全く関係の無かった者同士、それも男女が一緒に登校してくるなんてもってのほかよ。そうだ。クラスでは今まで通り互いに素知らぬ顔をしていましょう。その方がきっと都合がいいわ。それではまた放課後に」
 そう言うとさっさと一人で教室に入って行った。僕らはスパイかなんかですか。いささか大げさなような気はするけど、まぁ森さん相手じゃ仕方が無いか。結局言われたとおり僕は数テンポ遅れてから教室に入った。
 
 驚くべきことが起きた。なんと放課後まで何も起きなかったのである。僕の場合『何も起きない』ということが大事件なのだ。てっきり残虐な迫害が始まるものとばかり思っていたからかえって拍子抜けした。クラスメイトからは完全に無視されるようになってしまったのは少し寂しいけれど、それぐらいならまだ耐えられる。森さんとも教室では一言も口を利いてはいないが、それは出会う以前と同じだ。というかクラスでの森さんは別人かと思うほどおとなしい。誰とも口を利かないし、昼休みはどっかに消えてしまっていたな。僕も元々友達は多いほうじゃないし、一人でいるのも結構好きだから問題はない。
 唯一気がかりなのは千秋のことだ。授業中にやけに視線を感じたので、その主を探してみると、なんと千秋が僕の方を注視していたのだ。僕と目が合うと恥ずかしそうに視線を逸らすということが七回もあった。これは一体何を意味するのか。
 しかしたまらん。その眼が、その瞳が僕を引き付ける。ぱっちりとした可愛らしい瞳だ。あんなのに見つめられたら確実に死ぬ。昇天間違いなし。保証したっていいくらいだ。
 が、それだけが妙に引っ掛かる。まぁあんまり考えても仕方ないことだろう。しでかしてしまったことを悔やむのは時間の無駄だ。うん。ポジティブ。僕はポジティブ。森さんは掃除当番のようだったので、僕は先に一人で部室に向かうことにした。
 
 昨日来た道だから迷うことなく到着した。でもなんとなく入りづらい。ええい、ままよ。ここまで来て怖気づいてどうする。僕はもう同士のはずじゃないか。そうだ、そうだよ。しかし一応ノックをしてから入ることにした。
「失礼します」
 少し堅苦しすぎたかな。でもまぁ昨日の今日だしこれくらいの礼儀は必要だろう。中に入ると室内の様子は昨日とほとんど変わっていなかったが、決定的に違う点が一つあった。見知らぬ一人の女子生徒が座って本を読んでいたのだ。上履きを見るとどうやら一年生らしい。長い黒髪が印象的な、凛とした美人という感じの娘だが、なんだかきつそうな眼つきをしている。
「――――――?」
「どうも」
 とりあえず声をかけてみた。反応はあるが返事は無い。黙ったままこちらを見つめている。昨日の『薔薇』の同士の娘ではないのはわかるがどうしたものだろう。ここは一応名乗ったりした方がいいのかなぁ。彼女が僕のことを知らなかった場合、突如部室に現れた不審者と見なされる恐れもあるしな。なんて切り出そうか思案していると彼女が口を開いた。
「本山田さん」
「へ?」
「本山田武さんですね?」
「あ、いえ、その…まぁそうだけど。どうして僕の名を?」
 そう聞き返すと彼女は心底うんざりそうに言った。
「あれだけ森先輩たちが馬鹿騒ぎしていれば嫌でも覚えます」
 そう言ってからため息をついた。態度からもわかるが言葉にも明らかな敵意が込められている。しかしどうもその理由が僕にはわからない。なんだか森さんとは仲が悪そうだけど、ミニコミ部はそういう趣味の娘たちの集まりじゃなかったのか。しかし僕の疑問を他所に彼女は言った。
「まったく『薔薇騎士』にも困ったものです。許可も取らずに勝手な真似ばかりをして。正直なところうんざりしてるんですよ」
「君は一体何者なんだ?」
 彼女は本を置いて椅子から立ち上がると、真っ直ぐに僕を見据えて言った。
「私は坂本冬美。『百合』に仕えし者です」
 待て。今何て言った。僕の耳には確かにこう聞こえたぞ。

――――百合に仕えし者

 どうやらまたまた僕の理解の範疇を軽く飛び超える存在が現れたようだ。こんな娘がいるなんて森さんからは聞いてないぞ。困惑している僕を無視して彼女は続けた。
「本山田さん。あなたはここにいていい存在じゃない。あなたはこの場所にはふさわしくない」
「ちょっと待ってくれよ。こっちは事情が全く飲み込めてないんだ。もっとわかるように言ってくれないか」
「『薔薇騎士』から聞いてないんですか? 困ったものですね…まぁいいでしょう。私がこの際説明しておきます。ミニコミ部の真実をね」
「真実?」
「そうです。ここは本来なら由利恵様を頂点とする『少女王国』が築かれるはずだったのです。なのに『薔薇騎士』の奴めが」
「タンマ。由利恵様って誰?」
「あなた由利恵様を知らないんですか!」
「う、うん。申し訳ないけど」
「……正気を疑いますね。校外だったら殺しているところですよ。まさかそこから説明が必要だとは・・・」
 なんだか雲行きが怪しくなってきたぞ。しかもさりげなく物騒なこと平気で言ってるし。森さんたちより変な人たちがまだまだこの部にはいるようだ。魔窟のような所だとは聞いていたけど、まさかここまでの天外魔境だったとは。しかし『百合』――そういうのもあるのか。