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 次のバッターは6番、本山君。彼はどこか思い詰めたような表情で中本君をにらみつけると、両手で握ったバットを正面に持ち、一声、大きなおたけびをあげる。そして、さあ来いとばかりに構えに入った。

 中本君は本山君の行動に動じず、冷静に寺井君の出すサインを確認し、第1球を投げる。

「カーン」
本山君が振り抜いたバットは美しい音を立て、ボールをレフトへと弾き飛ばす。この瞬間、誰しもが、打った本山君ですら、平凡なレフトライナーだと思った。しかし、かと思われた打球はぐんぐんと飛距離を伸ばしていく。レフトを守る村山君も完全に目測を誤り、打球を後逸してしまう。

 さっきとは逆に、今度はセンターの佐藤(英)君がカバーに入ってボールを捕らえる。だが今回も打者である本山君はすでに2塁にたどり着いていた。同じ頃、ランナーの赤井君もしっかりとホームベースを踏みしめる。

 2回の表、本山君の会心のタイムリーツーベースで、能信に待望の先制点が入った。


 本山君、実はこの試合に臨むに当たってとても焦っていた。その焦燥の理由は次のバッター、畑中さんにある。彼女は能信ウォークライズに所属する唯一の女子選手だ。その彼女が、最近メキメキと頭角を表してきている。本山君は、彼女の台頭に大きな危機感を抱いているのだ。このまま漫然と野球をしていたら、女の子に負けてしまうかもしれないという焦り。打順も、自分が6番、彼女が7番と近い位置にいる上に、彼女はセカンドで自分はライトなのだ。もちろんどちらも重要な守備位置には違いないが、やはり内野のほうが監督やコーチの覚えもめでたい。そう思うと、どうしても彼女を意識せずにはいられないのだ。

 それ故に本山君はこの打席に、それこそ不退転の覚悟で挑んでいた。得点圏にランナーがいるチャンス、これを何が何でもものにして、畑中よりも本山、と監督やコーチに積極的にアピールをするんだと。その決して小さくないプレッシャーの中で、本山君は立派に仕事をして待望の先制点を呼び込んだ。もしかしたら、本山君のこのライバル心に気が付いていた監督が、あえて畑中さんを7番に置くことで、本山君の奮起を促したのかもしれない。だとしても、その期待にしっかりと答えた本山君の快打は素晴らしい。彼は2塁ベース上で、誇らしげにガッツポーズを決めた。


 続く打順は7番。そんな本山君がライバル視をしている女子、畑中さんだ。彼女は、自身の非力さをカバーすべく、バットをコンパクトに持って構えている。


 一方で、先制点を取られた中本君は存外に落ち着いていた。少し時間を置くことで気を落ち着かせたのか、注意深く2塁ランナーの本山君を確認する。彼も赤井君を真似て、ベースをしっかりと踏みしめてけん制を警戒していた。

 それを見た中本君は、今度は一応セットポジションを取りつつも、今までと変わらない調子で第1球を投げた。

「カンッ」
またもや初球打ち。やや重たげに弾き返された球は、大地を転々としてセカンドとファーストの間を抜けライトへ。連続ヒットだ。

 本山君はサードへと向かいながら考えていた。このままホームへと突っ込むか否か。普通ならば迷わず行くところだが、けん制を警戒していたせいでスタートが遅れている。それに、自分はそれほど足に自身があるわけではない。3塁にとどまったほうがいいだろう、そう考えをまとめかけた。

(でも……)

 別の考えが本山君の脳内に浮かび上がる。今、畑中さんもヒットを打って結果を出した。より自分をアピールするなら、ここは勝負をかけなければ。
 本山君はこの考えを採用した。すなわち3塁ベースを蹴り、猛然とホームに突っ込んだのである。

「セーフ!」
間一髪だった。滑り込んだ本山君の足が、日我好の捕手、寺井君のミットより一瞬だけ早くベースに触れた。これで能信は2点目。


 その後、1塁に畑中さんを置いた状態で、8番の糸屋君はゲッツー崩れのセカンドゴロに倒れた。ツーアウトとなり1塁ランナーが糸屋君に変わったところで、9番上野君に打順が回ったが、彼は三振に倒れてスリーアウトとなった。

 だがこの回、能信は2点を挙げ、待望の先制点を手にすることができた。


作品名:熱戦 作家名:六色塔