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4:ゲームのノリ と レコンキスタ



 2回の裏、2点を先制された日我好の攻撃。この回の先頭バッターはチーム一の巨漢でありキャプテンを務める広尾君。ここは追いつくべくぜひとも出塁したいところ。だが、立ち上がりが思わしくなかった能信の上野君も調子を取り戻してきていた。

「ットライーッ!」

「ストライーッ!」

テンポのいいストライクを2球連続で決め、あっという間に主砲を追い込む。さあ、まずは景気よく1アウトといったところか。


 だが、ここからの広尾君は素晴らしかった。

 8球。なんと8球もファウルで粘ったのである。投手の上野君もさすがにこの粘りにはついて行けず、根負けしてついつい球が甘く入ってしまった。広尾君はその11球目を見逃さず、センター前に奇麗に弾き返す。点を取られたその裏、すぐさま日我好の反撃ののろしが上がった。


 続くバッターは5番の山田君。高い打率を誇っているため、日我好の安打製造機という二つ名を持つ選手だ。

 山田君のその高打率には理由がある。彼も、先述した能信の赤井君に少しだけ性格が似ている、いわゆるプレッシャーを感じないタイプの男だ。だが、その精神構造は大きく違っている。一言で表すのなら、山田君は野球というものを完全にゲームのようなものとして捉えているのだ。
 そのせいだろうか、山田君は守備よりも打撃の練習のほうを好んで行っていた。理由はもちろん、打撃のほうが楽しいからである。打球を自分の思いどおりの場所に狙って飛ばす戦略性、打球が勢いよく飛んでいく爽快感、投手を攻略したときの征服感。そういったものが山田君を野球へと駆り立てる原動力なのだ。そしてそれは、山田君の趣味であるテレビゲームが好きな理由と何ら変わりはない。いいプレーのための作戦、それがうまくハマったときの楽しさ、最終的に相手に勝利した時の快感。それと全く同じような感覚で、彼は楽しげにバットを振るう。それ故に、彼は置かれている状況にプレッシャーを感じない。ランナーの有無などでケースバッティングの想定はするが、同点の最終回だろうと1打逆転の場面だろうと、彼にとってはゲームの一場面と変わらない。その肩に余計な力が入ることはまずないのである。

 しかし、それ故に彼は面白くないプレーはまずやらない。守備は下手なほうではないが、ボールカバーなどはやっているふりに等しい。また、凡打で終わったときも彼はすぐに走るのを止めてしまう。相手選手のエラーなどで全力疾走をしていれば間に合った、なんて状況になっても彼はなんとも思わない。エラーでの出塁には意味はない、余裕で塁に間に合うようなヒットを打てなかった時点でこのゲームは敗北だ。自分が気持ちよくて楽しい打撃をできなければつまらないし意味がないと真顔で言うのだ。そのような姿勢で野球に取り組んでいるため、彼はよく監督に怒られてもいる。このように賛も否もあるが、その二面性も山田君という選手の個性なのだろう。

 そんな山田君は、楽しげな笑みを浮かべてバッターボックスに立っている。このピッチャーはどんな球を投げてくるのだろう。こいつをうまいこと攻略してやるぞ、そんな気持ちで彼はバットを構えてボールを待っている。今の彼は、2点のビハインドがあるという状況も、1塁にランナーがいるという状況も、頭の中には入っていなかった。

 上野君は2回ほど1塁にけん制を投げた後、山田君に1球目を投げる。
「キン!」
勢いよく引っ張った打球は、サードの頭上をこえ三塁線上を転がっていく。

「フェア!」
長打になるかと思われたが、レフト糸屋君の反応が素晴らしく、1塁ランナーの広尾君は3塁へ進めず2塁にとどまり、結果として単打となった。


 初回に引き続きノーアウトランナー1、2塁のチャンス。ここは、初回の二の舞いは避けたいところ。

 ここでバッターは6番の村山君。引っ込み思案なところはあるが、ポテンシャルは高い選手だ。

 上野君はけん制で2塁と1塁ににボールを1度ずつ投げ、少し間を取ってから第1球を投げた。
「ットライー」
内角に甘く入った球を見逃す。村山君はミットに収まった球を見て、振っておけばよかったなあという感じの、少し困ったような顔をした。

 続く第2球。
「ボー」
外角に外れる。

 ワンボールワンストライクからの3球目。
「ストライッ」
低めにズバンと決まる好球。これで村山君は追い込まれる。

 4球目。
「ストライーッ、バッターアウッ」
1球外すかと思わせて連続で低めに球を集め、まず確実に1アウトを取った。村山君は、一度もバットを振らずにベンチへ戻ることとなった。

作品名:熱戦 作家名:六色塔