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近頃おもうこと

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その12


母は高齢ではあったが敷地内にいるというだけで私には拠り所であった。晩年の母は私が愚痴を言うのが嫌そうだった。表面的に優しそうな夫の味方をしていたようだ。

母が亡くなってから夫の精神状態は益々狂暴になることが多くなっていた。虚血性認知症が出ていて知り合いに迷惑な電話をしたりしたが、脳梗塞が再発したり心臓発作で倒れて救急車を呼ぶことが何度もあった。

病院は自宅から近かったが、夫が救急車で運ばれると、私は病室へ運ばれる前段階の検査室の前でぽつねんと座っていた。狼狽えることもなく、誰かに寄り添ってもらいたいとも思わず、当たり前のような気持ちだった。

暴れまくって夫が病院で亡くなったのは、最初に倒れてから14年目だった。
誰も夫の本当の状態を知る者は居なかった。

亡くなった直後病院から娘二人に連絡し、翌日孫一人と娘ふたりが駆けつけた。葬儀のときは娘二人がせっせと立ち働いてくれた。
娘たちは仕事があるのですぐに帰って行った。あとの手続きは色々あったが、すべて自分ひとりでこなした。

夫が入院中は私一人で広い自宅の敷地内に入ると、母の住んでいた空家と夫が寝起きしていた大きな家が暗闇の中で静まり返っていて、ぞっとするような気分だった。敷地内には夫の退職金で建てた安普請の別棟があり、私は避難所として住むようになり、夫が亡くなってからも現在に至るまで住んでいる。

 
作品名:近頃おもうこと 作家名:笹峰霧子