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亨利(ヘンリー)
亨利(ヘンリー)
novelistID. 60014
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ひとり言 せずにはいられない

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新規事業の罠



 6月からは新規顧客の業務の準備期間がスタートした。
 それまで、先方と何度も打合せを繰り返し、配電盤や制御盤の電装組立てを、当事業部の新工場で請け負う予定です。既に請負基本契約書を交わし、スケジュールもいただき、作業者の基礎トレーニングもしていただけるとの話でした。
 僕は電装関係には、それほど詳しくありません。でも既存取引先の大手企業を4月に定年退職された、電気設計技術者と繋がりがありましたので、当事業部に顧問としてお迎えすることが出来たのです。
 その方に作業する対象の装置の仕様確認や、電気容量の安全確認、ユーザーごとに違う世界規格の確認、作業後の品質確認を担当していただき、新人社員を一から育てる計画でした。その一人目があの山田君です。その顧客工場に初出勤の日、彼から電話がありました。
「誰も作業を教えてくれません」

 その報告を受けて、私はすぐにその企業の工場に行きました。しかし作業現場の責任者は、「トレーニングなんかしない」と言われています。
(なんでこんなこと言うんだ?)と不思議でした。
「繁忙期で手が足りず、その一部を手伝ってほしいので、作業に慣れるまではトレーニングもします」と工場長が言われていたんですよ。だから新人でもやる気があるなら受け入れるって話で、1か月の教育を終えたら、自社工場に仕事を持ち返り、山田君以降は、5人を順次、教育に送り込む計画で話し合ってたんですが。
 でも現場の担当者は工場長からそんな話は聞いていないらしい。と言うより教えるような時間さえ無いとのこと。
 工場長には午後からお会いすることが出来たのですが、今までとは手のひらを返したように「請負いだからそっちでやってほしい」と言われました。確かに請負い業務は当社の責任で、作業完了させなくてはいけない。これは正論。
 でも、トレーニングする期間は、「1か月が妥当だ」と見積もったのは工場長。その間も研修単価で請求までさせてくれるって話だったのに。それだから契約した。
 なのに「新人を教育するなら自社で雇いますよ」だって。これも大正論。

 つまり、いい加減な会社に騙されたんですよ。安い研修単価で、製品を作らされることになってしまいました。
 そこは社員数十人の中小企業で、こんなふうに自分に有利な条件を引き出す腹黒い会社だったってことです。これ社長が知ったら、プライド高いから激オコだろな。覚悟しとかなくちゃ、僕。これに比べたら、損害賠償請求して来た被災者なんて、かわいいもんです。
 では次の一手は、電気技術の顧問に相談したら、
「私が作業に行きましょう。ちょうど、定年して体がなまるから、現場作業もしたいと考えていたんですよ」と言ってくださいました。
「それなら安心です。持ち帰る業務が取れるようにお願いします」
「持ち返れないと、せっかくの新工場が台無しですものね」
きっとその方の知識量は、その中小企業の作業者の比ではない。いとも簡単に対応してくださるだろうから、山田君をその方に付けて、相手企業の工場で社員研修をしてやる。請負いだから、どんなやり方をしても納期と品質を守って、研修金額で仕上げればいいんでしょ。
 当分は赤字だけど、将来その企業のシェアを奪ってやることが目標になりました。これならきっと、社長も同意してくれるはず。