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「猫」

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18



頓車(タクシー)に乗り込む女性を見送った後
防護柵(ガードレール)に腰掛ける少年に言うでもなく、ぽつりと零(こぼ)す

「「にし」さんの奥さんね」

「にし」とは「上司」の事だ
勘のいい「猫」だから話しは通じると思う
少女は端折(はしょ)る

「「にし」さんの奥さん、妊娠してるんだ」

「上司」」と
「にし」さんの奥さんは職場結婚らしく
「にし」さんの奥さんと同期だった同僚女性が
バンドマンの彼氏の愚痴(ぐち)の合間、自身の結婚願望と共に教えてくれた

既婚男性の浮気率は四十 厘(パーセント)
内、妻が妊娠中の浮気率は三十 厘(パーセント)以上、らしい

知ってか知らでか
序(つい)でに上記の情報も教えてくれた(笑)

自分は遊び相手
自分は遊び相手と端(はな)から分かっていたのに

気が付いたら別れを切り出していた
気が付いたら初めて「上司」の胸で朝を迎えていた

「外泊」は口にしてはいけない禁句(きんく)
「外泊」は犯(おか)してはいけない禁忌(きんき)

「、御免(ごめん)なさい」

成就(じょうじゅ)感よりも罪悪感が勝(まさ)った

自分の手を取り
小指を弄(もてあそ)ぶ「上司」に

「君でも焼き餅、焼くんだね」

然(そ)う笑われて自分自身、分からなくなった

自分は浮気相手
自分は浮気相手だと端(はな)から分かっていたのに

少女の心情とは裏腹
軟体動物と化した雉猫(キジトラ)が呑気(のんき)に喉をゴロゴロ、鳴らす

「「にし」さんの奥さんも大変なのかな?」
「「にし」さんの奥さんも」

頭を過(よぎ)る
自分に、雉猫(キジトラ)に頬笑む女性の姿

「「にし」さんの奥さんも幸せそうに笑ってるのかな?」

此(こ)の上なく儚(はかな)げに
此(こ)の上なく優しげに

此(こ)の上なく美しく笑っているのかな?

少女の微(かす)かに震える声に
後頭部を掻(か)き上げる少年がぶっきら棒に吐(は)き捨てる

「お前も笑えよ」

「無理」

自分は笑えない
自分は此(こ)の上なく笑えない

今更ながら自分のしている事に戦慄(わなな)く
如何(どう)にも立っていられず雉猫(キジトラ)を抱えたまま
其(そ)の場に蹲(うずく)る

次(つ)いで防護柵(ガードレール)から下りる少年が
「雉猫(キジトラ)が潰れる」と、言う前に少女が吐露(とろ)する

「本当は怖いの」
「本当は怖くて仕方ないの」

愛した人が
愛してくれた人が自分を裏切るのが、怖い

なら愛したくない
なら愛されたくない

だからといって
誰かを傷付けていい訳じゃない

だからといって
自分を傷付けていいって訳じゃない

然(そ)うして肩を震わせる少女の傍(かたわ)ら、少年も白状する

「知ってる」

其(そ)の、少年の言葉に
涙腺(るいせん)が崩壊した少女が声を絞り出して訴(うった)える

「お母さんは!」
「お母さんは!、お父さんを愛していたのに!」

其処(そこ)迄(まで)、言って唇を噛(か)み締(し)める

立ち止まる事 等(など)ない
雑踏(ざっとう)を背景に少女は声を押し殺して泣き続ける

「お前の父ちゃんは屑(クズ)だ」

余(あま)りにもあっさり
余(あま)りにもきっぱり言い切る、少年

思わず其(そ)の顔を仰(あお)いで見つめ合う事、数分
到頭(とうとう)、笑う少年が付け足す

「否定しろよ」
「お前の父ちゃんが可哀想(かわいそう)過ぎるだろ?」

だが、少女は頭を振った
其(そ)れは其(そ)れは仰仰(ぎょうぎょう)しい程(ほど)、頭を振った

然(そ)うだ
お父さんは屑(クズ)だ

然(そ)して自分も屑(クズ)だ
然(そ)うして「にし」さんも屑(クズ)だ

結果、思い立つ
抱(かか)える雉猫(キジトラ)を少年に手渡す也(なり)
携帯電話を取り出す少女は「上司」にメッセージを打ち始める

[今までありがとうございました]
[さようなら]

全(まった)く隠す様子もない
携帯電話の画面、文面を読んだ少年が目を丸くする

直様(すぐさま)
携帯電話が呼出音を鳴らすが留守電に繋がった瞬間、切れる
然(そ)して又(また)、呼出音が鳴るが少女は出ない

出ない代わりに呼出音が途切れた隙(すき)に
少女は再(ふたた)び、メッセージを打つ

[電話には出ない]
[電話には出ないから]

見詰(みつ)める携帯電話の画面
軈(やが)て「上司」からのメッセージが表示された

[「子猫」のような君が愛(いと)おしかったよ]

知らず知らずメッセージを指で擦(なぞ)る
自分の耳に「けっ」と笑う少年の声が聞こえた

然(そ)うか
然(そ)うか、似た者同士なのか

似た者同士 故(ゆえ)に
付かず離れずなのか

似た者同士 故(ゆえ)に
憎たらしくて愛(いと)おしいのか

盗み見る目の前の少年は
雉猫(キジトラ)の喉元を撫(な)でては満足げに目を細めている

何方(どっち)が「猫」か分からない

と、笑みを浮かべる少女は思う

「上司」は浮気をするのだろうか
「上司」は又(また)、浮気をするのだろうか

喩(たと)え然(そ)うだとしても知っていて欲しい

貴方(あなた)を愛する人は
何者よりも何物よりも「美しい」と言う事を知っていて欲しい

作品名:「猫」 作家名:七星瓢虫