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「猫」

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17



「何、してるの?」

昨日同様
鼻歌混じり身支度をする同僚女性を横目に見て

顔見知り程度の同僚達に混じり事務所(オフィス)ビルを出て来(く)れば
玄関前花壇の端(はし)に腰掛ける「少年」の姿に魂消(たまげ)るより呆(あき)れた

昨日同様、件(くだん)の少年は膝の上に「雉猫(キジトラ)」を乗せている

「雉猫(キジトラ)に会いに来た」
と、言われれば頷(うなず)かざるを得ない

追い越し様(ざま)
浮き浮きで少女の肩を叩いて行く同僚女性が

「昨夜の雪辱(リベンジ)ね」

何だ其(そ)れ
負けた覚えも勝った覚えも
抑(そもそも)、勝負した覚えもない

午前中、そわそわしていた
同僚女性は待ちに待った昼食時
興味 津津(しんしん)、昨夜の事を訊(たず)ねてきたが
「彼(あ)の後は餃子を食べに」其処(そこ)迄(まで)、答えた瞬間

失礼な程、芝居 掛(が)かった仕草(しぐさ)で
頭(かぶり)を振って手の平で遮(さえぎ)るや否(いな)や

「もう!、其(そ)れより私の話しを聞いてよ!」
(何(なん)なら何時も聞いてるだろが)

案の定、バンドマンの彼氏の愚痴(ぐち)を愚痴(ぐち)り出した

華金(死語)の今日は
其(そ)の彼氏が演奏する箱(ライブハウス)へ趣(おもむ)くそうだ

何(なん)やかんや幸せそうで

溜息(ためいき)交じり同僚女性の姿を見送り
視線を戻せば少年の膝の上で眠りこける雉猫(キジトラ)は起きる気配がない

仕方なく?
玄関前花壇の端(はし)に腰掛ける少年の隣へと座る
幸せそうに眠る其(そ)の額(ひたい)を撫(な)でると不図(ふと)、思い出す

「彼奴(あいつ)、母親になったよ」

「嘘!」

少女の心中を覗いた少年が野良猫の「三毛(みけ)」の近況を語(かた)る

「嘘じゃない」
「父親が「白(しろ)」だから産まれたガキ共(ども)、全員「白(猫)」だ」

此(こ)れぞ「優性白色遺伝子」の為(な)せる業(わざ)

「皆(み)んな白猫なの?」
「皆(み)んな白猫なら名前、如何(どう)するの?」

抑(そもそも)、「三毛(みけ)」も「白(しろ)」も名前ではない
其(そ)れでも首を傾(かし)げて夕空を仰(あお)ぐ少年がぽつりぽつり、言う

「白(はく)、白(びゃく)…、卯(う)の花」

「卯(う)の花?」

と、にやにや笑う少女が付け足す

「三匹?」
「「三毛(みけ)」頑張ったね、偉いね」

「偉い」
「ガキ共(ども)の飯(授乳)が終わる迄(まで)、自分の飯じっと我慢してる」

「嘘!、彼(あ)の食いしん坊の「三毛(みけ)」が?!」

頷(うなず)く少年が心 做(な)し力を込めて答える

「彼(あ)の食いしん坊の「三毛(みけ)」が」

暫(しばら)く他愛(たあい)もない会話を続ける
少女と少年に「お疲れ様〜」と、声を掛けて行く
顔見知り程度の同僚達に混じり「上司」の姿があった

立ち上がり挨拶する
応(こた)えるように右手を挙(あ)げて最寄(もより)駅へと向かう
其(そ)の背中を身送る

と、目が合う
少年が寄越す白い目から逃(のが)れて外方(そっぽ)を向いた先

何か落としたのか
大きなお腹を抱えた女性が今正(いままさ)に身を屈(かが)めようとしていた

少女の視線を追う少年が
少女の行動より素早く、膝の上の雉猫(キジトラ)を預けて駆け寄る

然(そ)うして女性が礼を述べる頃
軟体動物と化した雉猫(キジトラ)を抱(だ)いた少女も駆け付ける

「あ!」

途端(とたん)、笑顔を歪(ゆが)める
女性が腹部を抱(かか)えるのを見て玄関前花壇へと促(うなが)す
近場に腰掛け(ベンチ)がないのだから仕方がない

ゆっくりと座り込む女性が含羞(はにか)み笑う

「ありがとう」
「少し調子に乗って歩き過ぎたみたい」

結果、如何(どう)やら腹が張ったらしい

「頓車(タクシー)、捕(つか)まえますか?」

「済(す)みません」
「お願い出来ますか?」

頷(うなず)く少年が
駅前とは反対の主要道路へと駆けて行く

確かに混雑する帰宅時ならば頓車(タクシー)乗り場で順番待ちするよりも
「流し」の頓車(タクシー)を捕(つ)まえる方が早いのかも知れない

「、大丈夫ですか?」

待つ間、自身の腹部を弱弱(よわよわ)しく摩(さす)りながら
雉猫(キジトラ)を愛(め)でる女性に居ても立っても居られず訊(たず)ねた

「、産まれて」

少女の言葉を聞いて女性が

「出産予定日は未(ま)だ未(ま)だ先なんですよ」

と、答えるが
「未(ま)だ未(ま)だ?…、ううん、未(ま)だ位(くらい)かな?」
自問自答して笑う

「こんなにもお腹が大きいのに?!」

我ながら配慮(デリカシー)がない
と、慌(あわ)てて謝罪する少女に女性は気にする風もなく答える

「「十月十日」とは言うけれど」

「「十月十日」?!」

「然(そ)う、実際は九ヶ月と少し位(くらい)」
「其(そ)れでも此(こ)の子は未(ま)だ、お腹の中よ」

「大変、ですね」

率直な感想だった
実際、腹が膨(ふく)らみ出すのは妊娠五ヶ月 位(くらい)からだが
其(そ)れでも少女は素直に思った

「うん、大変」
「妊娠初期の頃は「悪阻(つわり)」も酷(ひど)かったし」

「「悪阻(つわり)」?」

「然(そ)う、全(まった)く御飯(ごはん)が食べられなかった」

「そんなの死んじゃう」

「然(そ)う!」
「本当に然(そ)う!」

当時を振り返り力説したは良いが
抱(かか)える腹部も力(りき)んでしまったようで女性が大きく息を吐(つ)く

直様(すぐさま)、其(そ)の腰を摩(さす)る
少女の行動に「ありがとう」と述(の)べつつ女性が続けた

「でも、私が死んじゃったら此(こ)の子も死んじゃうから」
「頑張って食べたの」

「、食べられた?」

「本(ほん)の少し」
「本当に本(ほん)の少し」

「其(そ)れでも頑張れない時は「裏技」」

「「裏技」?」

「病院で「点滴」を打ってもらったの」

其(そ)れこそ「仕様(しよう)もない」とでも〆(しめ)る女性だったが
其(そ)れ程、大変な状態だったのだ

だから

「今は?」
「今は平気なんですか?」

尋(たず)ねずには居られない
心配げな様子の少女に女性がにかっと笑った

「今は食欲旺盛」
「逆に先生に「食べ過ぎですよ!」って注意されてるの」

故(ゆえ)の散歩だ
故(ゆえ)の散歩がてらの「運動」だ

然(そ)うして少女と笑い合う
女性が又(また)しても「あ!」と、声を上げる

「蹴(け)ってる!」
「凄(すご)い蹴(け)ってる!」

何が何だが分からず当然、身構えた
少女の手を取る女性が自身の腹部に宛(あ)てがう

「!ほら!」

恐恐(こわごわ)、感じる
確かに少女の手の平にぽこぽこ当たる「もの」がある

其(そ)れは「キック」なのか
其(そ)れは「パンチ」なのか

「此(こ)の子も笑ってるみたい」

女性が少女に、雉猫(キジトラ)に頬笑む
其(そ)の頬笑みに少女は笑い返し、雉猫(キジトラ)は欠伸(あくび)を返した

作品名:「猫」 作家名:七星瓢虫