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「猫」

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で、如何(どう)するの?

此(こ)のまま帰るの?
此(こ)のまま御飯(ごはん)でも食べに行くの?

此(こ)のまま

少女は先を行く少年に続いて
中華料理を提供する連鎖(チェーン)店へと入店する

「炒飯(チャーハン)と餃子、お前は?」

見もせず決めた少年は
向かい側の長椅子(ソファ)席に腰掛ける少女に献立(メニュー)表を差し出す

「餃子、と天津飯」

此方(こちら)も大して見もせず決めたが
場面(タイミング)良く
隣の席に運ばれた「天津飯」が美味しそうだったのだから仕方がない

目で追う少年も心を揺さぶられた様子だが
最終的には共有(シェア)すれば良いだけの話し

お冷(ひや)を食卓机(テーブル)に置く店員に注文を告げる序(つい)でに
「お手洗い、何処(どこ)ですか?」と訊(たず)ねる
少年が椅子から立ち上がる

何時(いつ)から待っていたのか知らないが
如何(どう)やら冷えたらしい

献立(メニュー)表を
献立(メニュー)衝立(スタンド)に戻し掛けながら
少女は「彼(あ)の後(あと)」の事を思い出す

彼(あ)の後(あと)?
彼(あ)の後(あと)は当然、何もなかった

「世話になっているのは「自分」の方だ」
等(など)と、上司が宣(のたま)う事もなく(下品だな、おい)

「では、仕事が残ってるんで」

事務所(オフィス)ビルに引き返す

其(そ)の背中に「お先に失礼します」と声を掛ける
同僚女性は自分に向き直るや否(いな)や

「お互い、楽しみましょう!」

満面の頬笑みで
ブンブン手を振りながら此(こ)の場を退場して行った

否定も肯定もする気はないが
自分の隣で呑気(のんき)に手を振り返す少年にも多少、苛(いら)ついた

借りてきた猫 所(どころ)か
此奴(こいつ)は幾重(いくえ)にも猫をかぶる

自分相手には無愛想、極(きわ)まりないのに

如何(どう)にも腹が立ってきた結果
席に戻って来た少年に献立(メニュー)表片手に

「貴方(あんた)が誘ったんだから、貴方(あんた)の奢(おご)りよね?」

と、別腹(デザート)の杏仁豆腐を追加注文した

抑(そもそも)、同僚女性も同僚女性だ
何が「お互い、楽しみましょう!」なんなんだ?

否定も肯定もする気はないが
大蒜(にんにく)マシマシの餃子を食べた後で
何を如何(どう)、楽しむんだ?

其(そ)れこそ下衆(ゲス)の勘繰りだ

内心、悪態を吐(つ)くも
神妙な面持ちで向かい側の席を見遣(みや)れば
自分を見詰(みつ)める目と目が搗(か)ち合った瞬間、少年が笑った

其(そ)れは滅多(めった)に御目に掛かれない
「笑う猫」に良く似た、微笑みだった

作品名:「猫」 作家名:七星瓢虫