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「猫」

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「何、してるの?」

八時四十五分 出社
九時     勤務開始
十二時    昼休憩
十三時    休憩終了
十六時    退社

一日八時間
完全週休二日制、正規雇用
高校中退の中卒の自分には申し分ない職場だ

浮き浮きで今夜のデート計画(プラン)を語り出す
同僚女性を横目に見て職場を後(あと)にする

然(そ)うして
顔見知り程度の同僚達に混じり事務所(オフィス)ビルを出て来(く)れば
玄関前花壇の端(はし)に腰掛ける「少年」に吃驚(びっくり)した

思わず二度見する、件(くだん)の少年は膝の上に「猫」を乗せている

何処(どこ)ぞの(野良猫)雉猫(キジトラ)だ?

自分と目と目が合う也(なり)
雉猫(キジトラ)は悠然(ゆうぜん)と伸びした後
膝の上から降りると事務所(オフィス)ビルの隙間へと消えていく

唯唯(ただただ)、呆然(ぼうぜん)と見送る
自分の背中に「お疲れ様〜」と、声を掛けて行く
同僚 等(ら)の好奇心丸出しの視線が痛い

良くも悪くも貴方(あんた)は目立ち過ぎる

「猫」相手にも
「人間」相手にも

確かに彼(あ)の日以来、気不味(きまず)くなった
確かに彼(あ)の日以来、自分は気不味(きまず)くなった

其(そ)れでも
一人(シングル)寸法(サイズ)の寝台(ベッド)
自分の背中に、背中を付けて横になる少年が如何(どう)いう心境だったのか
自分には知る術(すべ)がない

其(そ)れでも
好い加減、罪悪感ではないが
洋菓子でも買って帰ろうか等(など)、考えていた今日 此(こ)の頃

其(そ)れなのに
貴方(あんた)も会社に迎えに来る程(ほど)、気不味(きまず)かったの?

で、如何(どう)するの?

此(こ)のまま帰るの?
此(こ)のまま御飯(ごはん)でも食べに行くの?

此(こ)のまま

「大丈夫?、知り合い?」

聞き慣れた声に振り返れば
同僚女性に連(つ)れて来られたのか、其処(そこ)には「上司」の姿があった

「絡(から)まれてるんじゃないか、って」

上司の言葉に
上司の背後に身を隠す女性同僚が其(そ)れは大きく頷(うなず)く

文字通り、机を並べる同僚女性とは
偶(たま)に昼食を一緒にする仲だが飽(あ)く迄(まで)、会社内での付き合いだ

専(もっぱ)ら、バンドマンの彼氏の愚痴(ぐち)を聞かされる日日
明日(あした)も明日(あした)で例に漏(も)れず
今夜のデートの愚痴(ぐち)を聞かされる予定だったが
明日(あした)は明日(あした)で自分の事を根掘り葉掘り聞かれる悪寒(予感)

其(そ)の前に問題は別にある

「幼馴染(おさななじみ)です」
「今、上京の準備で此方(こちら)に来てて」

其(そ)の調子
其(そ)の調子だ、自分

此(こ)のまま淀(よど)みなく言え

「自分の部屋に泊まってます」

瞬間、目の前の上司が
片側の唇の端(はし)を器用に吊(つ)り上げ笑う

「ああ、彼が「猫」か」

流石(さすが)、察しがいい
我が社切っての出世頭だと聞いている

当然、自分よりもクレバー(英語?)で
当然、自分よりもスマート(何故、英語?)で

当然、自分みたいな小娘が引っ懸(か)かるのも無理はない

父親は?
父親は如何(どう)だった?
自分の父親は「小娘」を引っ懸(か)ける程(ほど)の男だったか?

娘の自分には仕事一筋の「父親」にしか見えなかった

然(そ)うして迎え撃つ「少年」は(野生の)勘がいい

一度 切(き)り
集合住宅(アパート)迄(まで)、自分を送ってくれた
「上司」を見掛けたとはいえ、夜だった
自動車の「男性」が今、対峙(たいじ)する「上司」と認識するのは難しい筈(はず)

気怠(けだる)そうに立ち上がる少年が頭を下(さ)げる

嫌味でも何でもない
「片田舎」の爺(じじ)婆(ばば)相手に暮らせば礼儀は欠(か)かせない

多少(たしょう)
慇懃無礼(いんぎんぶれい)な態度は否(いな)めなくもない

「どうも、「猫」です」
「此奴(こいつ)が何時(いつ)もお世話になっています」

等(など)と挨拶するもんだから
上司の背後に身を隠す同僚女性が真顔で呟(つぶ)いた

「「ねこ」君?」
「随分(ずいぶん)、変わったお名前なのね」

何(なん)なら知らないとはいえ「上司」を連れてきた
此(こ)の同僚女性の「天然」具合が一番、侮(あなど)れないのかも知れない

作品名:「猫」 作家名:七星瓢虫