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徒桜

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8



遠目、窓越しの彼女が杯(カップ)を口元に運ぶ
同調(シンクロ)する自分も持ち手を掴むと杯(カップ)を傾ける

向かい合う、女性も杯(カップ)に手を伸ばすが口を付ける気は無いらしい
一心に其の中身を覗き込んでいるのか、俯いたままだ

「何」を話しているのだろうか
「何」を話していたのだろうか

決して閑(のど)やかな、午後の紅茶(アフタヌーンティー)では無さそうだ

案の定、「彼女」と「女性」の御茶会は直ぐに散会する
伝票片手に窓際の席を後にする彼女を見止め、縁側(テラス)席を立つ
自分も給仕係(ウエイトレス)を呼んで会計を済ます

「氷の女王」の、名に相応しく
肩で風を切って歩く彼女の姿を目で追いつつ
点滅する歩行者用信号機に急かされて足元、路面表示を跨いでいく

遠く「誰か」の泣き出す声が聞こえた

歩みを止める
霞の空を仰ぐ春日和

蕾が綻ぶ木木に憩う、野鳥の囀り

視界の片隅
「誰か」の後悔と共に揺れながら昇っていく、風船

慌てて駆け出す、擦れ違う肩は誰も彼(かれ)も幸せそうなのに
何故に自分は「不幸」探しをするのだろう

唯、信じれば良いのに

「勇者(バカ)」なら「勇者(バカ)」らしく
「氷の女王」の事だけを、言葉だけを信じれば良いのに

息を弾ませる自分を余所に
駅前に向かう彼女の足取りに「電車に乗るのか?」と、推察するも
其の手前、宿泊施設(ホテル)の玄関扉を潜った瞬間

「?!はい?!」

と、心の中で叫んだ
つもりだが、若(も)しかしたら「声」に出していたのかも知れない

「何事か?」と、振り返る「名無しの群衆(モブ)」を掻き分け
宿泊施設(ホテル)の、玄関広間(ロビー)に飛び込む

「「仮に」だよ」
「「仮に」浮気を疑った所で」

「「氷の女王」が御前さん以外、何処の何奴(どいつ)を相手にするよ?」

今正に自分の目の前、何処ぞの男性と向かい合う
彼女の姿に、同僚男性の揶揄(からか)う言葉が頭の中を駆け巡る

「氷の女王」の、御相手に相相応しい

端麗な、其れでも彼女とは異なる「冽(れつ)」が垣間見える
男性が自分の視線に気が付いたのか、笑みを浮かべた顔が此方を向く

其の、冷眼に射抜かれる

宛(さなが)ら「氷の王子」様だ
「勇者(バカ)」の存在等、一瞬で消し飛ぶ程の存在感だ

「氷の王子」様の目線に促がされて振り返る
「氷の女王」が自分の姿を捉えるや否や男性同様、「冽」を湛えた

「何だ何だ」

随分、御無沙汰だった
「氷の女王」の「冽」に場違いにも失笑してしまう

彼(あ)れは彼女に声を掛けた時
彼(あ)れは彼女に「御断り」を告げられた時

彼(あ)れは彼女に初めて触れた時、幾度と無く当てられた「冽」

其れすら愛おしかった

「、何で過去形?」

今も愛おしいだろう
今でも愛おしいだろう

傍目にも挙動の可笑しい(当然だろ!)、自分の立場を察した
未(いま)だ、笑い顔の男性が此れ見よがしに彼女の耳元で私語(ささや)く

「部屋で待ってる」

聞こえる筈等、無いのに
当たり前のように聞こえた気がした

其の上、御丁寧にも「氷の女王」の耳朶を甘噛みした
「氷の王子」様は自分に向けて其れは其れは艶気十分、微笑む

手を「ぱくぱく」、別れの挨拶を噛ます
昇降機(エレベーター)に乗り込む男性を見送る自分は何なんだろうな

何なんだろうな、序(つい)で?に
「氷の女王」然(ぜん)と、自分と対面する彼女に説明を乞うとしよう

「「今北産業」」

初手、彼女が知らない自分の「一面」

「小者」で
「御調子者」で

其れでも「勇者(バカ)」故、「自分」を語るのは憚(はばか)られる

伝わらないなら
伝わらないままで構わない

「「兄」です」
「彼を愛しています」
「貴方とは結婚出来ません」

後手、自分が知らない彼女の「一面」

嬉しいやら悲しいやら
真逆(まさか)、伝わるとは思わなんだ

然(そ)して「三行」全て、「痛恨の一撃」だ

如何にも立って居られない結果
情けなくも其の場に座り込む自分に寄り添う彼女が微笑む

其れは其れは儚げで
其れは其れは泡沫(うたかた)の笑みを浮かべる、彼女

言うに事欠いて

「有難う」
「本当に私の事、好きなのね」

「何だよ其れ?」

空笑(そらわら)いで吐き捨てた
瀕死状態の「勇者(バカ)」に容赦無く、凍える吐息を吹き掛ける
「氷の女王」が慈悲深い振る舞いで手を伸ばす

止(や)めてくれ
止(や)めてくれよ

其れでも自身の頬に触れる
其の手の平に唇を寄せる自分は何処迄も女女しい

「貴方は「私」を助けてくれた」

意味が分からない

貴女は「氷の女王」だ
貴女は鉄壁の構えを誇る「氷の女王」だ

誰の、何の「助け」がいるんだ

「ずっと思ってた」

「「私」を助けてくれないのは「私」が悪い子だからって、ずっと思ってた」
「だから良い子でいようって、ずっと思ってた」

「氷の女王」と、揶揄(やゆ)されようが構わない
「氷心」が自分を防御する、唯一の「装備」ならば構わない

其れなのに自分の目の前に現れた、「勇者(バカ)」一人

到頭、不謹慎にも笑い出す
彼女を非難めいた眼差しで見遣るも、何処吹く風なのか

「私も貴方の事、本当に好きよ」

其の言葉を切っ掛けに破れかぶれ
頬に触れる手に触れようとするも触れる事無く擦(す)り抜けた

「氷の女王」が矗(すっく)と立ち上がる

「でも、さようなら」

冷冷(れいれい)、「勇者(バカ)」に今生の別れを告げれば
振り返る事無く、肩で風を切って去って行く

何も彼(か)も可笑しい
何も彼(か)も意味が分からない

「最悪の結末」で良いのか?!
「最悪の結末」で納得出来るのか?!

「無くも無いな」
何時かの同僚男性の言葉が「天の声」の如く、降り注ぐ

結局、有乎無乎(なけなし)の体力(ライフ)すら零(ゼロ)だ

作品名:徒桜 作家名:七星瓢虫