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徒桜

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「危(やば)い危(やば)い」

目の前の賃貸集合住宅(アパート)
本日、休日の約束(デート)が中止(キャンセル)にも関わらず
余程の衝撃(ショック)だったのか

気が付けば
彼女の住む部屋迄、迎えに来ている事実に我ながら愕然とした

中止(キャンセル)された以上、大人しく帰るしかない
等と思いつつも「間(あわ)よくば会えないかな?」と、往生際悪く
賃貸集合住宅(アパート)、玄関口(エントランス)に足を踏み入れるや否や
前方の、昇降機(エレベーター)の階数表示板が点灯した

階数を刻む、其の数字を見止めた途端

(何故か)回れ右して賃貸集合住宅(アパート)横
隣接する雑居な建物の隙間へ、ぎこちなく身を潜める

「、彼女だ」

何の確証も無く、然(そ)う確信した

「、彼女だ」

玄関口(エントランス)
出入口扉を押し開く、彼女の姿を目で追い掛ける

事此処に至り
許されない行為だが到頭、実力行使に出る覚悟を決めた

「尾行」と言う、選択肢

情けなく等、無い
選択肢が有る事自体、贅沢な事なんだ

と、訳分からん持論を展開している間にも遠ざかる、「背中」

幾度と無く追い掛けた
学生時代、幾度と無く追い掛けた、「背中」

紛う方無き「氷の女王」に(勝手に)付き添い、辿り着いた茶店

足を止めて見送る、嵌め殺し窓の向こう
携帯電話を操作し出す彼女が店内を見回した後(あと)、目を止める
窓際席、控え目に立ち上がり出迎える女性が一人、居た

時機(タイミング)良く、歩行者用信号機が青色を点灯する
人波を縫うように小走りで横断歩道を渡った先、向かい側の茶店に向かう

入口(ポーチ)階段を駆け上がる、飛び込む縁側(テラス)席
椅子の背凭れに手を掛けた瞬間、対の椅子を引く女性と顔を見交わす

「済みません」

自分の謝罪に朗らかに微笑む
女性が快く、縁側(テラス)席を譲ってくれた事に感謝する

御陰で「彼女」と「女性」の様子が良く見えた

斯うして、絶好な縁側(テラス)席に陣取る
自分に給仕係(ウエイトレス)が御冷を手に挨拶するも

「可可茶(ココア)、ください」

余所見(よそみ)をしながら注文する自分は嫌な客だろうが勘弁して欲しい

向かい側の縁側(テラス)席
腰掛けた先程の女性が「くすり」と、笑う姿を視界の端で捉える

「男」では無かった
「逢い引き」では無かった

当然、安堵した筈なのに何故か腑に落ちない

抑(そもそも)、自分との約束(デート)を
中止(キャンセル)して迄、会う相手なのだろうか?

其れなら其れで
「女性」が相手だろうが多少、焼き餅を焼いてしまう (。-`ω-)

「友人」?
友人にしては遠目にも相手の女性は年上に見える

服装といい
雰囲気といい

「旧友」?
旧友にしては遠目にも二人は余所余所しい気がする

不意に声を掛ける給仕係(ウエイトレス)が
縁側(テラス)席の円卓(テーブル)に置いた可可茶(ココア)の杯(カップ)を
礼を言った後、何と無しに眺めた

今更、気が付く

自分は「彼女」の何を知り
自分は「彼女」の何を知らないのか

一目惚れは最強で最弱

「彼女」の全てを知った所で
「彼女」の全てを知った気になるだけだ

「兄」の存在を知らない
「友人(旧友)」の存在を知らない

其れでも知らない「彼女」を知る日日は歓楽此の上無い

「桜の樹の下には」

「「私」が埋まっている」
「「少女時代」の「私」が埋まっている」

波打つ敷布に顔を埋めて呟く

其れは其れは儚げで
其れは其れは泡沫(うたかた)の笑みを浮かべる、彼女

「少女時代」が恋しいのか
「少女時代」が嘆かわしいのか

「其処」に踏み込む勇気が無い自分は何処迄も情けない

「大人になった「貴女」は素敵だよ」

其れでも何とか此の想いを言葉にする
然(そ)うして此処ぞとばかりに縋る想いで文章を引用する

「「でなければあんなに見事に咲くなんて信じられない」」

徐に身体を起こす
目を丸くする彼女が向かい合う自分の顔を見上げた

否否(いやいや)、まじまじと見詰められると恥ずかしいが折角だ
もう一度、言わせて欲しい

「「少女時代」を経て」
「大人になった貴女は信じられない程、綺麗だよ」

言い切る也、照れ隠しに目の前の身体を抱き寄せる

自分の頬と彼女の頬が触れ合う
赤面を見られずに済むが「熱」で紅潮している事は丸分かりだ

まあ、いいか

等と、開き直る自分の耳元で

「毎年、貴方の為に「花」を咲かすわ」
「毎年、貴方の為だけに「花」を咲かすわ」

剽軽(ひょうきん)にも「桜の精」の如く語り出す
彼女が愛おしくて堪らない

作品名:徒桜 作家名:七星瓢虫