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徒桜

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「?!浮気?!」

一斉に職場の視線を集めた
向かい側の事務机、大声を張り上げた同僚男性に
思わず、ペン回し(浪人回し)をしていた筆(ボールペイントペン)を投げ付ける

慌てて謝るも周囲の目線を避けるように肩を竦めて呟く

「声がでけえ、よ」

「悪い悪い」と、自身の事務机に転がる
自分の筆(ボールペイントペン)を落ちる前に拾うと差し出す

同僚男性である、「此奴(こいつ)」は大学の同期だ

同期(らしいの)だが入学早早、「氷の女王」に夢中になった自分には
他の学生然り、接触(コンタクト)が有ろうが無かろうが全く記憶に無い

新入社員歓迎会二次会、居酒屋の座敷

御互い「初対面」
御互い「顔」も「名前」も知らない

自分の隣に腰を下ろす同僚男性である、「此奴」は「僕」を知っていた

「此れは此れは」
「彼(あ)の「氷の女王」の氷心を見事に射止めた、「勇者」様だ」

頗(すこぶ)る、芝居掛(か)る↑上記の台詞を吐いた後
「御前さん、大学じゃあ「超」有名人だったぞ(笑)」と、にやにやしやがった

「勇者」とは若(も)しかしたら褒め言葉では無いのかも知れない

途端、背後から不意打ちを食らうかの如く
義母の鈴を転がすような笑い声が聞こえてきた(気がした)

明らかな幻聴にも関わらず
真顔で振り向く自分と真面に目が合った女性社員が若干、戦く
「申し訳無い」の謝意を込めて手刀(てがたな)を切る

「然(しか)し浮気は無いだろう、彼(あ)の「氷の女王」が」

声を落とし、自身の事務机に身を乗り出す
同僚男性が「氷心」と、比喩したのは決して大袈裟じゃない

彼女は冷たくも、清らかで凛凛(りり)しい

「「仮に」だよ」
「「仮に」浮気を疑った所で」

「「氷の女王」が御前さん以外、何処の何奴(どいつ)を相手にするよ?」

多少、揶揄(からか)い口調は否めないが有難く、御高説を承る

何(ど)れ程、鉄壁の構えを誇る「氷の女王」

誰も彼も陥落は出来ないと諦めていた
誰も彼も遠巻きに畏れ多い、清高な姿を眺めていた

其処に現れた「勇者(バカ)」一人

「?!馬鹿?!」
「?!御前、「馬鹿」って言ったか?!」

「小者」故
「馬鹿」と言う言葉に過剰に反応する自分が情けない

愈愈、自身の事務机に腰を掛ける
同僚男性が文字通り、上から目線で畳み掛ける

「「馬鹿」だろ?」
「「女」なんか何奴も此奴も可愛いのに、選りに選って「氷の女王」?」

基本、「氷の女王」は女(おんな)子どもには優しい
反面、近付く男達には容赦無く、凍える吐息を吹き掛ける

「其の理由が何だって?」

「ぐぬぬ」と、歯を噛むが無駄に意地を張っても仕方が無い
抑(そもそも)、此奴に相談したのは自分だ

其の時点で自分は正直に答えなければならない

「、一目惚れ、です」

「馬鹿以外の「何者」でも無いだろ?!」

此処ぞとばかりに大袈裟に呆れ返る、同僚男性
到頭、事務机に突っ伏する自身の後頭部に笑い声が降り注ぐ

「まあ、一目惚れって最強だよなあ」

其の姿を追う彼女以外、見えない
其の名前を呼ぶ彼女以外、愛せない

馬鹿だ
馬鹿だが本気でそう思っていた

其れならば「浮気くらい、許容範囲内だろ?」
等と、身も蓋も無い事を考えてしまう

確かに一目惚れは「最強」だが、同時に「最弱」だ
其れこそ惚れた弱みで何も彼(か)も許してしまう

でも、然(そ)う出来ない事も有るだろ?!

兎にも角にも彼女実家から戻って来て此処数日、彼女の様子が可笑しい

電話も電子郵便(メール)も素気無(すげな)い(毎度の事)
仕事終わりに落ち合う(デート)も素気無(すげな)い(毎度の事)

「・・・ ・・・」

否否(いやいや)、今は日頃の不満?(被虐心万歳)は捨て置け
決定的な、「疑惑」が有るだろう?!

此方の両親への「結婚挨拶」、訪問の打診すら

「暫く、落ち着いて会える日が無い」

との理由で延期された日には「疑惑」を持ちたくなる

突っ伏したまま一向に受け取る気配の無い
手持ち無沙汰、自分の筆(ボールペイントペン)を自身の鼻の下に挟み込む

「てか、「浮気」を疑う以上、相手には心当たりでもあんの?」

男性同僚が家鴨(アヒル)口で訊く

「有ると言えば、有る」
「無いと言えば、無い」

下を向いた途端、筆(ボールペイントペン)を落とす(上唇を鍛えろ!)
同僚男性を上目遣いで見遣る

言うべきか言わざるべきか
一時、思い悩むも斯うなったら破れかぶれだ

恥も外聞もかなぐり捨てる

「彼女の、お「兄」さん」

「?!?!はあああ?!?!」

「声がでけえ、よう」

一応、諫(いさ)めるが当然の反応だ
自分自身、情けなくて泣き出したいくらいだ

「でかくもなるだろう!」
「御前、自分が何言ってんのか分かってんのか?!」

大声(たいせい)を発するも直ぐ様
「つか、兄妹(きょうだい)居たの?、初耳なんだけど」
普通に訊(たず)ねてきた同僚男性に「俺も」と、普通に返したら
何とも言えない顔をしたが此奴は言いたい事は必ず、言う

「御前、「変態」?」

「浮気」も有り得無いのに
「兄妹(けいまい)相姦」等尚の事、有り得無い

破廉恥(はれんち)で済みません

「何よ?」

「理想の王子(兄)様が身近に居た結果」
「愚民(近付く男達)等には目も呉れなかった、って事?」

御察し良く「兄弟愛(ブラザーコンプレックス)」を理解した同僚男性が
自身の顎に手を当て「無くも無いな」と、呟いた

「変態」なら「変態」で構わない
其れでも其れ以外、自分には思い付かない

義父の言葉が頭を擡(もた)げる

「御前は、お「兄」ちゃん子だから」

「浮気」と表現したが
「浮気」とは違うのだろう

「兄」が理想で
其れでも自分との「結婚」を考えてくれた、「氷の女王」

「心変わり」を疑いたくない
「心変わり」を疑った所で自分は後戻り出来ない

其の姿を追う彼女以外、見えない
其の名前を呼ぶ彼女以外、愛せない

馬鹿だ
馬鹿だ

如何にも頭を抱える自分の耳に同僚男性の溜息が聞こえた

然(そ)うして、自分の頭部を筆(ボールペイントペン)で執拗に突っ突くので
降参して顔を上げれば、腕時計に目を落として提案する

「徐徐(そろそろ、)昼休みだ、何か食おうぜ」

作品名:徒桜 作家名:七星瓢虫