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徒桜

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早速、八朔を剥き始める自分
其の不器用さに案の定、「口」も「手」も出し始める義母に
到頭、呆れ顔で苦笑する彼女が「今後の話し」を餌に誘い出す

見事、食い付く義母も最高だが
何や彼(か)や妥協点を模索する彼女は矢張り、最高だ

結論、「結納」は仲人は立てず両家のみで行う、「略式結納」

元元、結婚式を挙げない時点で「媒酌人」も不要
然(しか)も「招待する恩人も友人もいない」と、言い切った
彼女の言葉を借りるのならば、そうなる

「結納品」の遣り取りはせず
此方側は「結婚記念品」である、婚約指輪を用意する
彼方側は

「「御返し」は時計にするの?」

「時を共に刻む」意味合いで時計が一般的らしい

「成る程」相槌を打ちつつも八朔の薄皮を剥き続ける
自分の隣、義母の言葉に意外にも彼女が助言を求めた

「「何」が良いと思う?」

後後、「口」出しされるなら先に出させる「戦法」だ
然(そ)うとは露程も思わず

「「時計」が良いと思うわ、うん」

意気揚揚、答える義母に
鰾膠も無く「参考にする」と、吐き捨てるや否や
自分に「御希望は?」等、耳語(じご)る彼女が大好きだ

会場選びに関しては、結納後の両家食事会も兼ねて
都内の宿泊施設(ホテル)を提案する彼女に

「此方の実家は横浜だが御両親は遠路遙遙、大変ではないか?」

形だけでも伺うが直ぐ様、思い返す
都内ほど宿泊も交通機関も諸諸、円滑に運ぶ場所は無い

「楽しみね、パパさん」

SNSを利用している事を考慮すれば一目瞭然
明らかに「東京観光」を目論(もくろ)む義母は既に御機嫌だ

是非是非、映(ば)える映像を撮影(ゲット)してください

浮き浮きで賛同を求める義母に
深く頷きながらも義父が「緊張するな」と、零す

頗(すこぶ)る、御二人の馴れ初めが気に掛かる(笑)

漸(やっ)と剥き終えた八朔を得意満面で差し出す
自分に礼を述べて「半分こ」と、勧める彼女に義母が言い掛ける

「其の前に彼方様への御挨拶、」

刹那、文字通り「眉が上がる」
其の心情が分からない訳でも無いが、どうか穏便に御願いします

「勿論、(打診後)一箇月前後に訪問を予定しています」

慇懃無礼に返答した瞬間、「随分、根に持つのね」
又、余計な事を抜かして(笑)両頬を膨らませて不貞腐(ふてくさ)れる
義母を横目に彼女は義父に向き合う

「「兄」さんの事なんだけど」

「?!はい?!」

大袈裟に聞き返す自分に鸚鵡(おうむ)返しする、彼女

「?はい?」

否否(いやいや)、「?はい?」じゃないな
「兄」さんの存在自体、「寝耳に水」なんだな?

「其れがね」
「お「兄」ちゃんね、帰って来てるのよ」

自分の当惑を察する、義父の制止も易易
全ての攻撃を「効果は今一つ」に抑え込む義母が会話に割り込む

まあ良い

彼女が何も語らない分、義母には大いに語ってもらおう
と、言うより「トレーナー」然(ぜん)の義父が手際良く誘導した結果
或る程度、「兄」さんの情報収集が出来た

彼女には略「海外出張中」の、歳の離れた「兄」さんがいる

彼女同様、都内の大学に進学した後(のち)に就職
結婚適齢期を迎える独身貴族(死語?)
仕事で多忙の為、盆正月でも会う機会が少ないらしい

故に「紹介し忘れた」は有り得無いだろう?!

今日の「結婚挨拶」
此の席にも呼んだが当然、急遽過ぎて辞退されたそうだ

「!!そうそう!!」

不意に手を打つ

「!!お「兄」ちゃん今、御付き合いをしている女性がいるのよ!!」

其れ程、待ち侘びた春なのか
「!!然(しか)も結婚前提で!!」跳び上がらんばかりに喜ぶ
義母に「へえ、」と、答える彼女は無表情だ

何だ何だ、其の「虚無」顔は
余りに露骨過ぎて止せば良いのに深追いしたくなる

将来、義理の兄と成り得る、お「兄」ちゃんの話しでは
御互いの事情とやらで両家への挨拶予定は未定との事だった

其の、理由の「一つ」なのか
此処一番、「兄」さんの情報が義母の口から語られる

「御相手の方、御子(おこ)さんがいるのよ」

「え?」

「虚無」顔が一気に崩れる
目を剥く反応に義母が大仰(おおぎょう)に頷いた後、楽し気に笑う

「ねえ、驚くわよね」

御相手の女性は、「バツイチ子持ち」
偏見を持つ気は無いが「初婚」「長男」の、お「兄」さんは勇者か?!

幾分、吃驚(びっくり)した自分の横で彼女が言い出す

「嘘でしょう?」

「ええ?」

今度は義母が目を丸くする

「嘘嘘」

「止(と)めてよ」
「止(や)めてよ」

其の言葉に
其の様子に自分は違和感を覚えた

故意なのか
過失なのか

今日の今日迄、知らなかった「兄」の存在
後(のち)に義父が提示した「答え」は納得のいく「モノ」だった

だが

後(あと)になって、其の「答え」は納得のいく「モノ」では無くなった

仕舞いには首を傾げる義母が

「でもね、お「兄」ちゃんも良い歳なのよ」

未だ三十前後なら需要が有ると思うが
御両親、彼女を参考にしても容姿に問題が有りそうにも思えない

「ねえ?、パパさん」
等と、義父に話しを振るも返事を待たない義母が付け足す

「御互い大人だし」
「御互い真剣な御付き合いなら勿論、賛成するわよ」

「!!「御義母」さんも素敵だけど、「御祖母」ちゃんも素敵よね!!」
と、宣(のたま)う義母は、お「兄」さん以上に「勇者」だ

「、嫌だ」

確かに呟いた
確かに彼女は呟いた

彼女自身、気が付いていないのか
尻目に見遣る自分に義父の宥めるような声が耳に響く

「御前は、お「兄」ちゃん子だから」

其れは「過去形」なのか
其れは「現在進行形」なのか、何方でも良いか

「一人っ子」の自分には言葉だけの、世界だ

途端、義母が其れは其れは目を細める

「本当は(今日の席で)、貴女に会いたがっていたのよ」

稍(やや)、俯き加減に

「そう、ね」
「何時又、出張に行くか分からないものね」

「其れがね、「出張」関係も減らすらしいのよ」

「、減らす?」

小さく訊(たず)ねる、「氷の女王」に
「元気出せよ」と、気安く言えない自分の不甲斐無さが殆(ほとほと)、疎ましい

「仕事とはいえ一月(ひとつき)の半分以上、海外出張してたらね」
「御相手さんにも呆れられちゃうものね」

「でもね、心配だったのよね」
「「海外」と言っても余り治安の良い地域じゃなかったしね」

最早、相槌すら打たない彼女の代わりに
義両親公認、婚約者の自分が一肌脱ぐ機会(チャンス)だ

「海外出張って、(何方に?)」

会話を広げようと助力する自分に目も呉れず

「!!頂いた野沢菜漬けがあったの!!」

「!!御茶請に出すわね!!」声高らかに言う也
再び、立ち上がる義母の背中を見送る様子に義父が小声で告げる

「「頂いた」と言っているが、本当は彼女の自家製なんだ」

何だ其れ
滅茶苦茶、可愛いじゃないっすか

食べる前に「!!美味(うま)いっす!!」て、言っちゃいそうだ

作品名:徒桜 作家名:七星瓢虫