小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

徒桜

INDEX|4ページ/22ページ|

次のページ前のページ
 

4



一段落(いちだんらく)がついたのか

湯呑茶碗を口元に運ぶ彼女の横で
漸(ようや)く、自分も「東京銘菓」に有り付けると思いきや

「私はついつい、「口」も「手」も出しちゃうのよねえ」

先程の話題を続けるように語り出す
義母の言葉に思い当たる彼女が即座に半目を呉れる

其の、暗雲垂れ込める雰囲気に嫌な予感しかしない

「自覚、あったんだ?」

初手、「氷の女王」の攻撃

能面顔で問い掛ける彼女の口調は非情だ
思えば此れは「攻撃」では無く「防御」なのかも知れない

「攻撃」は最大の「防御」、逆も然り?

「そりゃあね」、突として声の調子を高くする義母も
「そりゃあ、多少はね」萎れて素直に彼女の意見に同意する

だが、「効果は今一つ」のようだ
受け流す刀を返すや否や、炬燵机に嬉嬉として身を乗り出した

「「結納」は?」
「「結納」は流石に、」

内心、何が「流石」なのか分からないと突っ込む自分

彼女の当然、「?!舌の根も乾かぬ内に此れか?!」
と、目を剥く其の様子に不服ながらも大人しく退陣すると見せ掛けて

「何だ、詰まらないの」

言うに事欠いて
捨て台詞を吐く義母に多分、悪意は無い

紹介されて数時間
浅くではあるが「為人(ひととなり)」を理解した気でいた

無視(スルー)出来ない事も無い
以前に義母の「性癖」が癖になりつつある自分が能天気なのか

突如、隣に座す彼女が熱(いき)り立つ

「詰まらない?」
「自分の好き勝手に出来ない事は詰まらない?」

「??あれ??」
此の展開は急過ぎないか

「如何いう意味?」

笑顔を絶やさず聞き返す義母が地味に怖い
其れも御構い無しなのか、彼女の「防御」を解いた「攻撃」が続く

「「今日の事」」
「「今日の事」だって然(そ)ういう事だって、自覚してるでしょう?」

今日の「結婚挨拶」

彼女は御両親に「一箇月前後に」と、打診していたにもかかわらず
義母の「?!紹介したい男性(ひと)?!」「!!今直ぐ、紹介して!!」
との御達しの御陰(?)で現在、自分達は此処(彼女実家)にいる

突っ撥(つっぱ)ねる事も出来ただろうに
戦闘(バトル)を好まない「氷の女王」は唯唯、「小者」の自分に頭を下げた

彼(あ)の時の彼女は殊更(ことさら)、可愛かった

可愛くて
可愛くて

自分自身、気付かずにいた加虐心が目覚めたと言っても良い程

等と、何時にも増して主導権を握った(笑)
彼女との彼(あ)の、夜の出来事を思い浮かべ掛けるも「不謹慎」と戒める

抑、「氷の女王」の様子が可笑しい

其れは当たり前と言えば当たり前だ
義母相手に「氷の女王」然(ぜん)として振る舞うのは無理な話しだ

「女王」の御生母様は「王太后」とでも称するのか?

普段の「母」「娘」の遣り取りを知る由も無い自分には
此れが通常運転なのか、判断出来ない

介入するべきか
傍観するべきか

然(しか)し、無口属性は何処へやら
饒舌な「氷の女王」は嘴(くちばし)を容れる隙を与えてくれない

「私に対して」
「彼に対して何(ど)れ程、失礼な事したか分かってるの?」

事此処に至り、「氷の女王」の潔癖が恨めしい

正直、気にしない人間は気にしない
自分も「心の準備」を急かされた程度、気にはしていない

「「失礼」?」
「私、「失礼」だった?」

故意なのか
過失なのか

巻き込む形で此方に話しを振る義母に

「否否(いやいや)、そんな事は、」

咄嗟に両手の平を突き出し言い掛けるも
蟀谷(こめかみ)を撃ち抜くかの、「氷の女王」の視線に身体が固まる

既に狙撃態勢(ロックオン)状態、逃れようにも逃れられない

「あら、「失礼」じゃないって」

止せば良いのに、見事に「火に油を注ぐ」
義母の所為(せい)で居間(リビング)内は一触即発

「!!救難信号(メーデーメーデー)!!」

助け舟を求めるしか無い、と合図を送った視線の先
黙黙と八朔を剥いている義父の姿に絶望する

束の間、丁寧に剥いた八朔を義母へと差し出した

「ママさん、どうぞ」

自身の手元、差し出された八朔を見遣り「あら」
再度、「あら」と零す義母が満面の笑みを義父に向ける

「有難う、パパさん」

頷く義父が炬燵机を挟んだ斜(はす)向かい側、彼女に訊(たず)ねた

「御前は?」

早速、御機嫌で「甘い甘い」と、頬張(ば)る義母の様子に
臨戦態勢で臨む彼女は最早、戦意喪失したようだ

「食べる」

素気無(すげな)い返事をする娘の「分」と果物籠の中身、八朔を掴む
義父に「自分で剥く」と、彼女が自身の腕を伸ばす

其の時、自分は
其の時、自分は

「!!自分が剥きます!!」

気が付けば膝立ちで手の平を差し出し、大声で宣言する
自分を義母も彼女も「鳩が豆鉄砲を食らったような」顔で見上げていたが
当の義父は大きく頷くと勢い良く、自分の手の平に八朔を乗せる

「君に決めた」

其の台詞に何処ぞの、「トレーナー」を思い出した(笑)

作品名:徒桜 作家名:七星瓢虫