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ほくそ笑む木鐸


 
 案の定、警部は話をつづけた。「こういう事件で一番困るのは」と、その声は独り言のように低かった。「悪循環が始まることなんです。一つの犯罪が他の犯罪の呼び水のようになる」
「どういうことなのか分らないわ」
「そう、このあいだの面通しのことを憶えていますね、スー」
 警部はスーと呼んでくれた。スーザンは笑顔を見せたかったが、ただうなずいた。「ええ、おぼえています」
「あなたに見てもらった連中は、みんなすこし頭のおかしい奴ばかりです。もちろん、まだ犯罪人とはいえない奴らですが――犯罪人になる素質は、連中のだれにでもそなわっている。つまり、かれらの経歴を見ますと、大多数の者にはこういう犯罪をやる可能性があるのです。事実、あのなかには精神病の気のある者がいましてね、これはいわば潜在的な人殺しです。残念ながら、われわれとしては、潜在的な人殺しを取締る法律的な根拠がない。しかし、連中のことはよく分っています。今までの経験によれば、こういう殺人事件は、あいつらを刺激するのです。ちょっと刺激的な新聞記事を読んだだけで、あの連中は火をつけられたようになり、犯人の真似をする奴が出てくる。これはほかの町で実際に何度もあったことなのです。だから、この事件にしても、新聞があまり大騒ぎしないでくれるといいのですがね」
 パーマー警部は溜息をついた。
「しかし、やはり新聞は騒ぐでしょう。いずれにせよ、スー、一つだけ約束して下さい。新聞記者には必要以上のことを喋らないこと。分りましたね?」
 
画像:ロバート・ブロック血は冷たく流れる ロバート・ブロック〈血は冷たく流れる〉(早川書房 異色作家短編集8)より『ほくそ笑む場所』
 
前回、オミクロン株とかについてまた「どうせ」と書いて出したらその翌日に、東京でその妖精がひとり見つかったという話になってテレビがもう大変、
 
「遂に東京でひとり出ました! 遂にひとり。遂にひとり。遂にひとりの感染が確認されてしまったのです! 感染者がひとり出た、というのはコロナの感染がこれまでで最大の大爆発をしたということなんですね、専門家の先生?」
「そうです。東京で数百万、日本全体で数千万に感染が広がっている可能性があるということで、『可能性がある』というのはおわかりになると思いますが、『そうでない可能性はまったくない』ということなのです。既にほとんどの日本人が、オミクロン株に感染している。最大の〈波〉が目前に迫っているということで、今年もあと半月ですが、日本人の大半が来年を迎えることなく死ぬでしょう」
「それは確実なことなんですね?」
「もちろんです。ワタシの予想が間違ったことがありますか!」
 
なんて具合に一日大騒ぎだったけどおれが気になるのはその妖精の家である。その頃、どうなってたのかな。映画『E.T.』の話が佳境に入ったところみたいに、宇宙服の学者の群れに踏み込まれて家全体が透明なシートに覆われてしまい、
 
「ウチのエリオが? ウチのエリオがオミクロン株に? ああ、そんなあっ! 先生、エリオはどうなるんですか! てゆーか、そもそも、なんともないように見えるんですが」
「騙されてはいけません。それがウイルスの戦略なのです。残念ながらエリオ君は、もうアナタの息子ではなくなったものと考えてください。人格を破壊され、すべての日本人を殺すためのロボットに変えられてしまった者が、アナタの息子のフリをしているだけなのだと……」
「エリオォ――ッ!!!!」
 
とかいうことになっていたのかしらん。だとしたらおもしろいけれど、再三書いてきたように、これが社会のエリートというエリートが狂ってしまった状況というものであり、昭和の戦争中の日本や禁酒法時代のアメリカや、ナチスドイツやかつてのソビエト連邦と同じ恐怖社会である。そこでは狂った人間が正しい者となってしまい、誰も「政府とマスコミの言うことは、何もかもがおかしい」と言えないことになってしまう。
 
ナントヤラ株の妖精がひとりだろうと十億だろうと、それがピンピンしているか、せいぜいクシャミをするばかりというのであればその変異体の毒性は普通の風邪以下、ほとんど害のないウイルスということである。そっちの可能性はないのかよう、などという話は決して今のテレビは言わない。
 
などという話も再三してきたけれど、ウイルスのすべてが人に害があるわけでない。と言うか、ほとんどのウイルスは人間にとって無害である。コロナがそういうものになったら〈禍〉は終わりのはずである。
 
というような話も決して、テレビでしゃべる学者は言わない。グリ森事件の犯人達が小悪党の集まりで、実はイタズラの犯罪だった可能性。それを指摘する者はないしそもそも考える者もいない。エリートの視点で見れば犯人達は社会そのものを憎む邪悪な者達で、人殺しなどなんとも思っていないのは明らか、となっている。
 
それを疑う者はなく、異論は唱えていけないとされる。『罪の声』の映画版では松重豊が演じる男が小栗旬演じる主役に、
 
   *
 
水島「犯人がマスコミに送り続けた挑戦状はまるでウケ狙いや。『新春警察かるた』ちゅうふざけた川柳も送られてきて……えーとな、ああこれこれ、『警察のアホども』言うておちょくり倒して、しまいには読者も事件をおもしろがるまでになりよった」
 
画像:罪の声新春警察かるた アフェリエイト:罪の声映画版
 
と言う。マスコミは社会の木鐸だ。マスコミが考え言って聞かせることだけが常に完璧に正しいのだから、一般人は何も考えず黙って受け入れてればいいのだ。なのに、それがわからんやつらが、犯人達をヒーロー扱いしておった。許せん。許せん。愚民どもが。愚民どもが。愚民どもが。
 
画像:新明解ほくそ笑む木鐸 アフェリエイト:新明解国語辞典
 
という当時のマスコミの怒りが未だにとぐろを巻いてる。NHKの『未解決事件』でも、
 
  *
 
「回を重ねるごとに、犯人は饒舌さを増していった。警察を嘲笑い、挑発する内容。一方、企業へ送りつけた脅迫状では、犯人は凶悪さを剥き出しにしていた」
 
画像:未解決事件えんさんのふろにつけて殺したる 番組タイトル
 
てなこと言ってこんな画を出しているのを前に見せたが、『罪の声』でも松重豊演じる男は続けて、
 
  *
 
水島「せやけどな、笑える挑戦状出す裏で、企業には、こんな脅迫状を送りつけとった」
阿久津「《会長 社長は さろてきて 生きたまま えんさんの ふろに つけて 殺したる》」
水島「えげつないやろー、こんなん山ほどあるで」
 
アフェリエイト:罪の声映画版
 
こうだ。違う。「山ほど」でなく、ただこれひとつだけしかない。〈彼ら〉が書いた手紙の中でこれがいちばん凶悪な文で、他にこれといったものがないから、こればっかりを振りかざして「さあどうですどうです」と吠える。
 
作品名:端数報告5 作家名:島田信之