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「『生きたまま塩酸の風呂に漬けて殺したる』! なんという邪悪極まる文章でしょうか。これです! これこそ、犯人達の本性なのです。こんなことは本当に人を殺せる人間にしか書けない。それがわかりますよね。わかりますよね。だから菓子には実際に、何千・何万という数で毒が入れられたのは間違いない。マスコミが報道しなければ、必ず、必ずそれだけの死者が出たのに疑いの余地はないのです。当時の一般市民は愚劣で全然わかってませんでしたが、今の皆さんにはわかりますよね。わかりますよね!」
 
という方向に、NHKも『罪の声』も話を持っていこうとしている。だがさっき見せた『新春警察かるた』の記事、当時のものを《グリコ・森永》を《ギンガ・萬堂》、《ハウス》を《ホープ》とだけ変えて作ったものに違いないが、画を止めてよく見てみると、書いてあることがどうもおかしい。
 
画像:新聞記事拡大
 
こうだ。《新たな取引か》などとあるけど、
【企業が裏取引をしてるのでは】
という疑惑に話を持っていこうとしているのが読んでみるとよくわかるし、
【〈彼ら〉が手紙に事実と違うことを書いてる】
と決めつけている文があるのがわかる。
 
おや、と思って問題の手紙を探してみると、
 
画像:闇に消えた怪人147ページ声は男の子と女の子 画像:闇に消えた怪人表紙
 
これだな。声は男の子と女の子。これをあの新聞は、嘘と決めつけて書いている。
 
いや、どうなの。これ、案外本当じゃねえか? 【子供の声は全部同じ子供の声】というのはこれにもあるように、NHKの番組に出てた鈴木という学者がひとりで言ってただけで、
 
「いや、毎度替えてんじゃない?」
 
という論は当時からあったようだ。おれが普通に聞いてみても、違う子供らしく聞こえる。この先生、ほんまにしっかりやっとったんかと言いたくなるようなものだ。
 
画像:NHK未解決グリ森捜査員の証言310-311ページ音響分析の鈴木
 
だがマスコミは警察にそれまでさんざん嘘をつかれながらにまだ発表を鵜呑みにしていて、〈彼ら〉が手紙に書くことの方を嘘と決めつけて疑っていない。
 
この新聞記事はそうだ。自分達に都合のいいよう話をネジ曲げる報道を続け、11.15と12.11の例のイカサマ報道で一般からの非難を浴びた後でも改めるところがなかった。
 
というのがこれを見てもわかる。えげつないのはどっちだ。
 
――と、おれから見ればそういう話になるのだけれど、グリ森事件の話はすべてがマスコミにより、マスコミに都合いいよう歪められてる。マスコミに都合の悪い話は語られず、なかったことにして忘れられてる。
 
けれどもそれにエンドウブシは気づかないし、新聞を木鐸と信じて疑っていない。あらゆる話が嘘とごまかしだらけなのに見抜く眼を持っていないから、落とし穴を避けて通れずズボリズボリとはまり落ちてて、しかしそれにも気づけていない。
 
というのがおれの見る『罪の声』という本である。株価操作説。そんなもん、事件の謎を全然説明できていないが、都合の悪いところは全部ごまかすことで通している。
 
その最大のものが〈F〉、〈キツネ目の男〉についてだろう。この男の存在は、株価操作の話とまるきり合うところがない。果たしてどんな人間で、一味の中でどんな役を担っていたのか。
 
それをまったく説明できない。だから映画版の反省会でも、ひとり黙って口を利かずに鍋を突っつくだけに描かれる。
 
画像:鍋を突っつくキツネ目
 
 
〈キツネ目の男〉についてまともな推論も立てられないグリ森の本は、揚げの入っていないきつねうどんのようなものだ。
 
 
とは思いませんかねえ皆さん。丸大食品の脅迫で初めて姿を現す男。しかし映画は小栗旬のナレーションで、
「そのとき、車内で不自然な動きをしていたのが〈キツネ目の男〉」
と言うだけだし、原作小説の方もまた同じようにしか書いてない。又市=丸大がなぜ選ばれたのか、小説は、
《間に又市を入れたのは、製菓会社だけを標的にしたものではない、と萬堂を油断させるためでした》
としていたが、これがミスなのは再三述べたね。だから【なぜ又市=丸大が狙われたのか】の説明を『罪の声』はできぬことになる。
 
丸大食品の脅迫では〈彼ら〉はマスコミを利用せず、世が知るのはずっと後だ。もちろん、森永も知りえなかった。なぜ丸大が選ばれたのか。
 
その説明をおれの方はとっくにしている。『わんぱくでもいい。たくましく育ってほしい』の会社だからだ。森永はまあいいとして、ハウスを狙ったのは『秀樹感激バーモントカレー』の会社だからだ。〈彼ら〉は子供が好きであり、日本中の子供のために『仮面ライダー』や『レインボーマン』の、
 
   「お菓子に毒を入れてやるのダ〜」
 
   とか、
 
   「ハムに毒を入れてやるのダ〜」
 
   とか、
 
   「カレーに砒素を入れてやるのダ〜」
 
とか、いや、これでは別の事件になってしまうが、とにかくそのような〈怪人〉を演じた。そもそもが、
 
   世間をアッと言わせるような
   でっかいことをやってみたい
 
   を動機とし、
 
   グリコのネオン看板を世界的に有名にする
 
   を目的にし、
 
   結果的に企業の宣伝になるんやったら
   一億くらいもろうてもええやん
 
という了見で行った、あさましいと言えばあさましい計画ではあったのだが、しかしあさましいだけで、別に凶悪なところはない。だからいいじゃん、あさましくても。
 
「あさましくてもいい。たくましくやっててほしい。かい人21面相」
 
というもんじゃあないですか、というのがおれの〈プロレス説〉だ。これであるなら事件の不可解性も無理なく説明できる、というのがおれの考えでもあるのだが、しかしひとつだけネックがある。
 
そう、4月10日の放火だ。この、
 
画像:グリ森本3冊
 
3冊を読んでみると、スキャンして見せるまでもないだろうが、初めのうちは警察の中でも、
「イタズラじゃないのか?」
と言う者がやっぱり多かったらしい。しかし放火が起きたことで、
「これは本気なのだ」
ということになった。まあ当然だろう。
 
エンデンブシも原作に、
 
  *
 
 実際、警察やマスコミが犯人の本気を垣間見たのは、四月十日夜の連続放火からだ。(略)
 
アフェリエイト:罪の声
 
と書いてる。まあ当然だろう。
  
 
   イタズラで放火というのは考えにくい。
 
 
もちろんその通りだ。けれどもおれは、これを、
【報道に刺激された無関係なアカウマの仕業】
としてきた。ここで今回のログの、最初に戻って黄色い本から引用した文をもう一度読んでほしいのだが、しかしさらに抜き出すと、
《こういう事件で一番困るのは》《悪循環が始まることなんです。一つの犯罪が他の犯罪の呼び水のようになる》《こういう殺人事件は、あいつらを刺激するのです。ちょっと刺激的な新聞記事を読んだだけで、あの連中は火をつけられたようになり、犯人の真似をする奴が出てくる》《だから、この事件にしても、新聞があまり大騒ぎしないでくれるといいのですがね》
作品名:端数報告5 作家名:島田信之