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のがわかりますか。11月4日と言えばホープ=ハウスに脅迫状が届く3日前だけど、「事前の売りは手控えます。派手にやると、もうそろそろ足つきます」と言うジゼンとはそこまでの直前を指していて、〈派手〉はダメだが地味にだったらまだいける、5日か6日にもう一回仕込みをかけると言っているのだというのがわかる。
 
永田町に黒幕がいて、ギンガ、又市、萬堂の空売りでタンマリ儲け、ホープの仕込みにもカネを出してくれている。しかし《金主には絶対損をさせてはいけない》のが《彼らのルール》であるために黒幕ばかりうるおって、実行グループはあまり分け前に預かってないのではないか。だからギリギリまで仕込みをかけて、なんとか自分達の取り分を出そうとしていたのでないか。それが交信の意味するところかもしれない、という推測をここで阿久津は〈ニシダ〉という人物にされる。
 
という展開なのがわかるでしょうか。おれはこないだ、
「もしそんな話に乗る黒幕がいてもギンガ=グリコの後で『こんなおおごとになると思っていなかった。この話はヤバ過ぎる』と言って手を引いてしまい、以後の企業の株価操作にはカネを出してくれなくなる、なんてことになりそうなものでは?」
と書いたが、エンデンブシはそういう考え方は夢にもしたことがない。
 
わけだ。そしてさっき、グリコと森永の大株主と証券会社の人間のあいだで、
「ウチの株の暴落で儲けたやつはいないのか! 何億もだ。いればそいつが犯人じゃないのか!」
「全力を挙げて調査してます! 犯人どもはグリコ様・森永様だけでなく我々にとっても憎っくき敵です!」
ということになっていたはずなんじゃないのか、というような考え方も夢にもしたことがない。
 
わけだろう。『闇に消えた怪人』なんか読んで本気にしちゃったと。だから全然そういうことに頭が及ばないわけなのだ。さらに言えばホープすなわちハウス食品の大株主も、当時に、
「犯人どもは次にウチを狙っているということはないのか!」
と叫んで戦々兢々、証券会社に押しかけて、
「ウチの株は大丈夫だろうね? 大丈夫だろうね?」
と泣いてすがりつかんばかりにしていたりしたんとちゃうの。
「空売りの仕込みなんかを何千万も何億円もやってるやつはいないだろうね?」
と。そうなっていていいはずだよね。そういう状況だとしたら、
 
『ハウスの仕込みはどうですか。玉三郎、こちら21面相』
『事前の売りは手控えます。底値の買いです。派手にやると、もうそろそろ足つきます、どうぞ』
 
なんていうのは「派手にやると」というどころか最初からまったく不可能とならんのだろうか。
 
いや、実際に被害に遭った企業にとどまらない。事件当時はありとあらゆる食品会社の大株主が、
「次はウチじゃないのか」
と脅えていたはずじゃないのか。たとえばカルビーやコイケヤなんかも証券会社に押しかけて、
「ウチの株は大丈夫だろうね?」
と泣き叫ぶ。これに対して証券会社は、
 
「はい。言われるまでもなく、我々も現在、すべての食品会社の株を売り買いする者を警戒しているところでして。カルビー様の株には特に妙な動きは見られません」
 
「ホントだろうね? ウチのポテトチップスは! ウチのポテトチップスに毒を入れられないだろうね?」
 
「え、えーと、私どもはあくまで株の会社ですので、そちらの方まで保証はしかねるのですけれど。しかしポテチの袋に穴を開けてですよ、毒を入れたら湿気ってしまってすぐわかるのじゃないでしょうか」
 
「そういう問題じゃないよ君」
 
なんていうようなやり取りが慌てパニクるあまりに交わされていたのじゃないのか。『罪の声』ではなんやようわからんが、〈牛若丸〉は〈黒目の外人買い〉という方法で空売りの仕込みをしていたという話になっている。
 
けれども当時、カルビーもコイケヤも、ナビスコもエスビー食品も桃屋も永谷園も、ありとあらゆる食品会社の社内で株を受け持つ者らが、休日返上、徹夜までして会社の株を護ろうと取り組んでいたのではないのか。うまくいったらボーナスガッポリ、俺が会社のレインボーマン! そうも思って取り組んでいたのでないのか。そんなところに〈派手にやると〉どころかどんなに地味にやろうとしても、仕込みなんてできるのだろうか。
 
だからどこかでそんなレインボーマンのひとりが、
 
「大変です! 我が社の株にしばらく前から、大量の〈黒目の外人買い〉と見られる動きがあります。これはウチが犯人に狙われてるということなのかも!」
 
「なんだとおっ!!!」
 
ということになってすぐさまショーケントリヒキジョに警報が届き、証券マンという証券マンが、こんなふうに、
 
画像:実写ヤマト敬礼する艦橋クルー アフェリエイトSPACE BATTLESHIP YAMATO
 
胸に手を当て立ち上がって、証券業界全体にとっての大敵である犯人一味を退治すべく、
〈市場最大の作戦〉
が開始されることになったのだった――だから11月5日か6日に〈牛若丸〉はもうおしまい。
 
なんてなことになったりはしないのかなあ、とおれは思うのだけどどうなんだろうか。だからもし本当に永田町に黒幕がいるなんて話だったとしても、やっぱりギンガ=グリコの後で、
 
「これはヤバ過ぎる。ワタシは手を引く。君らも『他の金主を探して次に丸大と森永を』なんていうのはやめてくれ」
 
ということになりそうなもんではないの、と。いやおれは株についてはなんにも知らん人間だから、「絶対にそうだ」とまでは言えんのだけど。
 
でもどうですかね。あなたはどう思いますか。日清、丸美屋、紀文、マルチャン、味の素、ペヤング、雪印……事件当時に犯人一味は、食品会社という食品会社すべてを脅かす存在だった。それはすなわちそれらの企業の大株主を脅かす存在ということであり、証券会社にとって最も大事な客はその者達であったはずだ。これが調べに調べた末に、
【一味の目的は株価操作ではない】
という結論に達して大株主らが納得したというのであれば、目的が株価操作の線はない。
 
ということにならないでしょうか。おれの考えはおかしいですか? エンデンブシはそういうことを思いつけない人間であり、だから『罪の声』はダメなのだ。
 
と考えるおれはおかしいですか? 『闇に消えた怪人』のグリ森オレンジもまたそうで、〈刑事スーパー株〉になりたいあまりにそういうところに頭がいかない。だから、
 
「事件に便乗して200万とか300万とか株で稼いだやつは結構おるんやろう。だからそん中に犯人が紛れてるかもしれんやないか。だって、やつらはグリコ社長の娘の名を知ってたんやで。それを知ってるちゅーことが、怨恨である何よりの証拠や。せやろ。怨恨でのうかったら、長女の名を知るわけがない。だから恨みを晴らした後で、森永の株で300万ばかり稼ぐ計画やったんや。300万と言えば大金やで。30万の十倍で、3万円の百倍やで」
 
なんて言ってるつーことじゃねーのか? どうなんだろうね。そんなところで、今日の話はこれでおしまい。それではまた。
 
作品名:端数報告5 作家名:島田信之