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はなもあらしも ~颯太編~

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終結



「おーい! そろそろ行くぞ!」
「はあい!」

 荷物を鞄に詰め込んでいたともえは、玄関からの声に答えた。急いで鞄を担ぎ廊下へと出る。

「今から出るのか?」
「父上」

 丁度廊下に出た所でともえの父、智正と出会い、笑顔で答える。

「ええ、5年振りですから颯太もはりきってます」
「そうだな。もうそんなに経つのか……」
「そうです。父上が私を騙して日輪道場に行かせたのが八年前。まさか弓道の修行じゃなくて私の婿探しだったなんて……本当にびっくりしたんですからね。おまけに父上も病気で長くないとかなんとか嘘ついて。信じられません」

 恨めしそうに言うと、智正は笑った。

「はははは、まあ、もう昔の事なんだ、いいじゃないか―――それに、幸せだろう?」

 玄関の方を二人で見ると、ともえは智正の言葉に同意する。

「まあ、確かに父上に騙されたおかげで幸せ一杯ですけどね」
「おうい、ともえ! まだかあ!?」
「はい! 今行きます!」

 急かす声に父娘は同時に玄関に向かった。

「母上、父上がしびれを切らして先に外に出てしまいました」
「ごめんごめん、颯助(そうすけ)。準備に少し時間がかかってしまったの」

 玄関に立っていたのは可愛らしくも凛々しい表情をした一人の男の子。
 ともえと颯太にとって、何よりも大切な宝、息子の颯助だ。

「おうおう、颯助、じじはお前としばらく会えなくて寂しいぞ」

 智正がそう言って孫を抱きしめると、颯助が笑う。

「じじ様とはいつも一緒にいるではありませんか。東京のじじ様、ばば様にはもう何年もお会いしていないのですから、少し我慢してください」
「―――本当にお前はまだ六歳というのに、どうしてこんなに賢く立派に育ったんだろう。私の幼い頃にそっくりだ」
「父上、颯助にいい加減な事を吹き込むのはやめてください! 颯助が立派に育っているのは、私と颯太の教育の賜物です」

 目を細め、目頭を熱くさせる智正から颯助を引き剥がし、ともえは草履を履いて頭を下げた。

「それでは父上、行って参ります」
「行って参ります!」

 可愛い我が子と、さらに可愛い孫を見送り、智正は幸せな気持ちで一杯だった。
 ともえを東京へ行かせて良かったと、心の奥底から親友の日輪幸之助に感謝した。