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秋月あきら(秋月瑛)
秋月あきら(秋月瑛)
novelistID. 2039
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魔導姫譚ヴァルハラ

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「詳細はすでに報告書にまとめております。べビモスはリヴァイアサンと遭遇のあと、制御不能となり、海中でハッチが開いたために艦内にいた全員が海流の呑み込まれました。多くの反逆者が死んだと思われますが、私たち三人がこうして生きていることから、〈デーモン〉の強奪者たちは生存の可能性があります」
 そこへネヴァンが口を挟む。
「生きているわけがありませんわ。アタシたち三人も溺れ死ぬ寸前でどうにか九死に一生を得たのよ。それはアタシたち三人が空を飛べたからほかならないわ」
 それをマッハが反論する。
「あの馬女だって空飛んでただろ」
「あの女はモーリアンお姉様にやられて重傷だったじゃない!」
「オマエだってアカツキにやられてヒドイもんだっただろ」
「アンタなんか簀巻きにされて芋虫みたいに転がってただけのクセして!」
「なにィ!」
 モーリアンが咳払いをした。
「マダム・ヴィーの御前で見苦しいぞ」
「わたくしは構わないわよ。女同士のいがみ合いは見ていて愉しいわ」
 こちらの言葉のほうが、ネヴァンとマッハを黙らせる効果が強かった。
 それをマダム・ヴィーもわかっている。わかっているからこそ、相手に畏れを抱かせるほど艶やかに妖しく嗤っているのだ。
 バイブ・カハは沈黙した。
 それがマダム・ヴィーは愉しくて仕方がないのだろう。ルージュの端をさらに吊り上げた。
「もういいわ下がりなさい。〈デーモン〉の整備をして、貴女たちも傷と疲れを癒やすといいわ」
 バイブ・カハは頭(こうべ)を垂れて姿を消した。
 床に残っていた血にマダム・ヴィーは気づいた。
「誰かが怪我を負っていたようね」
 マダム・ヴィーは車椅子から降りて床に這った。
 そして、涎れをたっぷり含んだ長い舌で、床ごと血を舐め取ったのだ。
 ルージュが艶笑を浮かべた。
「処女ね。ここにいたの誰だったかしら?」
 マダム・ヴィーが床に這ったままでいると、そこへ召使いの娘がやって来て、眼が合った。
 驚いている娘が言葉も出せず戸惑っていると、マダム・ヴィーが手を差し伸べた。
「車椅子に乗せてくれるかしら」
「はい、いますぐに!」
 娘が駆け寄ってマダム・ヴィーの手を握った瞬間、逆に引き寄せられて床に倒されてしまった。
 倒れた娘の上に乗ったマダム・ヴィー。
 その真っ赤なルージュがゆっくりと近付いてくる。
 熟れた真っ赤な果実。
 それは禁断の果実。
 マダム・ヴィーは娘の唇を奪い、すぐに投げ捨てるように娘の頭を放った。
 嗚呼、真っ赤な花が咲いた。
 痙攣する娘の口から真っ赤な花びらが散った。
 口元を真っ赤な手袋で拭ったマダム・ヴィーはつぶやく。
「この子も処女ね」

 白いベッドに寝かされていたアカツキが目を覚ました。
「……どこだ?」
 ベッドから降りたアカツキは全裸だった。
「紅華は……よかった」
 すぐ横のベッドで寝ている女型〈デーモン〉。
 アカツキはこの〈デーモン〉が紅華であること否定し、ルシファーと言った。
 しかし、ここでまた紅華の名を呼んだのだ。
「〈ファルス〉合体!」
 アカツキと女型〈デーモン〉が一つに溶け合う。
 花魁姿になったアカツキが部屋を出ようとすると、天井近くに設置されていたスピーカーが響いた。
《ちょっと待ったアカツキ君》
 無視して行こうとするアカツキ。
《命の恩人の話くらい聞こうよ。これからはルシファーの整備手伝ってあげないよ》
「そういう取引は貴様の命を縮めるぞ、ゼクス?」
 アカツキが足を止めた。
《だいぶ顔色がよくなったみたいだね。刻印の数がだいぶ増えたみたいだケド、時間をかけて躰に馴染ませないと、君の心身が保たないよ》
「時間がない。それはそちらもだろう?」
《そうだね。この問題を解決すべく、造っている物がもうすぐ完成するよ》
「なにをつくっている?」
《保存装置だよ。それが完成すれば、君は仕入れと配達をするだけになるんだ》
「狩りの効率が上がれば俺様はそれでいい」
 アカツキは部屋を出て行こうとする。
《まだ話が――行き先くらい言えバーカ!》
「ずっと空から監視しているクセに」
《完璧に監視できたら……行っちゃった》
 スピーカーから別の若い娘の声が響いてきた。
《あの解析結果が出ました》
《アハトお疲れ〜。長く掛かったってことは濃厚ってことだね》
《はい、シキの正体は73パーセントあの者です》
《73ってビミョー。あっ、スピーカー入れっぱなしだった》
 すぐにスピーカーが切られ、部屋はしんと静まり返った。