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秋月あきら(秋月瑛)
秋月あきら(秋月瑛)
novelistID. 2039
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魔導士ルーファス(1)

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 なにかと病院に厄介になることの多いルーファスだが、この病院に来るとなにかと入院を勧められ、なにかと長期入院をさせられる傾向がある。その原因は今、目の前にいるこの病院の副院長の仕業だとルーファスは踏んでいる。
 白衣ならぬ黒衣を身にまとった魔法医ディーと言えば、この国はおろか隣国でも有名だ。黒衣をまとう医師というだけで、少し変わり者の臭いがプンプンだが、魔法医術の腕は超一流で、リューク国立病院が創立されて以来から、すっと副院長の椅子に座っている。
 ちなみにリューク国立病院は、この国の4代目国王が建設した病院で、ざっとその話は250年以上前のことだったりする。つまり、魔法医ディーは長生きさんということになる。それでも、ディーの見た目は若々しく20代半ばの外見を保っているのだ。
 超一流の魔法医と、包帯グルグル巻きの自分の脚を眺め、ルーファスは疑問に思う。
「この脚……治してくれないかなぁ? 明日再追試があるんだけど」
「ふむ、君の脚は実に興味深い複雑な骨折の仕方をしていてね。治療には2日を有するのだよ。これでも最善を尽くして2日だ」
 感情を消した表情からは相手の思惟を読み取ることはできなかったが、ディーの瞳は妖しくルーファスを見つめていた。
 なぜかこのとき、ルーファスは肉食獣に喰われる感覚に襲われた。
 恐怖に身を強張らせるルーファスを見つめ気持ちを察したのか、ディーは静かに微笑んで呟いた。
「君の父上には恩義がある。君には決して手を出さんよ(そして、誰にも手を出させない)」
 手を出すってどういう意味だよ!!
 ルーファスは生唾をゴックンと呑み込んで、素早くディーから視線を逸らした。
「(やっぱり、この人そっち系の趣味があるんだ。怖いよぉ)あの、お仕事が詰まってるんじゃないですか? 私に構ってないで別の患者のところに行ったほうがいいと思いますよ」
「大丈夫、心配には及ばない。君のために時間を空けてきた」
 甘く囁くように呟いたディー。
 ルーファスの確信は強まる一方。
 この副院長は女性じゃなくて、オトコに興味があるんだ!!
 とルーファスは確信した。
 黒衣から伸ばされた青白い手がルーファスの首筋に触れた。とても冷たく死人のような手だったが、恐怖のあまりルーファスは逃げることもできなかった。そもそもルーファスの身体にベッドに固定されている。
 ベッドに固定され、個室が与えられ、実は個室のドアには面会謝絶の札が立てかけられていたりする。
 ビバ・拉致監禁!!
 鮮やかな薔薇色をしたディーの口がルーファスの耳元でなにかを囁いた。
「実にきめ細かい肌をしている。この首筋を見ていると、噛み付きたくなってしまう」
「(く、喰われる!)」
 そのときだった。個室のドアがガサツにドカンと開けられた。
「ルーちゃん、お見舞いに来たよぉ〜ん!」
 個室に飛び込んで来た人影に、ディーはすぐさま顔を向けた。
 ピンク色の髪をツインにまとめた少女――自称ちょー可愛い仔悪魔B.B.シェリルだった。
 ビビはディー×ルーファスの攻め受けの構図を目の当たりにして、顔を真っ赤にして後退りをして壁に背中をつけた。
「あ、あ、イヤっ、ルーちゃんのえっち!!(ルーちゃんのばかぁ、ルーちゃんにそーゆー趣味があったなんて)」
「ち、違うって、誤解だよ!」
 取り乱すルーファスをさし置いて、ディーは何事もなかったようにルーファスの身体から離れ、落ち着いた口調でビビに問いかけた。
「面会謝絶の札が立てかけてあったはずだが、見えなかったのかね?」
「見たよ」
 さらっとビビは言った。
「見たけど、それがどうかした? アタシには関係ないしぃ」
 常識に欠けるビビに面会謝絶の札は、ただの札と変わらないらしい。
「ふむ、まあよかろう。それではルーファス君、また後で……(仔悪魔の邪魔が入ってしまったな)」
 ディーはルーファスの顔を妖しく見つめ、個室を音もなく去っていった。
 そのときのディーの妖しい――ビビにはイヤらしいと感じた目つきを見て、ビビはやはり不審そうにルーファスの顔を覗き込んだ。
「ルーちゃん、あの人だれ?」
「ここの副院長だよ」
「ふ〜ん、ルーちゃんとどんな関係?」
「医者と患者の関係だけど……(あっちがどう思ってるかは自信ない)」
「ふ〜ん」
 鼻を鳴らすビビは少しほっぺたを膨らませて、そっぽを向いた。
「なに怒ってるの?(なにかしたかな、昼間の破廉恥な情事で軽蔑されたとか?)」
 怒られているような気はするが、なにが原因でそっぽを向かれてしまったのか、ルーファスには検討がつかない。ルーファスにしてみれば、『なんで怒ってるんだろう、変なの』ってくらいにしか思っていない。
 ルーファスの意図しない沈黙が流れる。
 けれど、そんな沈黙も長くは続かなかった。
 コンコンと規則正しい音色を奏で、空色の声が室内に流れ込んできた。
「お邪魔するよ、へっぽこくん(ふあふあ)」
 面会謝絶の札は立てかけてあったはずなのだが、この人物にも意味を成さないらしい。――ローゼンクロイツである。
「お見舞いに来たよ(ふわふわ)。ほら、果物でも食べて元気になるといい(ふにふに)」
 ローゼンクロイツの差し出したカゴには、フルーツ盛り合わせが入っていた。お見舞いの定番商品だ。そのフルーツ盛り合わせの中に入っているフルーツの定番と言えば、これだ!
「ラアマレ・ア・カピス発見♪」
 ラアマレ・ア・カピス――通称ピンクボムを見たビビが声を弾ませた。
 ピンクボムは高級高級果物として有名であり、学生の分際で、お見舞いに持ってくる品ではない。
「ルーちゃんこれ食べていい?」
「……めっ!(ふっ)」
 答えたのはルーファスではなく、ローゼンクロイツだった。
「だめだよ、これはルーファスのために持って来たんだからね(ふにふに)」
「いいじゃん別に。ねっ、ルーちゃんいいよね?(早く食べたいなぁ♪)」
「私は別にかまわないけど……」
「……めっ!(ふっ)」
 無表情のままローゼンクロイツと頬っぺたを膨らませたビビが対峙する。
 先攻ビビ!
「ルーちゃんがもらった物をルーちゃんがどうしようとルーちゃんの勝手でしょ。ルーちゃんがアタシにくれるって言ったんだから、これはもうルーちゃんの物じゃなくて、アタシの物よ!」
 ルーちゃんルーちゃんと連呼したビビの息はすで上がっている。対するローゼンクロイツはいつもどおりの表情で、汗一つかいていない。このビビVSローゼンクロイツの構図を見る限り、ローゼンクロイツが勝っているように見えてしまう。
 しかも、ローゼンクロイツの態度と来たら、こうだ!
「ところでルーファス、再追試は事故ということで延期にしてくれるそうだよ(ふあふあ)」
 ビビのこと完全無視だった。
「ちょっとあなたアタシのこと無視?(この大っ嫌い!)」
 一人相撲状態のビビは頭から湯気を出して怒るが、ローゼンクロイツはまったく相手にしていなかった。
「じゃ、ボクは再追試のことを伝えに来ただけだから帰るよ(ふあふあ)」
「ちょっと、まだアタシと――」
 ビビの声を背に受けながら、ローゼンクロイツは背中越しに手を振って病室を出て行ってしまった。