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架空植物園2

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トンネルは思ったより短かったので、足元を注意しながらでも楽に出ることが出来た。
「わーっ」
「おーっ」
自然に声が出た。

そこは谷になっていて、沢もあった。
そしてもみの木がある。建物内で見たものと同じように蔓状の植物が絡まり、花が咲いていた。最初に見たミニクリスマスツリーを縮尺何倍かにした感じだ。見上げたまま目が離せない。
「すごいねえ」
「さすがに、普通とは言えないだろう」
「あ、赤い花も見える」
建物内で見たものは黄色だけだったが、ここでは赤い色のものも見える。
「あ、白もあるよ」
「え、どこ? 目だけはいいんだなぁ」
「だけは余計でしょ、ほら真ん中右あたり」
「あ、あった」

欲求としては近くに寄って見たいのは当然である。何も言わないのに二人で近寄って行く。道と言えるものは無い。辛うじてそう見えるのは、あの建物の持ち主が歩いた跡なのかもしれない。
エコは先に進んで行く。確かに小さい方が張り出した枝の下を軽く過ぎたり、邪魔なものが少ない。枝を抑え、時に蜘蛛の巣を顔面に張り付かせてしまったりして、どうにか近くに寄ることが出来た。

エコは「部分しか撮れないなあ」と言いながら写真を撮っている。全体像が撮れたとしても小さくて、引き延ばしてプリントしないと花がわからないかもしれない。
私は興味のままに、灌木を分けて根元ににじり寄った。やはりバラのよう蔓状の植物を抱くようにもみの木があった。そして根元は抱かれていても、それから先は太めの蔓がさらに何かを巻き付けながら上に向かっていた。頭にひらめいたそのことを打ち消したかったが、目をそれを確認してしまった。腐ってぼろぼろになった衣服状になったものから覗く白いものを。

「どこにいるのぉ」
エコも声がする。
「あ、こっちは何も無いから戻るよ」
さすがに写真に収める気にはならなかった。でもこれだけは確かだろうと思えることがあった。それはそっとしておくだった。
もしかしたら、望んで木と同化しようとしたのかも知れない。

「少し下がった方がいい雰囲気の写真が撮れるかもしれないね」
私はエコにそう言って建物の方に引き返した。
「花を撮ると全体が分からないし、全体を撮ると花がただの点になってしまう」
「だよねぇ、やっぱりあのミニクリスマスツリーの写真をもう一回撮って山に登ろう」

      *        *

翌年、私は一人でやって来たが、建物にはカギが掛けられ中を覗くことも入ることもできなかった。
それは残念なようでもあり、ほっとした気持ちもあった。

作品名:架空植物園2 作家名:伊達梁川