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架空植物園2

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クリスマスツリーの木



「誰も歩いていないねえ」
エコが言う。ひんやりとした空気がかすかな風によって感じられた。ここは低山ではあるが沢沿いの道があり、四季の花々も咲いているこの林道には時々訪れて写真などを撮っている。
「この風景が二人だけのものだよ。嬉しい?」
「普通」
「なんだよ普通って、歳なんだから若者のような言葉遣いするなよ」
「ふぁ~い」
いつも同じコースを歩いているのだが、途中に横道があって農機具のようなものと資材置き場かなと思える建物が見える。いつ通っても人の姿が見えたことがないので、時間も十分あることだしと私はちょっと覗いてみようかなと思った。

「あそこ覗いてみようか」
「ええ~、またぁ。いつも横道にそれで失敗してんじゃない」
「いいからいから、ここは道じゃないし」
「でも、誰かいるんじゃないの」

人が通れるほどに細く開いていた引き戸の奥に声をかけてみた。
「おはようございまーす」
何の反応も無い。無人なのだろうと、戸に顔を近づけて中を覗いて見た。
「農機具、たぶん草刈り機がある」
それはさびが見える。意外と奥行きがあって奥の方に緑色の木のようなものが見えた。
「何か咲いてるよ」
「そう、じゃ入ってみよう」

幾分湿気を含んだ暖かさを感じる。次第に薄暗さに目が慣れてきて、ここが資材置き場ではなく樹木の植栽場であることを知った。
「あまり手入れをされていないようだね」
「っていうか、放置されたようだね」
「沢の水が建物内を流れているんだ」
「だから枯れない」

そして入る前に見えた黄色い花は蔓性で、まだ若いもみの木に電飾の飾りのように絡みついて咲いている。
「わぁ、可愛い小さいクリスマスツリーだあ」
「うん可愛いねエコさんみたい」
「ふふふ」
「お世辞なんだから納得すんな」

エコは笑い顔から急に真面目な顔になって、根元も見ている。
「これって一本の木じゃないよね」
確かに基本はもみの木だが、それと融合するように蔓性のバラのようなものがあった。それは9対1のような割合であったが、まるで愛しい人を抱きかかえているようにも見える。
「珍しい。写真撮っておこう」
「じゃ、私も」

隣にも同じような植栽があったが、根元は融合していない。
「ふーん、ここは相性が悪かったんだね」
「ははは、お互いに背を向けている感じだね」

他にも同じようなものがあったから生きているクリスマスツリーを造ろうとしていたことは分かった。
「惜しいね、これ」
「やはり最初に見たのがいいね」
「季節が初夏になってしまうけどね」
「温室で調整すれば本物のクリスマスに出来るかもね」
「でも、何で止めてしまったんだろうね」
「うん 惜しいね。おや、風が通った」

それはオカルト好きな者なら、何か霊的なものを感じたのかもしれない。
「んんー あ、あっちから吹いている」
「防空壕?」
「ははは、エコさんてそんな歳なんだぁ」
「違うよ、子供時代にまだ残っていたんだよ。種芋の貯蔵に使ってた」
「知ってるよ、ちょっとからかってみただけ」

建物の一番奥にも引き戸があったが開けっ放しになっていて、そのすぐ側に洞穴があった。二人でその洞穴に近付いていった。覗いてみると、奥の方が明るく、そして緑も見える。
「トンネルだね」
「だね」
「入ってみよう」
「うん」

作品名:架空植物園2 作家名:伊達梁川