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架空植物園2

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亀龍草




目の前に現れたその蝶は見たことのない色をしていた。保護色かと思える茶色っぽい地味な色合いなのだが、不思議に鮮明に浮かび上がって見えた。飛び方が今までに見てきた蝶の飛び方とは違う。あきらかにこちらを見て興味を惹かせ、さあこっちへおいでよと言っているような仕草に思えた。目的は野草の写真を撮りにこの山に来たのだったが、花の写真を撮り終えた途端に現れたこの蝶に興味は移っている。

細い山道を蝶はゆっくりと飛んでいる。時々付いてきていることを確かめるようにスピードを緩めてこちらを見て、また飛び続ける。特に大きな不幸もなくまた大きな喜びもなかった私の人生に何か思い出に残る出来事が待っているかもしれない。そんなことを考えながら私は蝶のあとを追っていた。

(蝶がここを掘れとかの合図をして、掘ったら小判でも出てくればいいのだが)と、昔話のようなことを想像してにんまりとする。いつしか木の密度が濃くなっていて、薄暗い森に入っていた。
「まだ、遠いのかい」
蝶は一瞬ゆらりと揺れてから、スピードをあげ、向こうに見える大木の方に向かった。
「おい、まてよ」
私もつられて早足になり、大木の方に向かった。近付くにつれ、大木に寄りかかっている何かの一部が見えてきた。(まさか死体?)と、いつしかスピードを緩めていて、おそるおそる近付いて行く。もうあの蝶の姿は見えない。

それは木のウロに着床したサボテンのように見える植物で、まるで穴から這い出ようとする龍の姿のようにも見えた。そう思って見ると、先端は頭のような形に膨らんでいるし、長い胴体に思える部分から足とも見える気根のようなものがぶら下がっている。でもどこか寸詰まりで、生気が無い。水が足りないのかなと思って辺りを見回してみる。また、あの蝶が目に入った。最初に見かけた時と同じような飛び方だった。私はその蝶に近付いて行く。

案内するかのように、というよりも明らかに私を誘導しているのだろう、傾斜を下りて行く度に沢の水の音が大きく聞こえてきて、沢に出た。私はリュックの中を探し、レジ袋を取り出して、沢の水を入れた。零れないように結び、割れないようにそおっと胸に抱えて植物ドラゴンの所に戻った。

木のウロの部分に水をかける。さーっと水は染みこんでいった。まだまだ足りないだろうと思い、こりゃ疲れるなあとも思った。でも、どこか自己満足の達成感と義務のような気持ちをもちながら、沢を往復した。三度往復して一休みすることにした。持参のスポーツドリンクを飲みながら観察すると、幾分植物ドラゴンはふっくらして上向きになった気がした。もういいのかなとつぶやきながら見続けた。

ん? 植物ドラゴンが動いた気がした。勘違いかなと思いながら観察を続けると、あきらかに動いていた。縮んでいる? 頭と思える位置が大木の方の移動している。ウロを見ると理由がわかった。ドラゴンの尻尾の方から潜り込んでいっている。最初にウロから這い出てくるように見えたのだが、今は後ずさりしているようだ。植物にしては動きが速い。私は近付いて行く。


作品名:架空植物園2 作家名:伊達梁川