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ジャスティスへのレクイエム(第3部)

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 と、素直に参謀総長は答えた。
「いえいえ、これは私の頭の中で考えた骨格であり、そこに肉をつけていくのは軍部の方の仕事です。期待していますよ」
 とシュルツは言った。
「大体の筋は見えてきましたね。後は軍部にお任せしましょう。私も何かできることがあれば、考えたいと思います」
 チャールズはそう言って、面々を労った。
 さすが元国王である。チャールズにはかつての国王同様であってほしいとシュルツが思うのも分かる気がする。大統領になって権限は制限されているとはいえ、権威は相変わらずだ。これが亡命国王のなれの果てだとは思えないほどだ。
「シュルツ長官のお考え通り、アクアフリーズ国を焦らして焦らした後に、神器を返すとなれば、彼らは我々に感謝くらいするかも知れませんね」
 と幕僚は言った。
「そうかも知れないが、甘い期待は禁物です。うまくいけば、アクアフリーズ国も味方に引き入れることができるかも知れませんね」
 と参謀総長は言った。
「あくまでも戦争は生き物です。タイミングを間違えればせっかくの完璧とも思える作戦であっても無駄な行動になってしまいます。したがって、軍と政府が一丸となって、挙国一致で事にあたるという気持ちがないといけないのだと思っています」
 チャールズはそう言った。
 彼は自分が元首であるという思いを抱きながら、こうやって発言できることを喜んでいた。政府の閣議では発言が許されていないだけに、軍の会議は一味違った気分になっているに違いない。
 こうやって会議をしている間に、一人の男が入ってきた。そして、参謀総長に耳打ちした。
「皆さん、会議の途中ですが、たった今入った情報によりますよ、アレキサンダー国が我が国に宣戦布告したようです」
「ほう、やっとですか?」
「ええ」
 アレキサンダー軍は、すでに行動を起こしていた。実際に小競り合いのようなものは数日前から起きていて、いつ宣戦布告があっても不思議のない状態で、一触即発の状態に陥ったことで、この会議が開かれた」
 会議室はざわめいているが、これは予想もしていなかったことに対しての驚きではない。むしろ喜んでいるように見える。それが、
「やっとですか」
 という言葉になるのだろう。
 宣戦布告があったことでホッとしていると言ってもいいだろう。彼らの大義名分は、
「同盟国であるアクアフリーズ国が神器奪還のために立ち上がったことで、同盟に基づいて我々も軍事介入する」
 というものだった。
 軍事介入という言葉はあまりにも抽象的だが、それは先制攻撃をしているアクアフリーズ国を援助するという、
「これは我々の戦争ではない」
 とでも言いたげだった。
 アレキサンダー国には大義名分がない。もしアクアフリーズ国の先制攻撃がなくて、戦端を開いたのがアレキサンダー国だとすれば、それは侵略になるからだ。
「チャーリア国は、国境付近に戦力を配置し、我が軍を挑発している」
 と言えば、それを排除するためという理屈で戦闘行為を起こすこともできるが、チャーリア軍が踵を返してチャーリア国に戻ってしまうと、攻め込むことはできない。
 チャーリア国は監視はしているが、挑発はしていない。だから相手が行動を起こそうとするならば、速やかに撤退できる状態にはしていた。攻めてこないのが分かっていたので、最初から逃げる体制での監視だったのだ。
 実は、監視はアレキサンダー国だけではなく、アクアフリーズ国にもしていた。これを知っているのはごく一部の人だけで、シュルツの仕業だった。
 シュルツは、アクアフリーズ国が先制攻撃をしてくることを予見していた。予見していて、あたかも油断したかのようにまわりに見せていたのだ。
 もちろん、チャールズは知っていた。
「どうして皆に秘密にするんだい?」
 というと、
「敵を欺くにはまず味方からってね」
 とシュルツは言った。
「じゃあ、わざとアクアフリーズ国に先制攻撃させるということかい?」
「そういうことです。そして我が国が油断したかのように見せておいて、今度は相手の疑念を誘うんです。相手は私のことを過大評価しているという情報を持っているので、油断したと見せかければ、どっちが本当の私なのか疑心暗鬼に陥るでしょう。相手の作戦をまったく読めなくなることが戦争をいかに困難にするかということですよ。目を瞑って戦争はできませんからね」
「本当にシュルツは頼りになる。我が父がシュルツを重用したわけが分かってきた気がしているよ」
 とチャールズに言われ、
「恐れ入ります」
 と恐縮した。
 これは何十年も前から続いている儀式のようなものだが、その気持ちの濃さは、毎回どんどんと濃くなってきている。すでにチャールズは、シュルツなき自分の姿が見えなくなっているかのようだった。
「国家というものは、権威のある指導者がいてこその国家ではないかと私は思っています。そういう意味ではシュルツこそ、権威のある指導者ではないかと思うんだ」
 とチャールズがいうと、
「私は、そう言われるように努力を重ねてきました。でも、まだまだチャールズ様の権威には敵いませんよ」
 と笑って見せたが、その気持ちに皮肉などなかったのである。
 シュルツの目論みどおり、緒戦ではアクアフリーズ国の優勢であった。あたかもふいをつかれたかのように見せかけて、実は被害は最小限に食い止めていた。
 案の定、アクアフリーズ国も深入りはしてこない。アレキサンダー国からも、
「先制攻撃が成功しても、先に進むことはやめてください」
 と言われていたからだ。
 ある地点を境に両軍が睨みあっているというこう着状態を作りあげたが、そこにアレキサンダー軍がなだれ込んできた。
 その兵力は、シュルツが睨んだ通りのもので、本隊の投入ではなく、彼らも偵察程度のものだった。アクアフリーズ国と睨みあいを続けている中での進撃に、さらにもう一つの方向から圧力がかかっただけの三つ巴の展開、これはアレキサンダー国が望んでいたことだった。
「チャーリア軍の目をアクアフリーズ軍にくぎ付けにしている間に、本隊でチャーリア国の背後をつく。これが本当の計画だ。やつらを殲滅してしまう必要はない。余力を残したところでやめておくんだ。相手はシュルツだから、深追いは禁物だ。いかにこちらの有利なところで講和に持ち込むか、これが国際社会を味方につける最良の方法なんだよ」
 と、アレキサンダー国は目論んでいた。
 アレキサンダー国は、現在では独立国としての地位を国際社会の上で保てるようになったが、さらなる発展をするには、まだまだ道のりは遠い。戦争をして領土を拡大していくよりも、大義のある戦争を重ねて、平和のための努力をしているということを国際社会に見せつけるという手段を選んだ。
 だが、結局は戦争によってしか自分たちの立場を得ることができないと考えていることで、彼らの国際社会への強調は道のりが遠いと言えよう。
 シュルツは、そのことも分かっていた。だから、最初に自分たちが出てこない作戦に出ることも把握していた。
 そうなると先陣を切るためのターゲットはおのずと絞られてくる。
「アクアフリーズ国しかないだろうな」