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ジャスティスへのレクイエム(第3部)

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 この物語はフィクションであり、登場する人物、団体、場面、設定等はすべて作者の創作であります。ご了承願います。

「この世の正義は唯一、戦いによって支配されるものである」

                 第三次への布石

 第二次戦争が勃発してから最初こそチャーリア国の油断もあったことから、アクアフリーズ国の侵攻を許してしまったが、結局はチャーリア国の圧勝に終わった。アクアフリーズ国の侵攻があったことで浮き足立つことがなかったのが勝因だったと言えよう。普通であればアクアフリーズ国の侵攻を許した時点で、アレキサンダー国監視に集中していた軍を引き揚げさせて、アクアフリーズ国を挟撃することで殲滅できるのだろうが、敢えてシュルツはそれをしなかった。
「アクアフリーズ国のやり方は分かっているつもりです。相手は完全に我々を殲滅するつもりなど毛頭ないと思われます。したがって、怖いのはアレキサンダー国の動向です。こちらがアクアフリーズ迎撃のため、こちらに軍を戻すと、アレキサンダー国に背中を見せることになります。こちらが挟撃するつもりでいても、結局は相手に挟撃されることになるんです。いくら我々がアクアフリーズ国を挟撃しても、監視するだけのために置いていた軍なので、中途半端な軍勢です。しょせんは正規軍に後ろから攻められればひとたまりもありません。それが怖いんです」
 とシュルツは軍の会議でそう発言した。
 軍の会議は御前会議とは違い、国家元首も発言できることになっている。軍部は国家元首直下の配置になっているので、発言を許されている。それが政府閣議の後の御前会議とは違うところだ。
「シュルツ長官の言う通りではないでしょうか? 私も同じだと思います」
 軍司令官もそう言った。
「では、アクアフリーズ軍はそのまま侵攻させるというのですか?」
 と、軍部の幕僚の一人がそう言った。
「そうは言っていません。わが正規軍が迎え撃つことになりますが、問題はアレキサンダー国軍の動向です。いつこちらに攻めてくるのか、その情報がほしいところですね」
 とシュルツがいうと、
「それはさすがに向こうも最高機密事項でしょうね」
 と司令官が言った。
「相手の戦争目的は何なんでしょう? アクアフリーズ国とすれば、神器を取り戻すことだと謳っていましたが?」
 と幕僚がいうと、
「確かに神器を取り戻すことも大切だと思います。それが大義名分としてあるから、彼らは自分たちに正義があると思っているんです。しかし、その裏で大統領の思惑があるのではないかと思うんですよ。あの国は元々国王が支配する絶対王政の国だった。彼らは絶対権力を目の当たりにしていたので、権力を持つということがどういうことなのかを身に染みて分かっていたはずです。しかし、立憲君主というと、思ったよりも制約が大きい。主権は君主にあるとはいえ、国民は自由だし、国民の自由の前では君主の権力は無力です。それを大統領は分かっているので、戦争をして勝利し、神器を取り返すという正義を貫くことで、自分の権威を引き上げようとした。確かに目標が達成されれば、かなりの権威を回復することができる。それを大統領は目論んでいたのかも知れないでしょう」
 とシュルツが答えた。
「私が国王の時は、権威が当たり前だと思われていたので、何の疑問も感じることがなかったが、立憲君主となれば、権威を自分で掴まなければいけないんだな。それも大変なことだ」
 としみじみチャールズ大統領は答えた。
 まだまだ国王だった頃の栄光を忘れられないのだろうが、シュルツとしてはチャールズには今までのままでいてほしいと思っている。チャールズの権威が保たれている間は、シュルツも何かと動きやすいからであった。
 シュルツの作戦は、、
「作戦としては、なるべく相手に挟撃されやすいように動いて、相手を油断させる。そして今度はアクアフリーズ軍に、こちらに対して背中を見せるようにするんだ。そうすれば、アクアフリーズ軍を殲滅することができる。そうなれば、相手は挟撃に掛けてきているはずなので、いったん軍を自国に戻すはずだ。その時を狙って、まずアクアフリーズ国に講和を持ちかける。神器を渡すと言えば、講和に応じるでしょう」
 とここまでいうと、会議室は喧騒とした雰囲気に包まれた。
「返すんですか? 神器を」
「ええ、我々が持っていても宝の持ち腐れですからね。アクアフリーズ国に返すのが本当の筋なんだと思う。しかし、ただ返すだけでは利用価値としてはまったく何もないことになる。このタイミングで返すことができると、アクアフリーズ国のメンツは立つと思うんだよ。彼らとすれば、劣勢に立っているにも関わらず、戦争目的であった『神器の奪還』を達成できたことで、大義名分を達成した大統領としての権威も保つことができる。逆にアレキサンダー国としては、侵攻するのはあくまでもアクアフリーズ国の後押しという名目で我が国を殲滅するつもりだったはずだから、大義名分がなくなり、アクアフリーズ国が講和を結べば、戦争継続が難しくなる。ここでさらに侵攻すれば侵略になり、国際社会から非難を浴びるのは必至だからね。戦争というのは始めるよりも終わらせる方が数倍難しいと言われている。それだけにどれだけ相手に花を持たせるかというのがカギになってくるんだよ」
 とシュルツがいうと、
「なるほど、神器は今となっては我々には戦略のカードとしての役割しかないということですね?」
「その通りだよ。カードが手元にあれば、問題はそれをどのタイミングで切るかということだよ。特に我々は相手が二国を相手にすることになるんだ。一見相手に有利に見えるが、相手を分裂させたり、温度差さえつければ、こちらが何もしなくても、勝手に相手から崩れてくれるというものだ」
 シュルツは軍部出身なだけあって、戦略の面では長けていた。
「あとは、軍部で細かい戦術を練ってもらい、いかにわが軍の被害を少なくできるかを検討いただけでばそれでいいと思っています」
「分かりました。軍部で最良の作戦を立てたいと思います」
 と答えたのは、参謀総長だった。
「今度の戦争は、そんなに急ぐ必要はないと思っています。戦争が長引けば困るのはむしろ相手方で、特にアクアフリーズ国にとって、戦争の長期化は深刻な問題になるんじゃないかって思っています」
 とシュルツがいうと、
「というと?」
「彼らは先制攻撃の任務についています。それはきっとアレキサンダー国の意図したことで、アクアフリーズ国の意図ではないでしょう。先制攻撃をしたということは、アクアフリーズ国の国民に対しては、即座に戦争を終わらせるための先制攻撃と言って、戦争の正当化を訴えたはずです。そんな状態で長期化してしまうと、せっかくのアクアフリーズ軍の面目は丸つぶれになってしまいます」
「なるほど、相手が二国なら、どちらか一国を狙い打てばいいわけですね」
「ええ、そうです。そのためにアレキサンダー国に監視をつけているんですよ。彼らを引き揚げさせない理由は、挟撃されないようにするためだけではなく、本当の意味での彼らへの監視という意味があります」
「そこまで考えておられるとは、感心いたしました。恐れ入りました」