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泉絵師 遙夏
泉絵師 遙夏
novelistID. 42743
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久遠の時空(とき)をかさねて ~Quonฯ Eterno~下

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「あ、ノンノ」
 入口の方で声がした。マルカだった。
 一瞬で場の雰囲気が固まる。トイが敵愾心むき出しにしているのが伝わってくる。
「大丈夫」
 暖野は小声でトイに言った。そして、マルカに向き直る。「何してたのよ。お昼食べちゃったわよ」
「ああ、すみません。ぼんやりしていたら、すっかり……」
 マルカにしては珍しいことだった。
「お姉ちゃんは僕が守る」
 トイが二人の間に割って入る。
「この子は、あの」
「ええ、あの時の子よ。トイって言うの。すごく強いのよ。ね?」
 暖野は最後の問いを、トイに言った。
「そうだよ。ずっとお姉ちゃんを放ったらかしにするなんて、許せない。お姉ちゃんは僕だけで守る!」
「まあまあ」
 暖野は宥める。とにかくこの対抗心を鎮める必要があった。「マルカは昨日の晩、ずっと寝ないで守ってくれてたのよ。だから、ちょっとくらい休んだっていいでしょ?」
 自分で言いながら、よくこんな口から出まかせを言えるものだと暖野は呆れる。
「そうなの?」
 さすがにそれは効いたようで、トイは大人しくなった。
「それに、ボディガードは二人いてもいいのよ。一人よりも二人の方が強くなれるでしょ? 私は――私はそんなに強くないけど、三人いたらもっと強くなれるんじゃない?」
 トイはしばらくマルカを睨みつけていたが、やがて言った。
「分かった。このおじさんも仲間にしてあげる」
「ありがとうね」
 暖野は言った。そして、マルカのためにも訂正を忘れない。「それから、マルカはおじさんじゃなくて、お兄さんよ」
「分かった。おじさん」
 ああ、そこは直さないのね――
 マルカには可哀想だが、とりあえずの妥協点は見いだせた。3人しかいない船内でいがみ合う理由はない。
 だからと言って、三人揃っての会合は困難が予想された。暖野はここでもまた、板挟みの境遇に置かれてしまったことを悟ったのだった。
「おじさん」
 トイがマルカに言った。「船の中を見せてあげる」
 マルカが何とも言えない顔で、暖野を見る。
 ごめん、ここは彼に従って――
 声には出さず、手を合わせて見せる。
「じゃあ、案内してくれますか?」
 いつもの調子を装ってマルカが言う。
 暖野は胸を撫で下ろした。
「うん。それとお姉ちゃんも来た方がいいよ。何かあったらいけないから」
「そうね、じゃあ一緒に見せてもらえる?」
 小さいながらも、トイはなかなかの紳士らしい。マルカの前で虚勢を張っているだけなのかも知れないが、それがいじらしくもあり微笑ましくもあった。
 暖野とマルカはトイの後について船内のあちこちを見て回った。マルカは一度見ているはずだが、そこは大人しく初めて見るような振りをしていた。
 厨房や食糧庫は先に見ていたが、他に船員居住区や外からでは見えない巻き上げ機や荷下ろし設備、機関室や貯炭庫などを見せてくれた。ずっと一人でいただけあって、トイは船内の隅々まで知っているようだった。
「トイってすごいのね。何でも知ってるんだ」
 暖野は素直に驚きを表した。実際、その知識は大人顔負けだった。減速するときのエンジンの具合や舵輪を回す装置についても、一体どこで覚えたのかと不思議に思うほど詳しかった。
「ねえ、トイはいつもどこで寝てるの?」
 一通り船内を回った後、暖野はふと気になって訊いてみた。
「僕? 船長室だよ」
 臆面もなく、彼は答えた。
 でも、それはいかにもと言える。操舵室に一番近いし、個室としてはまとまっているだろう。その上、子どもの好きそうなものも揃っていそうだ。
「じゃあ、トイがこの船の船長さんなんだね」
 暖野は言った。
「そうかなぁ」
 トイが言う。「この船は勝手に動くし、どこに行くのかも知らないから」
 妙な所で現実的なトイだった。
「これまでに、どこか他の町に行ったことはある?」
「うん、一つだけ」
「どこ?」
「ずっと向こう」
 トイが船尾の方を指す。
「そこは大きな町で、港の入口に山があった?」
「そうだよ、お姉ちゃんは知ってるの?」
「町の名前は分かる?」
「えーと……」
 トイは考える目をする。「そう、沙里葉(さりは)」
 やっぱり――!
「私達ね、そこから来たの」
「本当!?」
「船も汽車も来ないから、歩いてあの町まで来たのよ」
 実際には半分かそれ以上をトロッコで移動したのだが、詳しく語る必要もない。だがトイはそれを真に受けて“大きい人はすごい”などと感心している。
「それで、沙里葉に人はいた?」
 トイは首を振った。
 そうか、やはり無人のままなのだ――
 ただ、彼が沙里葉にいたのが暖野達より先か後かまでは分からない。傾向からして後と見るのが妥当だろう。
 それほど大きな船ではないものの、小さな案内人による見学ツアーは思った以上に時間を要した。
「おやつにしようか」
 暖野はトイに言った。
「おやつ?」
 これも知らないのね――
 一人だったから、お腹が空いたら食べるという生活をしていたのだろうと、暖野は思った。
「お茶と一緒に甘いものを食べるのよ」
 べつに甘いものである必要はないが、暖野はトイを喜ばせたいという気持ちが湧いてくるのだった。
 チョコやバターのクッキー等があればいいだろう。
 そんなことを考える。
 三人は食堂の方へと向かった。