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泉絵師 遙夏
泉絵師 遙夏
novelistID. 42743
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久遠の時空(とき)をかさねて ~Quonฯ Eterno~上

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10. 光射す


 すっかり寝ちゃってたみたい――
 また、リーウに茶化されるわね――
 暖野は身を起こした。
 やけに暗い。岩がむき出しになった壁に、ロウソクの灯りがあるだけだ。
 ここは、どこなんだろう――
 暖野は見回す。
 殺風景な部屋だった。物置のような雰囲気だ。それに、誰もいない。
 まだ、頭がぼんやりしている。
 ゆっくりと立ち上がると、木戸を開けて外へ出た。
 スポットライトのような光に突然晒され、思わず手をかざす。
 だが、次の瞬間には光は失せ、前にも増した闇だけが視界の全てを覆う。
「ノンノ」
 強烈な光を浴びたせいで、良く見えない。でも、その声は――
「……マルカ?」
「随分と気持ちよさそうに眠っていたので、起こすのも悪いと思って。今、お茶を入れますね」
 マルカはポットを火にかけた。
 また戻って来たのだと、暖野は思った。安心したような、それでいて心残りのような複雑な気持ちになる。
 その時、再び光の矢が彼女を嘗(な)めて通り過ぎた。
 マルカが座っている位置は陰になっていて、照らされることはなかった。
「あれは?」
 暖野はその光の矢の先を目で追って言った。
「灯台ですよ」
 マルカが立って、その光源を示す。「さっき通って来た山の先に、灯台があるんです」
「昨日まではなかったわよね」
 もしあれば、気づいていたはずだ。灯台の光は、かなり遠くまで届く。
「ええ。私も暗くなってから、初めて気がつきました」
 マルカが言って、ポットからお茶を注ぐ。「どうぞ」
「ああ、ありがとう」
 傍の石に腰を下ろしながら、カップを受け取る。
 灯台の光が一定の間隔を置いて、周囲を照らし出す。それは沙里葉を発ってより、初めての人工の明かりだった。
 暖野は時計を出して、時間を見る。眠っていたのは2時間弱だった。まだ遅い時間ではない。
「何か食べますか?」
 マルカが訊く。
「ううん、いいわ」
「少しくらい食べた方がいいんじゃないですか?」
「うん、ホントに」
 だって、さっきお昼を食べたばかりだから――
 だが、そんなことは言えない。言っても信じてもらえるかどうか。
 夢ではない――
 リーウと食べたプレッツェルサンドの味も、しっかり思い出せる。
 でも――
 転移者――通い――
 その言葉が浮かぶ。
 どちらも現実で、二つの世界を行き来しているのだろうか。
 いや、違う。三つだ。暖野の元いた世界、魔法学校のある世界、そしてここ。
「ねえ、マルカ」
 暖野は訊いてみる。「ここから別の世界って、行けると思う?」
「それは、ノンノの世界ということですか? でも――」
 マルカは、彼女の微妙な言い回しに気づいて言った。「そうではないようですね」
 暖野は頷く。
「それは分かりません。この世界の構成上、行けるかも知れませんが」
「そう……よね。そんなに簡単にあっちこっち行けたら、ややこしいものね」
「何かあったんですか?」
「うん……。ちょっとね――」
 向こうでもある程度は事情を知られてるのだし、言ってしまっても問題ないだろう。暖野は魔法学校でのことを話した。
「なるほど……」
 マルカが腕組みをして言った。神妙な顔つきになっている。「つまりノンノは、寝ている間に魔法学校へ行っていたということなんですね。そして、転移者だと言われた、と」
「ええ。やっぱり、あの魔法の本のせいなのかな」
「どうなんでしょう……。ちょっと、本を見せてくれますか?」
 暖野は小屋に戻り、魔術書【統合科学】の本を持って来た。マルカにそれを手渡す。
「やはり、私には読めないですね」
 彼はパラパラとページをめくり、そして言った。「ノンノはどうです? 読めますか?」
 本を受け取り、ページをめくる。彼よりは慎重に。しかし読むことは出来なかった。暖野は首を振る。
「そうですか……。それで、もう何か授業は受けたのですか?」
「受けたって言うか……」
 まだ一度もまともに授業を受けていないことに気づく。「自習だったし……」
 居眠りばかりしていたとは、さすがに言えない。
「今度向こうに行ったら、授業を受けてみてください。何か分かるかも知れないですよ」
「うん。そうだといいわね」
「それにしても、転移者ですか……。それに、ノンノの時計がマナで出来ていたとか。ノンノの話しぶりだと、悪い所ではなさそうですが」
「そうね。悪い所じゃないし、悪い人たちでもないと思うわ」
「そうですね。ご飯もおごってくれますし」
 そこか――!
 マルカの言う“いい人”の基準を疑ってしまう暖野だった。
「まあ、様子を見るしかないようですね。ノンノも好きな時に行けるわけではないようですし」
「今夜、また行けるかな……」
 学院長に呼び出されたこと、心配してるだろうな――
 暖野はリーウのことを思った。
「行けるといいですね」
 マルカは言って、ポットを取る。「もう一杯、いかがですか?」
「頂くわ」
 暖野はカップを差し出した。
 灯台の明かりが間隔を置いて何度も通り過ぎる。
「ねえ。灯台があるってことは、船もあるのよね」
 去ってゆく光を眺めて、暖野は言う。
「可能性はありますね」
「駅と線路があって汽車が来たなら、港と灯台があれば船も来るって考えるべきよね」
「期待はしていいと思います」
「そうよね。でも、自分で漕ぐのはもう嫌よ」
 沙里葉でのスワンボートや、今日壊されてしまったトロッコが思い浮かぶ。
「嫌なことではなく、出て来て欲しいものを具体的に想像した方がいいですよ」
 指摘されて、暖野は出て来て欲しい船をイメージしてみる。
 だが、最初に出てきたのは飛行船だった。
 いや、これは船じゃないし――
 船って言うけど、飛行機みたいなものだし――
 遊覧船、タンカー、豪華客船、軍艦……色々想像してみるが、どれもしっくりこない。
 あ、そうだ――
 タイタニック――!
 その絶望的なイメージに、暖野は大急ぎで首を振った。
「どうしたんです?」
 マルカが不思議そうに訊く。
「ごめん。大昔に沈没した船を想像しちゃった」
「勘弁ですよ。前に一度懲りたはずじゃないですか!」
 そう、あんな小さなボートでパニックになるくらいなのに――
 マイ・パニック――
 馬鹿! 私ってば、本当にセンスなくて嫌になっちゃう――
 もう考えるのはよそう、と暖野は思った。ろくなことを思いつかない。
「寝るわ」
 暖野は言った。眠くはないが、ふて寝というやつだ。
「そうですね。向こうで食事も済ませたようですし、それがいいでしょう」
 暖野は、脇に置いていた本を持って、小屋に戻った。
 ロウソクが小さくなっていたので、新しいものに点け替える。そして座り込むと、もう一度本を開いた。
 魔法学校でのことを思い返してみる。
 黒板の“自習”の文字、食堂のメニュー、食券の印字……。それらのどれも、難なく読めた。だが、それがどういう文字だったのかは定かではない。ただ、読めただけ。それだけだった。
 ぼんやりと見たら、読めるのかな――
 暖野は敢えて読もうとはせず、本の文字を眺めた。
「……」