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泉絵師 遙夏
泉絵師 遙夏
novelistID. 42743
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久遠の時空(とき)をかさねて ~Quonฯ Eterno~上

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8. 喜ばしくない呼び名


 気づくと、生徒たちの姿がほとんどなくなっている。そろそろ休み時間も終わりのようだ。
 暖野はいつもの癖で、腰のポケットに手を伸ばす。
 懐中時計は、当たり前のように左ポケットの中にあった。それを取り出した瞬間――
「ノンノ、それ……」
 リーウが言う。その声が上ずっている。
「え? これがどうかしたの?」
「……マナ」
「マナ?」
 暖野は不審げにリーウを見ると、その眼は大きく見開かれていた。
「それ、マナの結晶で出来てる」
「これが?」
 暖野は懐中時計に目を落とした。
 確かに、その素材は今なお明らかでない。
「ちょっと、見せてもらっていい?」
「うん、それは構わないけど」
 掌のそれにリーウが触れようとした瞬間――
「あっ!」
 強烈な閃光とともに火花が迸った。
 リーウは弾かれたように手を引っ込め、二人は目をきつく閉じた。
 目を開けると、光の残像で視界がおかしくなっている。
「い……今のは何?」
 暖野が言う。
 時計は何事もなかったかのように、暖野の手にあった。
 蓋を開けてみる。壊れてはいないようだ。動いている。
「どうも、持ち主以外は触れないようになってるみたいね」
 涙の浮いた目尻を拭いながら、リーウが言った。
 周りが騒がしい。今の異変に気付いた生徒たちが、集まって来ている。
「おい、今の何だったんだ?」
「誰かが力を使ったらしい」
「爆発女かよ」
 皆口々に言っている。
「やばっ。行くわよ」
 リーウが強引に手を取り、二人は急いで退散した。
「これは、ちょっとマズいことになるかも」
 騒ぎから離れ、教室へ戻る途中でリーウが言った。
 二人とも、少し息が上がっている。
「マズいって、どんな?」
「実習以外で力を使うことは、厳しく禁じられてるの」
「でも、私たち何も悪いことしてないわ」
「まあ、それはそうなんだけどね。治安部隊が出てこないといいけど」
「治安部隊!? そんな物騒なのがあるの?」
 暖野は、一見のどかなこの学校に、そんなものがあることに驚きの声を上げた。
「正式名称は学寮部自治委員会。長ったるいから、治安部隊ってみんな呼んでる」
「でも、警察みたいなものなんでしょ?」
「ちょっと違う。自警団は別にあるけど、治安部隊は生徒による自浄と規律維持が目的なの。それによって生徒の自由を確保するっていう」
 聞くだけに、なんだか面倒臭そうだ。
「私たち、捕まるの?」
 心配になって、暖野は訊く。
「そんなに心配しなくていいわよ。悪いことしてないし、もし力が勝手に出ちゃったとしても、あれは事故なんだから」
「そ……そうよね」
「とにかく、戻りましょ。授業が始まるわ」
 追って来る者は誰もいない。食堂での騒ぎなどまるでなかったかのように、校舎横の緑地は静かだ。
 並んで歩いていると、突然リーウが吹き出した。そして、声を殺して笑いだす。
「え? え? どうしたのよ、いきなり」
 暖野は訊く。
「いやね――」
 言おうとした途端、リーウの笑いが止まらなくなった。
「何? 一体どうしたのよ!?」
 訳の分からない暖野は、不安になって訊いた。
「くっ……、ば――」
 リーウは笑いを堪えて何か言おうとするが、言葉になっていない。
「ば――爆発女って!」
 それだけ言って、また笑う。
 暖野は真っ赤になった。
「失礼ね! 誰が爆発女よ!!」
「ごめんごめん」
 笑い過ぎて目に涙を浮かべながら、リーウが謝る。だが、まだ笑ったままだ。
「私が言ったんじゃないってば」
「もう! 来た早々、変なあだ名つけられたら、たまったもんじゃないわ」
「でも、インパクトあっていいじゃない」
 まだ笑っている。
「笑い過ぎ!」
「そうやって怒ってるノンノって、何だか可愛い」
「うるさい!」
 暖野はそっぽを向いた。
「ごめんってば」
 リーウが手を擦り合わせる。だが、顔はまだ笑ったままだ。
「知らない」
「ホントにホントに」
「もう……」
「いやね、ホントはね、治安部隊がすぐに追っかけてくると思ってたのよ。でも、そんな感じもないし、ちょっと安心したら……」
「変なことで、ダシにしないでよね」
「でもさ、もう一度その時計見せてくれる?」
「また光ったらどうするのよ」
「大丈夫、今度は触らないから」
 請われて、暖野は時計を出す。リーウはそれをまじまじと見つめた。
 これって、そんなに珍しいものなんだろうか――
「マナの結晶で出来たモノなんて、私はじめて見た」
「そんなに凄いことなの?」
「マナの結晶自体は珍しくもないよ。でも、それを形にするのは……」
 リーウが途中で話を変える。「ノンノ、それはどこで手に入れたの?」
「どこって……」
 アンティークショップで普通にお金を払ってって言っても、信じてもらえるだろうかと暖野は思った。だが、そうとしか答えようがない。「骨董屋で」
「普通の?」
「うん。たぶん、普通の」
 ルクソールが魔法の品を扱っているとも思えない。
「あんたの世界がどういうとこなのか知らないけど、そんなのが普通に売ってるなら行ってみたいな」
「いや、そうじゃないと思うけど」
「まあね、ノンノもそれが何なのか知らなかったみたいだし」
 教室への廊下を進む。誰も歩いていない。
 もしかして――
 授業に遅れたのかと思ったが、そうではなかった。
 二人が教室の扉を開けた時、鐘の音が学内に響き渡った。
 それぞれの席に着く。
 だが、教師はなかなか来なかった。
 自習なのかと誰かが訊き、級長のアルティアが違うはずと答えている。
 教室内に雑談と談笑が広がる。
 そこへ、扉が開いた。
 一瞬、静かになる。
 だが、室内に入って来た人物を見て騒然となった。
「おい、学院長だぜ」
「なんで、ここに?」
「学寮部長も――」
 ざわめきが室内に満ちる。
「まさか、あの爆発騒ぎの――」
 誰かが後方で言った。
「静かに!」
 この授業を担当するはずだったであろう教師が、声を張り上げた。
「えー」
 小柄な、それでいて威厳をたたえた老人が話し出す。「ノンノ・タカナシさんは、どなたかな?」
 教室内の視線が、暖野に集中する。
 あの爆発騒ぎ、あいつだったのかよと、どこかから囁き声が聞こえる。
 老人が咳払いする。室内の空気がそれで張り詰める。風体もそうだが、彼が学院長に間違いなさそうだ。
「はい、私です」
 暖野は覚悟を決めて立ち上がった。
「そうかそうか。君がタカナシさんか」
 老人が目をすがめて言う。「まあ、そう緊張しなくともよろしい。こちらへおいでなさい」
 どうやら、先ほどの騒ぎについて叱られるわけではないらしい。暖野は言われるままに教壇の方へ歩いて行った。
 彼の前に立つと、老人が言う。「遅れて悪かったが、私はここの学院長を務めさせてもらっているコーロフ・イリアン。しがない老いぼれだよ。どうか、楽に」
「あ、はい。有難うございます。高梨――ノンノ・タカナシです」
 楽にと言われても、いきなり対面した学院長の前では緊張せずにはいられない。名前を名乗って、深々と頭を下げた。
「あー」