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泉絵師 遙夏
泉絵師 遙夏
novelistID. 42743
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久遠の時空(とき)をかさねて ~Quonฯ Eterno~上

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10. はじまりの街


 駅から続くこの道がメインストリートのはずだった。商店もきっとあるに違いない。
 以前は夜だったために分からなかったが、同じように見える建物もそれぞれ微妙にデザインが異なっていた。窓から覗くと、その多くが店であることが分かった。
 暖野はそのうちの一軒の前で歩みを止めた。
 そこは本屋らしかった。興味をそそられて、窓に顔を近づけて内部を窺う。
 普通の本屋と言うより、古書店のようだ。入ってみようとドアに手をかけるが、鍵がかかっているようで開かなかった。
「ノンノは本が好きでしたからね」
 残念そうにしている彼女を見て、マルカが言った。
 本好きなことを彼に話してはいないはずだったが、暖野は気にしないことにした。
「他にはどんなお店があるのかしら?」
 歩きながら、暖野は言う。「デパートとかアウトドア・ショップとかは……なさそうね」
 もしあるとしたら、道具屋とか武器屋、防具屋だろうか、などと考えてみる。
 ちょっと。武器と防具って、何と闘うのよ――!?
 真面目に考えている自分が馬鹿みたいに思えてくる。それに、武器を必要とするような世界など、まっぴらごめんだ。
「ノンノは、どんな店を探しているんですか?」
「道具屋よ。長旅になるんだったら、それなりの装備が必要でしょ?」
 言ってはみたものの、それらしき店はありそうもない。幾つかの店のドアを試してみたが、どれも鍵がかかっていた。
 これは困った、と暖野は思った。例え目当ての店を見つけることが出来ても、中に入れなければ意味がない。
「ねえ、マルカには心当たりはないの?」
 訊いてみたが、彼は首を横に振った。
「でも――」
 彼が思いついたように言う。「もしかしたら、ノンノにはあるかも知れません」
「訊いてるのは私なのよ」
「だからですよ」
 またか、と暖野は思った。
 そう言えば道具屋とか、表通りにはなさそうな感じがする。小さな町ならともかく、こんな大きな街なら裏通りにひっそりと――
 そうか、そういうことか。暖野は合点がいった、ような気になった。
 冒険家向けの店は、秘密めいた裏通りの――
 そこまで考えたとき、すぐ脇に猫の通路かと思えるほどの狭い路地があるのに気づいた。
 大通りはそのまま丘の方へ向かっている。脇道へそれるのもいいかも知れない。
「こっち、行ってみない?」
 暖野は路地を指さして言った。
「ずいぶん暗いですね」
 マルカが奥を覗き込む。「大丈夫でしょうか」
「盗賊とか変なのも、どうせいないんでしょ?」
「あのですね」
 マルカが真面目な口調になる。「その、物騒なことを言う癖、やめた方がいいと思います」
「そう? だって本当でしょ? 私たち以外は誰もいないんだし」
「まあ、そうですが……」
 路地へ入り込んだ彼女の後に、複雑な顔をしつつマルカが続いた。
 それほど長い路地でもなかった。通用口らしい質素な扉の前を幾つか過ぎると、小さな広場に出た。
 中央に共同のものらしい井戸がある。広場の一角に、看板を掲げた戸口があるのを、暖野は見つけた。
「ふふん」
 暖野は軽く鼻を鳴らして、そちらへ向かう。
「どう?」
 そして、マルカの方を向いて、腰に両手を当てて言った。
「どうって言われましても……」
 マルカが返答に困ったように言った。
「これ、絶対に道具屋よ」
「そうなんですか?」
「見てなさい」
 暖野はドアに手を伸ばした。
 しかし、これまで同様に開かない。
「どうしてなのかしら」
「分かるわけがないでしょう。そもそも道具屋かどうかも」
 確かに、そうだった。ドアの他には窓もなく、中がどうなっているのか知りようもない。もしかすると、ただの鍛冶屋とかだったりするかも知れなかった。
 これは絶対に道具屋だと確信めいたものを持っていた暖野は、騙されたような気分になった。
 広場からは四方に路地が延びている。
 もう少し先へ行ってみようと、そのうちの一つを進むことにした。
 路地を抜けると、そこは至って普通の裏通りだった。普通とは言っても、彼女にとっては初めての場所、初めて見る風景である。
 彼女の目の前にあるのは、海外旅行のパンフレットに出てきそうな、典型的ともいえる中世風の街並みだった。どこかの窓際に猫の一匹でも日向ぼっこしていれば、完璧だった。
 暖野は携帯を取り出して、写真を撮る。
 これは、どうしても撮らずにはいられない。
「それは、電話でしょう? 何をしているんです?」
 しゃがんで構図を決めている彼女に、マルカが訊く。
「写真撮ってるのよ」
「電話じゃ――」
「色々あるのよ」
 そう言って、マルカに向き直る。「そうだ。マルカも撮ってあげるわ」
「よ、よして下さい!」
 マルカが、あたかもスクープ写真を撮られる芸能人のような仕草でそれを拒んだ。
「どうしてよ。せっかく撮ってあげようって言ってるのに」
 暖野はむくれる。
「いらないです! 本当に!」
「そう? そんなに言うなら……」
 暖野は諦めた――わけではなかった。
 彼が気を抜いたほんの一瞬を狙ってシャッターを切った。
 通りには当然、人影はない。
 車がなんとかすれ違えるほどの幅の石畳の道が続いている。
 こういう所には、場末の酒場とかがあって、情報収集とかするのよね――
 暖野は思いながら、歩き出す。
 しかし今は朝だ。こんな時間から開いている酒場などあるはずがない。万一開いていたとしても、未成年の彼女は門前払いされるに違いなかった。
 まあ、酔っ払いの相手なんてしたくもなかったので、それはそれでいいのかも知れない。もっともここには、酔っ払いどころか人っ子一人いないのだが。
 すること、ないなあ――
 暖野は退屈になってくる。
 何の変哲もない住宅街など、歩いていても面白くない。ひやかしてみるような店もない。目当ての道具屋も見つかりそうになかった。
 冒険って、こんなにつまらないものだったかしら――
 彼女は小さな頃、男の子について一緒に探検ごっこをしたこともある。あの時はもっと楽しかったように記憶している。暖野が部下で、男の子が隊長だった。その子のことを“隊長”と呼んだり、役になりきることが楽しかっただけなのだろうか、と思い返してみる。
 お話を読んでいても冒険ものはワクワクするのに、実際に自分がそれをやると、想像していたよりも面白くなかった。
 そんなものなんだろう、と暖野は思ってみる。
 お話になるような冒険譚など、結果が得られたり特別な体験を綴ったものなのだ。実際には何の結果も得られず、冒険家自身が死んでしまったりする方が多いはずだった。
 暖野は複雑な気分になった。
 どこまでも単調に続くかと思われた通りだったが、少し先に変化があるのが見えた。
 家並みが途切れている。たどり着いてみると、そこは運河の畔(ほとり)だった。道はそこで橋を渡り、これまでと同じような家並みの間へと続いていた。
 運河の両側には舗道。
 最初、左に曲がって、それから右――
 暖野は辿って来た道順を思い返した。ここを右へ行けば駅への大通り、左へ行けば河へ出るはずだ。