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泉絵師 遙夏
泉絵師 遙夏
novelistID. 42743
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久遠の時空(とき)をかさねて ~Quonฯ Eterno~上

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「それほど驚くことはない」
 アゲハは至極当然のことのように言った。
「それは今すぐのことではない。君に自覚はなくとも、いずれそうなる。伝説とはその本人が自分で伝えるものではないからだ」
 まあ、それはそうだろうと暖野も思った。
「私は、想像するだけでいいんですか?」
 暖野の言葉に、アゲハが深く頷く。
「そうすることで、あとは何をすればいいか自ずと判ってくるだろう」
 そこまで言って、アゲハは初めて暖野から視線を外して遠くを見やった。
「ごらん」
 机の背後の大窓の方を向き、アゲハが言う。「間もなく、月が昇る」
 窓の外は、ほとんど漆黒の闇だった。遠くの山が仄明るい光で縁取られている。
 暖野はその稜線を見つめた。
 部屋に沈黙が訪れる。三人は口を開くことなく、じっと窓の方を見つめていた。
 やがて稜線から眩しい光が放たれた。月が昇ったのだ。
 月の光がこんなにも眩しいものだとは、暖野はこれまで知らなかった。
 少しずつではあるが月は着実に顔を出し、下端が稜線を離れる頃には外はもう闇ではなくなっていた。
 月光は眼下の湖面に反射して、微かなさざ波は白銀の粉を散らしたように見えた。暖野はその光景に心を奪われた。
 ――こんなに美しいのに……
 こんなにも美しいのに、ここは今まさに消え去ろうとしているのか……。
 その頬を、知らず涙が伝い落ちる。
「あの……」
 暖野は言った。「あなたは……」
「そうだったね」
 アゲハは寂し気に笑った。「私は……もし、そう言うことが許されるなら宇宙意思、その代理者。君をここまで追い詰めてしまった。申し訳ない……」
 暖野を見つめ、そして首(こうべ)を垂れた。
 静寂の時が流れる。
「時は満ちた。これが、ここで見る最後の月となるだろう。そして、君にとっては最初の月となる」
 やがて、アゲハが歌うように言った。「あとは、頼んだよ」
 沈黙の中で、その言葉だけが取り残された。
 蒼い光が眼下の湖、そして山野を照らしていた。三人は黙したまま、しばらくその光景に見入っていた。
 ここで見る最後の月、そして最初の月……。その言葉は、暖野の心に深く刻まれた。
 私は、新たな年代記(クロニクル)の創始者になるのだろうか――暖野は思った。
 まさか、そんな大それたこと、と彼女はすぐさま心の裡で激しく否定する。
 そんなこと、できるはずがない――
 しかし、実際にはどうしようもなかった。何とかせねば、元の世界へ帰ることもおぼつかないのだ。
 ここで経験したことを心に留め、想像する。それが、この世界を救うことになるとアゲハは言った。
 それからのことは、自ずと判るだろうとも。
 なんて漠然とした――!
 一見簡単なようではあるが、暖野にはどうも腑に落ちなかった。
 それだけで、果たして世界は救えるものなのだろうか、と。