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泉絵師 遙夏
泉絵師 遙夏
novelistID. 42743
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久遠の時空(とき)をかさねて ~Quonฯ Eterno~上

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「そっか、そっか」
 リーウが何度も頷く。「それで、声をかけるタイミングを窺ってたってわけね」
「ちょっと、何か思いっきり勘違いしてるみたいなんだけど」
「いいのよ。勘違いも……ね」
 いや、本当に違うんだってば――
 意味ありげにウィンクしてみせるリーウを軽く睨む。
「もう、いいわ」
 暖野は席を立つ。
 その途端に鐘が鳴った。
「え?」
 授業って、6時限までじゃないの――?
「古典魔術の時間よ」
 リーウが言う。
「ここって、何時限まであるの?」
「8時間目まで」
「ホントに!?」
 暖野は目を丸くした。幾ら魔法とかそういうのが好きでも、8時間も学校で授業を受けるのは疲れる。もっとも暖野は今日は3時限目からしか来ていないのだが。
 これまで気にも留めなかったが、ここでの一日は何時間なのだろうと、暖野は思った。
 教師が入ってくる。女性教師だった。
 ああ、結局聞きそびれた――
 号令に合わせて立ち上がりながら、暖野は溜息をついた。
 授業中、フーマがいなくなっていないかと気が気でなかった。彼の席は暖野より後ろのため、振り返ってその存在を確かめることも出来ない。
 次の休み時間には、何があっても絶対に訊くと、暖野は心に決めていた。
 ずっとフーマの存在ばかりが気になる。そうではないと分かってはいても、理不尽なほどに緊張だけが高まる。
 肩を叩かれて、意識が引き戻される。
「呼ばれてるよ」
 後ろの席の子が囁く。
「タカナシさん」
 先生が言う。どうも指名されているようだ。「次のところ、読んでくれますか?」
「えーと……」
 暖野は教科書に目を落とす。全く聞いていなかったので、次のところがどこなのかも分からない。「済みません。聞いてませんでした」
「しっかりしなさいね。古典だからと侮ってはいけませんよ」
「はい……」
「じゃあ、代わりに――」
 教師は他の生徒を指す。
 考えてもしようがないか――
 暖野は教師が言ったページを開いた。
 受けたかった授業に出られたんだし、ちゃんと勉強しないと――
 終業の鐘が鳴る。
 すぐにでもフーマの所に行こうと考えている所へ、教師に呼び出された。
「タカナシさん。今日の授業の所、次までにレポートを書いておきなさい」
「はい……」
「古典魔術は統合科学の基礎理念の一つで、大切な分野です。古いだけあって非常に強い力を秘めているので、操作倫理の一翼も担っています。あなた自身が怪我しないためにも、しっかりしなさいね」
「はい。どうもすみませんでした」
 暖野は頭を下げた。
「怒られちゃったね」
 教師が去ってから、リーウが声をかけてくる。
「うん……」
 力なく、暖野は答える。でも、それどころじゃない。フーマは――「あれ?」
「あいつ、帰ったみたい」
 リーウが言う。
 ちょっと……それはないでしょ……――
 暖野はその場にへたり込んだ。
 この悶々とした思いを抱え続けなければならないのか。自分が元の世界に戻るか、或いは次にフーマが現れるまで。
 確か、授業はあと一つ残っている。
 気の遠くなる思いだった。
 実際に気が――
「ちょっと! ちょっと――…… ノン……」
 リーウの姿が霞む。
 これで、戻れるのかな――