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泉絵師 遙夏
泉絵師 遙夏
novelistID. 42743
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久遠の時空(とき)をかさねて ~Quonฯ Eterno~上

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2. 舞い上がる


 そして、実習時間。
 クラス全員がグラウンドに集結している。
 教師は、見るからに体育会系の強面。リーウが事前に問題ないと言ってくれていたが、暖野はやはり緊張してしまう。
 実習って、何をやるんだろう――
 前に、魔術を実際に使う授業とか言ってたけど――
 お話や本でどれだけ読んで親しんではいても、実際にそれをやれと言われると委縮してしまう。
「では、三人一組になって」
 教師が言う。体格の割には高い声だ。
 暖野はリーウと、なぜかカクラと組むことになった。
「カクラ君。よろしくね」
 暖野が言うと、彼は無言で頷いた。
 何を考えているのか分からないところはあるが、どことはなしに信頼はできそうだと暖野は感じた。
「では、今から浮揚術の実習に入る。各自は担当と非常時の心得を再度確認するように」
「はい!」
 一同、答える。
「では、開始! 目標は先の図円。到達は自身でも仮象でもよし」
「はい!」
 意味は分からないが、暖野も声を上げる。
「俺が行くか、お前が行くかどうする?」
 カクラが訊いてくる。
「私、よくわからない。あなたの方がいいんじゃないの?」
「さあ、どうかな?」
 カクラが不敵に笑う。
 って、私たち、同じグループじゃ――
「俺は、タカナシを推す。マーリは?」
 振られて、リーウが慌てる。
「わ……私に訊かれても。あんたたち、好きにやってよ。出来るだけサポートはするから」
「よし」
 カクラが言う。「お前、行け」
 って、え――?
「行けって?」
「あのターゲットに立てばいい」
 暖野は、そのターゲットを見た。今立っている場所から五メートルも離れていない円陣。魔法とかどうとかより、ただ歩いた方が早いのではないか。実際、歩いてそこに到達するのが最良の方法であり、マナの無駄遣いも防げるはず。だが、これは授業なのだ。
「あそこに立てばいいのね」
 暖野は言う。
「やっぱり無茶よ。ノンノは初めてなのに」
 リーウが止める。
「大丈夫だ、見てろ」
 妙に自信たっぷりにカクラが言う。
「フーマ・カクラ。あなたは、私がこれを出来ると本当に思ってるの?」
 暖野は確認する。
「まず身体の比重を変える。次に移動したい空間に流れを作り出せ」
 カクラが説明する。「無理に集中しようとするな。無意識の領域を呼びこすんだ」
「簡単に言ってくれるけど」
「夢を見るときみたいにやればいい。無理に寝ようとしても寝られないだろう?」
「なんか、よく分からないけど……。集中しないで集中しろってこと?」
「集中するのは無意識の側へ。意識では集中するなってことだ」
「そんなこと、私に出来るのかなあ?」
「出来る。お前がお前自身を信じる限り」
 応援してくれているのは分かるけど――
 暖野は何をどうしてよいのか分からぬままに思いを込めた、カクラの信頼、リーウの友情。その思いを抱えて。
 周りで砂埃が巻き上がる。
 自分の足が地面を離れることをイメージする。
 心を空にして、体が軽くなるのをあたかもそれが実際に起こっていることのように認識させる。
 上へ、上へ――
 どよめきで、暖野は目を開けた。
「え!?」
 暖野は空中高く浮いていた。
 驚きでバランスを崩す。
「落ち着け!」
 カクラが叫ぶ。
 暖野は急に体が重さを取り戻したように感じた。
 同時に大きく体勢が崩れる。
 リーウが暖野の方に向かって何かしている。
 ダメ! 墜ちる――!!
「目を閉じろ! ターゲットを引き寄せるんだ!」
 暖野は強く目を閉じ、目標の円陣を思い浮かべた。足元にそれがあることを念じる。
 急に全ての物音が消えてしまったように感じた。
 静寂と暗闇。
 そうか、目を閉じてたんだ――
 暖野は、ゆっくりと目を開ける。
 皆が息を呑んで彼女を見ている。ある者は口をあんぐりと開けて、女子の何人かは口に両手を当てて。
 誰もが目を見開いたまま声を失っている。
 彼女は、円陣の中央に立っていた。
 うそ……
 暖野は信じられない思いだった。
 喝采が沸き上がる。
 リーウが抱き着いてくる。
「やったじゃん!」
「ちょっと、痛いって」
 いや、抱き着くのはいいけど、キスはやめて。勘違いされたら……
「一時はどうなるかって思った。心臓止まりそうだったわ!」
「それは、私の台詞よ」
 暖野は言う。
「さすがだ、タカナシ」
 カクラが手を差し出す。
「あなたのせいなんだからね。もう!」
「でも、出来たろう?」
「ええ、まあ……」
 暖野は言った。「でも、あなた私に何かしたでしょう?」
「アドバイスな」
「そうじゃなくて」
「お前を保持したのは、マーリだ」
「リーウが?」
 そう言えば、彼女は暖野に向かって手をかざしていた。
「そう」
 暖野はリーウに向き直る。「ありがと、リーウ」
「私はサポートだからね。でも、一瞬だけよ。後は全部ノンノがやったんだから」
「さあさあ、そこまでだ」
 教師が言う。「タカナシ、君は初めてだったんだな」
「はい」
「君のチームはなかなか優秀だが、いささか無謀に過ぎる」
 そう言って教師は、リーウとカクラを睨みつけた。
 いや、リーウは反対してくれたんだけど――
 実習の授業で、円陣に移動できたのは十組中三組だけだった。暖野の組、級長のアルティアの組、そしてメリアという調流士志望の子の組だけだった。他の組は浮揚に成功しても円陣に辿り着けなかったか、そもそも浮揚すら出来なかった。
 いきなり難易度高過ぎなんだけど――
 暖野は思う。それでもパス出来たのは、リーウとカクラのお蔭なのだと。
「よし、今日はここまで。うまく出来なかった班は理由をレポートにして出すように。成功した班もレポートすること」
 教師が甲高い声で言った。
「はい!」
 授業終了の鐘が鳴る。
「はぁ……」
 暖野が息をつく。「緊張したぁ」
「あんた、初めてにしたら上出来すぎ。改めて見直しちゃった」
「もう、こっちの身にもなってよ」
 もっと前からいるリーウやカクラがすべきことを、いきなりやらされたのだ。しかも、ほとんど授業も受けぬままに。苦言の一つもあろうというものだ。
 それは、いきなり水に投げ込まれて泳げと言われるようなものだった。
「あんた、授業は初めてだもんね」
 リーウが言う。
「そうよ」
「じゃあ、良かったじゃない」
「よくないわよ。リーウもカクラ君も無茶過ぎ。いきなり先生に怒られるし」
「ノンノには怒ってなかったよ」
「だからって……」
「初めての授業は、どうだった? ノンノ、授業受けたかったんでしょ?」
「よく分からない。分からないうちに進んでいくみたいで」
「私もよく分からない」
 リーウが笑う。
 いや、その分からないのを、いきなり押し付けたんじゃないの? と暖野は思う。
「お昼、行こうよ」
 リーウが言う。
「うん、そうね」
 そうか、さっきのが4時限だったから、今は昼休みなんだ、と暖野は思った。
「今日のランチはね」
 リーウが目を輝かせて言う。「スパイシー・ホットドッグなのよ!」
 それって、そんなにすごいことなの――?