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亨利(ヘンリー)
亨利(ヘンリー)
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おしゃべりさんのひとり言【全集1】

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その84 窒息覚悟



25メートルプールの第6レーン。
僕は腹まで水に浸かりながら、大きく深呼吸を繰り返した。
まだ高校1年の頃に、血中酸素濃度を上げるとかいう知識はなく、思いっきり息を吸って、肺を引き伸ばし、出来るだけ多くの酸素を取り込もうとしているだけだ。
第5レーンでは、水泳部の岩崎君が同じように準備している。
その彼は、競泳用のブーメランパンツと、目玉にかけるゴーグルも装着する本格派。
対する僕の方は、普通のトランクスタイプの水着で、目には何も着けていない。
体育の授業中、ほんのわずかな自由時間に、僕らがやっていたのは潜水対決だった。
「よ~い、スタート!」
一応そんな掛け声もあったと思うけど、僕らはスピード勝負しているわけじゃなく、潜行距離を競ってただけなんで、それにはあまり意味がない。
だから各々のタイミングで静かに顔を水中に沈め、プールの壁を力いっぱい蹴り、体を一直線に伸ばした・・・


僕は小学校の時に4年間、ちょっと有名な水泳教室に通ってたんです。オリンピック選手も輩出してたけど、大きい教室だったので、僕との面識はないですけどね。
競泳のコースに所属していても、僕自身の実力では、何かの大会に出られたことはありません。ただ週に3回、約2時間泳ぎに行っていただけで、基本の4泳法の他に、溺れた時の対処のための古式泳法や、シュノーケリングに役立つドルフィンキックの潜水なんかも練習してたっけ。その他、オーバルプールで2キロの遠泳や、真冬の寒中水泳なんていう辛い経験もしました。

ところで、皆さんはどれくらいの時間、息を止めていられますか?
小学校の頃は、1分止められると凄いって思ってたけど、中3の時には3分も止められるようになっていました。これは、バスケ部のランニングとハードな練習に、遅れを取らないスタミナが身に付いたからだと思います。
その当時の体力検査で、肺活量測定がありましたが、僕は4000㏄以上の結果でした。これは口に咥えたチューブを思いっきり吹いて、水中に沈んでいる測定器をどれだけ浮上させらせるかで測定するものです。(最後は貧血で倒れそうになってたな)
肺活量4リットルって、大人のアスリート並みだと聞きました。友達には誰一人として、そんな記録は出せませんでしたよ。

今でも年1回の健康診断の際に、胸部X線検査の技師が僕の画像を見て「肺が大きいですね」とよく言われるので、なんかちょっと恥ずかしいです。
でも残念ながら、スタミナはもう無くなってしまいました。今は息を止めていられるのは、せいぜい1分半くらい。真剣に挑戦して2分がギリギリでした。
これをどうやって試したかと言うと、お風呂に浸かりながら、スマホのストップウォッチ機能で測定してみたのです。
顔を半分(目の下まで)お湯に浸けて、じっとしながらです。すると、1分を超えたくらいから、急に苦しくなり出します。その後は少しずつ息を吹き出しながら、肺を縮めていきます。そうすると、もう少し延命(?)できるでしょ。
息を全部吐き切ってしまってからは、その状態で胸骨を思いっきり引き締めるようにする(つまり肺を喉に吸い上げるかの如く、胸がペタンコに薄い状態を筋力で作る)と、さらに数秒耐えられますが、このコツを知っている人は、あまりいないでしょう。これで1分半くらいがやっとです。
でも水中じゃなければ、もう少し楽に息を止め続けられるんですよね。ソファに座って、測定するとなんとか2分持つんです。この違いって何でしょうか?
水圧で体に負担がかかってると、酸素の消費量が増えてしまうんですかね。
「皮膚呼吸できないから」ってうちの母さんがよく言ってましたけど、もともと人間は、皮膚に浸透する酸素程度では生命維持してないようです。
ま、詳しいメカニズムは調べたことないですけど、経験上、水中じゃない方が長く息を止めていられるのは事実です。

じゃ、冒頭の潜水対決はどうなったかと言うと、僕は対戦相手の岩崎君に勝つ自信がありました。25メートル潜水は二人とも何度もやっていて、折り返してどこまでいけるかに挑戦していた頃のことだったので、僕は50メートル達成を目論んでいました。
50メートルは前人未踏の記録です。(僕の高校での話)

25メートルで競争をするなら、ドルフィンキックで泳いだ方がタイムはいいけど、同時に体力も消耗してしまうんで、長距離、長時間には向きません。
水中では、出来るだけ楽な姿勢で潜行します。泳ぎ方は平泳ぎに近いんだけど、頭を低くして、両手をかく時は水平ではなく、やや下から後方へかき上げるようにしてから、体を一直線にするのが最も楽に進めると気付きました。
深すぎると水圧で不利になるけど、体が水面に出ると潜水とは認められないんで、水深50センチ付近で泳ぐのがいいようです。
最初は伸び伸びとゆったり進んで、酸素消費量を控えて体力を温存。(血中での二酸化炭素へのガス交換を、少しずつ、ゆっくりと、長くってことですけど、当時はそんなメカニズムなんか知ったこっちゃない)
となりで泳ぐ岩崎君が先行してるけど、それは意識しなくてもいいんです。マイペースを重視した方がいいはずですもん。
25メートルが近付くと、岩崎君のペースが上がり始めました。もう苦しくなり始めているんでしょう。
彼が先にターンしました。この時点で僕は、3メートルほど遅れを取っていたと思います。かなりゆっくりペースってことです。
大きく水をかいては、両手を腰にピタリと付けて、体を一直線にしばらく進む、そしてまたゆっくり大きなストロークの後、体を伸ばす。この繰り返しはまだ4~5回くらいしかしていないと思います。