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秋月あきら(秋月瑛)
秋月あきら(秋月瑛)
novelistID. 2039
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堕とされしものたち 機械仕掛けの神

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 警備員の見守る中で夏凛は手袋を外して、その手をディスプレーに乗せ、顔の前にある機械に空いた穴を覗き込む。すると、指紋や体温のチェック、眼球のスキャンなどがなされ、本人ということが確認されたのちに扉が開く仕組みになっている。
 左右に開かれた扉の中に夏凛が入っていく。
「二人とも早く、ぼーっとしてると扉が閉まっちゃうから」
 ファリスは慌てて夏凛の後を追い、鴉は軽やかな歩調でファリスに続いた。
 一階のフロアは住居ではなく、ジムやコンビニなどが設置されている。マンションの外に出なくとも十分生活ができるようになっている。
 高級マンションとは程遠い生活をしていたファリスは目を輝かしていた。
「スゴ〜イ、なんで、マンションの中にショップがあるの!?」
「高級マンションだからねっ」
 少し自慢そうに夏凛は言った。その言葉にファリスはすぐに顔を赤くして、そっぽを向いた。
「別に羨ましいわけじゃないからね、ちょっと、スゴイなぁって思っただけ」
「ふ〜ん」
 薄く笑う夏凛は少しファリスを見下しているようだった。こんなところで夏凛はファリスになぜか対抗意識を燃やしていた。
 エレベーターに三人が乗り込むと、どんどん上がっていく。夏凛の部屋は最上階の角部屋だった。
 エレベーターのドアが開かれると、そこはガラス張りの壁で、巨大都市エデンが一望できた。
 地上三五階の景色は壮大であるが、交渉恐怖症の人には辛い。事実、ファリスはガラス張りの壁からなるべく離れて歩いている。
 一方の壁がガラス張りになっている廊下を進み、角部屋のドアの前で夏凛の足が止まる。
「ここがアタシの部屋だよぉん」
 ドアに夏凛が手を掛けると、自動認証システムにより鍵が自動的に解除され、ドアが開かれた。
 部屋の中では電話が鳴っていた。
 夏凛はすぐさま受話器を取り、しばらくして不機嫌な顔をして受話器を置いた。
「この近くで怪物が暴れてるらしくって、応援要請されちゃってけど……どうしようかなぁ〜」
 夏凛は二人の客人を見て腕組みをした。
 鴉はファリスの頭を軽く撫で、黒衣を閃かせながら踵を返した。
「君はここで待っていろ。私は彼と出かけて来る」
「アタシとぉ!?」
 驚いた表情を浮かべる夏凛であったが、すでに鴉は部屋の外に出ている。
 夏凛はうんざりした表情でファリスを見つめた。
「テキトーに部屋で寛いでて、お腹空いたら冷蔵庫の中に入ってるもの食べて良いから。それから誰かが尋ねて来ても無視しちゃっていいからね。うんじゃ、大人しくお留守番しててね」
「えっ、え、あのさ……」
 手を伸ばすファリスを尻目に夏凛は急いで部屋を出た。すると、鴉がドアを出てすぐのところに立っていた。
「早く行くぞ」
「あのさぁ、なんでわざわざアナタが行くの? アタシは今回の仕事、断る気満々だったし、別に仕事の依頼もされてないアナタが行くことないでしょ。まあ、怪物を退治したら懸賞金かなんかが貰えるけど、アナタは懸賞金目当てってわけでもなさそうだし」
 鴉はなぜ戦い、何と戦っているのか?
「話は済んだか? ならば先を急ぐぞ」
「なにそれ!? アタシの質問には何一つ答えない気?」
「人間の命がかかっている、だから私は行く」
「それって正義の味方ってこと?」
「私は正義の味方ではない。強いて言うのならば悪魔だ」
 鴉は不適に笑うとそれ以上は口を開かなかった。

 ビルの屋上からゾルテは下界を見下ろしていた。
「いい余興が見つかった」
 その言葉はビルから凄い勢いで落ち、地面に当たる寸前に跳ね上がり、その場で起きた爆発に呑まれて消えた。
 車の屋根から屋根へと我が物顔でしなやかにジャンプする巨大生物。その姿は毛の長い白猫に似ているが、大きさは馬よりも大きく、猫とは言いがたい。
 車の屋根が急にへこみ、中に乗っていた男が慌てて外に飛び出すが、屋根に乗っている巨大猫に驚き身動きひとつできなくなる。次の瞬間、男は叫び声をあげるが、その声は大きな口の中で鳴き止んだ。
 大きな首を巨大猫が振り上げると、辺りに血飛沫が舞い、アスファルトの地面を華やかに彩った。
 逃げ惑う人々を都市警察に誘導され、ほとんどいない。だが、残念なことに巨大猫の近くにいる車に乗った人々は車の中で震えることしかできなかった。今、外に出れば巻き添えを喰うだけだ。
 対戦車用バズーカ砲が巨大猫に発射される。常識のない人間は街中でバズーカ砲を撃つなどとんでもないというが、大物のキメラ生物に拳銃で立ち向かうよりは常識のある行動だ。
 空気を轟と鳴らすバズーカ砲を巨大猫は優雅なまでのジャンプで躱した。
 跳躍する巨大猫は数多の銃弾を受けるが、その程度は傷にもならず、なったとしても驚異的な再生力で回復してしまう。
 巨大猫は大きく鳴いた。それもただ鳴いただけではなかった。大きく開けられた口の中から渦巻く光が発射されたのだ。それはまるでレーザービームのように辺りを焼いた。
 再び巨大猫にバズーカ砲が撃ち込まれるが、巨大猫はしなやかにジャンプして軽がると躱す。それによって後方の建物に大きな穴が空き、都民の税金がまた使われることになった。
 これほどの大物のキメラとの戦闘は久しぶりで都市警察が手を焼いていると、空から誰かが舞い降りてきた。政府からの応援かと人々は思ったが、雰囲気が可笑しい。
 漆黒の翼をはためかせ、風を纏い地上に降り立った美しき魔人――まさしく、それは魔王の貫禄を十分に兼ね備えている闇の王。
 地上に降り立ったゾルテは自分を唖然と見ているノエルを見渡して嘲笑った。
「か弱いなノエルは、だからこそとても愛おしくも思える」
 妖艶とした美しさを持つ男ゾルテが優雅な足取りで巨大猫に近づく。すると、巨大猫が腹を上に向けて喉を鳴らしはじめたではないか。
 都市警察は巨大猫に銃口を向けながら息を呑んだ。威風堂々と悠然とした態度で美しきゾルテはなおも巨大猫に近づいていく。
 誰もが目を見張った。ゾルテは膝を地面につき、巨大猫の首筋に噛み付いたのだ。
 誰もがゾルテの行動が理解できずに頭を悩ました。だが、立ち上がったゾルテの口から血が地面に吐き出されたのを見て、ぞっとした。
 口元を腕で拭ったゾルテは笑みを浮かべる。
「臭味があるな」
 次の瞬間、巨大猫に異変が起こる。背中が開け黒い翼が生え、犬歯が伸び爪も伸び、巨大猫の身体は紅蓮の炎を纏い揺らめいた。
 炎を纏う巨大猫――炎猫が身体を震わせると、辺り一面に炎の雨が降り注いだ。
 一般人の退避は済んでいるものの、炎は街路樹を燃え上がらせ、アスファルトを焦がし、置き捨てられた車が炎上爆発する。
 この場に駆けつけた鴉は小さく呟く。
「人間外のエスか、少々厄介だな」
「エスって何? ウィルスか何かの名前?」
 小柄な夏凛が鴉を見上げて問うと、鴉は巨大猫の横で嗤うゾルテを指差した。
「あそこにいる翼を生やした男はソエル、人間ではない。そして、そのソエルがホストとなり、血を吸った相手を怪物にする。その怪物のことをエスという」
 夏凛は少し考えた後、思いついたように手を叩いた。
「ヴァンパイアと血を吸われた人みたいなもん?」
「そういう伝説にもなっていたな」