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秋月あきら(秋月瑛)
秋月あきら(秋月瑛)
novelistID. 2039
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堕とされしものたち 機械仕掛けの神

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 鴉は苦笑しながら説明を続けた。
「ソエルもエスもヴァンパイアのように驚異的な再生力を持ち、弱点は身体のどこかにある核を壊すことのみ」
「十字架とか日の光とかは弱点じゃないの?」
「ソエルは日の光に弱いが、長時間日に晒されていなければ問題ないだろう」
 夏凛は全身を黒衣に包まれた鴉を一瞬見てなにかを思ったが、あえてそれに関しては問うことを止めた。
 腕を上げた夏凛の手にはいつの間にか現れた大鎌が握られていた。この大鎌は夏凛が別の場所に保管しておいたものをこの場に召喚[コール]したものだ。
 大鎌を別空間から取り出した夏凛を見て鴉は感嘆した。
「数少ない魔導士のひとりであったのか。ならば、あの化け猫を君に任せよう」
「可愛い猫を傷める趣味はないんだけどぉ」
「私はあのソエルと話をしてくる」
 黒衣を翼のようにはためかせた鴉は疾風のごとく駆けていった。
 道路に置き捨てられた車の上を翔け、鴉は黒衣をはためかせた。
 覇気を纏うゾルテは自然な体勢で鴉を出迎え、微笑った。
「余の敵となるか鴉?」
「どうやらそのようだ」
 鴉に表情はない。かつては友であったとしても、鴉は過去を捨てられた者だ。
「余に勝てるか?」
「勝たねばならん」
「そうか……」
 一瞬うつむいたゾルテはすぐに顔を上げ、戦闘の構えを取ると邪悪な笑みを浮かべた。
 次の瞬間、ゾルテは地面を蹴り上げて鴉に襲いかかった。
 ゾルテの右腕は〈ソード〉と化し、鴉の右手も鋭い爪と化していた。
 振り下ろされた〈ソード〉は鴉の鋭い爪によって振り払われ、空かさず鴉のハイキックが繰り出される。
 鴉の蹴りがゾルテに命中する瞬間、ゾルテの身体が黒い霧と化して消えた。
 空気に溶けた黒い霧から声がする。
「嘆かわしい、余と肩を並べるほどの貴公が、ここまで堕ちていようとは!」
 愁いを帯びた声が当たり木霊した。その声は空気を大きく振動させ、ビルの窓を割り、比較的近くにいた人々の鼓膜を破った。
 黒い霧はやがてソルテをつくった。
「鴉、もしや貴公はエイースを十分に摂っていないのではないか?」
「理性を保てるだけ摂っていれば十分だ」
 鴉の言葉を聞いて頷いたゾルテは武器を構え何もせずにいる人間たちを指差した。
「なるほど、それが原因であるか。エイースを飲むのだ、そうでなければ余の相手は務まらんぞ」
「断る」
「強情な奴だ。貴公に何があったというのだ? なぜエイースを拒む?」
「私に与えられし罰だ」
「無実の罪であろう」
「それでも罰は受けねばならん、それが天の意思だ」
 頑なな姿勢の鴉にゾルテは憤怒した。
「それが間違っているというのだ。だからこそ、余は楽園[アクエ]を真の楽園[アクエ]とするために立ち上がったのだ」
「私は堕ちようとも神に使えるものだ」
「神などいない! そのような存在がいるのであれば、今ここで余の身体を雷で射抜いて見せよ!」
 ――何も起きなかった。
 ゾルテは高らかに笑い、鴉は無表情なままだった。
「はははっ、何も起きないではないか! やはり、神などいないのだ」
「神の意思は必ず遂行される、それが理だ」
「ならば、反逆者である余は必ず討ち取られるというのか?」
「そうだ」
 鴉の黒衣が風もないのに、漆黒の翼のように大きく広がった
 波打つ黒衣はまるで生きているようであり、その動きは呻きもがいているようにも見えた。
 ゾルテの耳には叫び声が届いていた。その声は確かに鴉の黒衣から発せられている。
 鴉の無表情な蒼白い顔は宇宙[ソラ]を仰いだ。
 天に広がる灰色の雲。曇天が蠢き、太陽を隠してしまっている。あの厚い雲の先に楽園[アクエ]は存在する。
 顔を下げた鴉の口元は笑っていた。
「還ることは許されん。これが罪と罰だ」
 鴉が顔を上げたと同時に辺りに風が舞う。それが黒衣の成した業だとゾルテが知った時にすでに、彼の身体は触手のように身体に絡みつく黒衣によって捕らえられていた。
 黒衣の闇に包まれ自由を奪われようともゾルテは臆することなく、笑みすら浮かべている。
「余は知っている。余を捕らえたこの?闇?が、嘗ては煌く?光?であったことを――」
「私の罪が衣を闇に変えたのだ」
 ゾルテの身体を黒衣が締め上げる。だが、ゾルテの余裕に笑みは崩れることなく、鴉を見据えている。
「だから貴公は鴉と呼ばれるようになった。しかし、腑に落ちないこ――愚かなノエルどもだ」
 言おうとしていた言葉を遮らせたのは帝都警察だった。黒衣に包まれたゾルテを見た帝都警察は今がチャンスと攻撃を開始したのだ。
 すでに敵と認識されたゾルテに容赦ない銃弾の雨が浴びせられ、バズーカも撃ち込まれた。
 煙に包まれた中から鴉の黒衣が引き戻される。煙の中にはゾルテがまだ居り、攻撃は続いていた。
 黒い翼が大きく広げられると同時に煙が掻き消される。ゾルテは生きていた。傷を負ってはいるが、その傷は瞬く間に消えてしまった。あの程度の攻撃ではゾルテを倒すことは不可能なのだ。
「力の差というものを知らんのか。ノエルとはそこまで愚かな生物であるのか。嗚呼、嘆かわしいぞ、それを糧として生きていたことが嘆かわしい」
 ゾルテは掌にエネルギーを集めはじめた。それは地上にも存在する魔導の一種。身体の一部に魔導力を集め銃のように解き放つ魔導だ。
 人間たちにゾルテが魔導を放とうした瞬間、鴉はすぐさまゾルテを止めに地面を駆けた。しかし、間に合わない。
「止めろルシエ!」
 友の名を呼ぶが、ゾルテは聞く耳を持ち合わせていなかった。
「ノエルなどいらぬ。この大地[ノース]から一掃してくれようぞ」
 人間に向けられたゾルテの手が激しい光を放った。

 炎を纏う巨大猫との戦闘は遠距離線を強いられていた。自らの肉体を武器にする戦闘を得意とする夏凛には不利な戦闘である。
 背後からの援護射撃は巨大猫に命中するものの、その行為は巨大猫の神経を逆撫でする行為でしかなかった。
 怒り狂う巨大猫は鋭い爪を夏凛に向ける。
 炎を纏った猫の手は大きく振りかぶられるが、夏凛は軽やかなステップでそれを躱す。先ほどからこの繰り返しだ。新たな援護が来ない限り、状況は打開しそうもなかった。
 夏凛は大鎌を構えるが、柄の長さよりも巨大猫を包む炎の方が大きい。これでは手の出しようがない。
 その時だった、どこからかサイレンの音が聞こえる。ふと、その方向を見た夏凛は静かに笑う。
 サイレンが止まると同時に赤い車体は止まり、中からすぐに消防士が降りてくるや長いホースを構えた。
 巨大猫とじゃれ合いをしていた夏凛が素早くその場から離れると同時に、巨大な炎の塊に向けて放水が行われた。
 危機感を覚えた巨大猫は逃げようとするが、その身体を包み込んでいた炎は弱まり、風前の灯となっていた。
 逃がすまいと素早く動いた夏凛は大鎌を天高く振り上げて巨大猫に突き刺した。だが、巨大猫が激しく暴れ、夏凛は思わず大鎌から手を放してしまった。
 鎌が突き刺さったまま逃げる巨大猫からは血が滴り、それを人間とは思えないほど瞬発力で夏凛が追い、巨大猫の鼻先に立つ。
「逃がさないよ」
 夏凛の口から発せられた声は空気を凍らせ、その顔には慈悲の欠片もない。