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ひなた眞白
ひなた眞白
novelistID. 49014
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巡り合う街の不確定未来 探偵奇談16

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やがて照明が暗くなった。周囲は波が引いたようにシンと静まり返る。瑞らも自然とステージの方に視線を引き寄せられた。アコスティックギターが聞き覚えのあるイントロを奏でると、胸が高鳴るのが分かった。

「…ああこれ、聴きたかった」

伊吹が静かに呟く。隣の郁も、うっとりと聴き入っているのが見えた。この歌の歌詞が好きだって、そう言ってたっけ。
ボーカルの優しい声に、ライブハウス内にも温かな空気が満ちていくようだった。先ほどまでの喧騒が嘘のよう。英語の歌詞が祈るように同じ言葉を繰り返していて、瑞はチケットをくれた男のことを思い出す。

(…どんな思いで歌ってたのかな。きっといまも歌ってる)

結ばれることのなかったひとを思いながら。
いつか自分もこの曲を聴いて、戻れない日を想い、苦しくなる日が来るのだろうか。年をとるって、そういうことなのか。

力強いのに繊細で優しい不思議な声。CDで聴くのと全然違う。もっと、思いが溢れるような感情がこめられていて、耳じゃなくて胸に直接響いてくる感覚だった。じわっと目頭が熱くなり、胸が詰まるような感動に震える。きっと伊吹も郁も、他の観客もみんな、自分の気持ちとこの曲の歌詞なりメロディなりを、自身の人生や歴史や想いとに重ね合わせて聴いているのだろう。切なかったり、悲しかったり、幸せだったり、喜びだったり。音楽ってすごいな。目には見えなくて触れないのに、こんなに心を掴んで揺さぶってくる存在感がある。

隣の郁が鼻をすすっているのがわかった。同じ風に胸を打たれているのだろう。

「……」

態勢を変えようと肘を動かしたとき、指先が郁の手に触れた。そのまま、何となく手を繋ぐ。それは別段意識した行動ではなくて、瑞自身にもなぜこんなことをしたのかわからない。それぐらい自然に、彼女の手を握っている自分に、軽く驚く。