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亨利(ヘンリー)
亨利(ヘンリー)
novelistID. 60014
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隠子の婚約+美人の退職+愛娘の受験+仕事の責任=幸せの1/2

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第1章 結婚の事情



 博之は会社を定時に出た。他の社員より早く退社するのは気が引ける。しかし、急ぎたい気持ちが先走っていた。
 今日博之が会うのは、中学時代の亡き恩師、川島ひとみの一人娘、愛音(あいの)である。音楽教師だった母親の影響で、彼女も子供の時からピアノ一筋で生きて来た。博之も以前、愛音にピアノを教えてもらっていたことがある。
 愛音は3年半ぐらい前、先生の3回忌を区切りに一度結婚していたのだが、DVが原因で僅か半年で離婚していた。

 博之は帰宅せずに、そのまま愛音の自宅に向かった。逸る気持ちを抑えても、彼のメルセデスだとついついスピードを出し過ぎて、1時間もかからないで到着出来るだろう。彼女に会うのはもう2ヶ月ぶりぐらいだ。その間に彼女の婚約者が引っ越して来て、今はすでに同棲しているらしい。
「あと10ヶ月か」
 博之は独り言を言った。愛音が式を挙げる予定は来年の6月と聞いている。
(結婚式のオンシーズンに当たり、式場を早く予約しないといけないから慌てているのかな)とそんな想像をしていた。
 その途中で、博之のスマホの呼び出し音が鳴っているのに気付いた。助手席に置いたサコッシュに入れたスマホに応答出来ず、車を道路脇に寄せている間にその音は鳴り止んだ。車を停めてすぐ履歴にかけ直したが、予想通り、相手は愛音である。

「もしもし。俺。今、天神さんの前」
[あ、もうそんな近くに? ごめん。今日は外で会って話したいんだけど。いい?]
どこか少し声に元気がない。
「外? どこかのお店でってこと?」
[うん]
「じゃ。晩飯食いながら話す?」
[うん、そうしたい]
「何食べる?」
[ラーメン以外]
「ははは」
[暑いもん]
「じゃあ、カレーもダメ?」
[うーん。それもいいけど、ゆっくり喋れる雰囲気ある?]
「じゃ、お好み焼きは?」
[うん、そっちの方がいい。『千石』行こうよ]
「ああ、あそこ久しぶりだから、いいよ」

 愛音とは最近、このように気兼ねなく会話が出来るようになって来た。というのも、表面上は他人であるが、本当は博之の実の娘であった。つまり『隠子』、聞こえは悪いが、そうなのである。別に博之が隠していたわけではないのだが、それは博之がまだ中学生だった時に、ひとみ先生との間に生まれていたという、衝撃の事実を知らされたのが、先生が亡くなる直前、博之が42歳の時だったのだ。その時、秘密にしておいて欲しいというのが、ひとみ先生の遺志だったので、博之は法的な認知もしていなかった。現在この事実を知っているのは、当事者の二人の他は、博之の妻知子だけで、3年前に別れた愛音の元旦那にさえも、知らせていなかったくらい複雑な関係なのだ。