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③冷酷な夕焼けに溶かされて

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出生の秘密


「寵姫のくせに、何も聞かされておらんのか?」

思いもよらない言葉に、私は考えがまとまらない。

助けを求めるようにフィンを見ると、黒い瞳が鋭く覇王をとらえていた。

「我が国王を侮辱されるのは、いくら覇王様と言えど許せません…。」

「くくっ。」

覇王は今にも食って掛かりそうなフィンをチラリと見ると、喉の奥で笑い、夕焼け色の瞳を細める。

癖のある白金髪に夕焼け色の瞳…確かにミシェル様と血の繋がりを感じる要素はあった。

けれど昨夜、ミシェル様は『両親、きょうだいを覇王に殺された』と言っていた…。

「にわかには、信じられぬという顔じゃな。」

覇王はフィンの怒りを無視すると、紅い唇を指でなぞりながら私へ突きつけていた剣を下ろす。

「ミシェル様から、ご両親は亡くなったとうかがっておりましたので…。」

私はフィンに飲み物を用意するよう指示を出してその場から遠ざけると、覇王を真っ直ぐに見つめた。

「くっ。その程度しかまだ心を開いてもらえてないのか。寵姫とは、名ばかりじゃな。」

嘲るように言われ、その言葉が胸に突き刺さる。

(たしかに…警戒心の強いミシェル様がようやく笑顔を見せてくれるようになった…いまだそれだけの関係。)

思わず目を逸らす私の頬を、剣でなぞる覇王。

(こんな行動まで、ミシェル様と似ているなんて…。)

「その『両親』。ミシェルを、王位に就けるため、きょうだい諸共、皆殺しにしたのじゃ。」

覇王は立ち上がると、風のように一瞬で私のそばまで来た。

「ルーチェの前王はもともと、我が帝国の騎士であった。我は、彼が好きでな。伽を命じて、子をもうけたのじゃ。けれどその子は流れてしまい、そのように流れる子を授けた彼を我が父は追放したのじゃ。それが、当時属国に下ったばかりの、ここルーチェ。」

覇王はベッドサイドへ腰を下ろすと、フィンが持ってきた飲み物を受け取る。

「父がルーチェの王族の、年若い姫と婚姻させたのじゃが、私はとても諦めきれなんだ。それで、ルーチェをたびたび訪れ、伽を命じ、もうけたのがミシェルじゃ。」

覇王は、受け取った飲み物を私へ差し出した。

「毒見しろ。」

即座にフィンが腰を浮かせたけれど、私は無言でそれを制すると、躊躇いなく一口飲む。

「何も、入っておりません。」

言いながら返すと、覇王はニヤリと笑った。

「ミシェルが気に入るはずじゃ。」

そして、ゆっくりとグラスを傾け、足元に控えるフィンの頭に飲み物が注がれる。

「!」

黒い髪からぽたぽたと雫が落ち、フィンが唇をきゅっと噛むのが見えた。

「遅発性の毒の可能性もあるからの。」

そのまま放り投げるようにグラスをフィンに返すと、また私に向き直る。

「我はミシェルをルーチェの王位に就けるべく預けたのに、あやつらは子をどんどんもうけおった。しかも、我の伽の時には避妊具を使い、暗に拒絶し始めたのじゃ。」

その表情は、じょじょに怒りの熱を帯び始めた。

「そして、遂にミシェルを隔離し、帝王学を仕込むためとかなんとか理由をつけていたが、完全に除外したのじゃ。挙げ句、我が命じた遠征に、幼いミシェルを寄越すようになる。まるで、戦死しろと言わんばかりに!」

そう言う覇王の美しい顔は般若のように歪み、夕焼け色の瞳は怒りに燃える。

「だから、我は奴等を皆殺しにした。王妃の孕んでいた子諸共な。」

(ひどい…!)

思わず眉間に皺を寄せた瞬間、覇王の細い指に顎をとらえられた。

「どうやって、王妃を殺したか教えてやろうか?」

言いながら、顎を掴む指に力がこもる。

「…っ。」

骨が軋む痛みに顔を歪ませると、覇王は愉しそうに笑った。

「我が親衛隊の騎士団に、犯させたのじゃよ。ひとりひとり、丁寧に激しく挿入させ射精させ汚したのじゃ。それで何人目じゃったかの。よく覚えておらぬが、気がつけば死んでいた。」

「!!」

あまりにも凄惨な内容に、私は覇王から目を逸らす。

けれど、覇王はそれを許してくれなかった。

「それで、ようやくミシェルを王位に就けてやったのに、最近あやつはその恩を忘れて反抗してきよる。」

逸らした視線の先に顔を滑り込ませてくる覇王の瞳は、狂気に満ちている。

「それもこれも、おまえのせいじゃ。」

「…え?」

小さく驚くと、怒りに燃えていた夕焼け色の瞳が一気に冷ややかなものへと変わった。

「生首を偽装してまでヘリオス献上を拒むゆえ、デューで反乱の懸念ありと嘘の情報を流してミシェルをこの国から離し、調べに来たのじゃ。」

(…それで昨夜、ルイーズは別室にミシェル様を呼び出し、ミシェル様はレンゲソウの歌を歌われていたのだわ…。)

(けれど、それではあの『ルーナのことはフィンとララに任せた』はどういう…。)

そう思った時、バタバタと部屋へ入ってくる足音が聞こえる。

「覇王様!」

帝国の騎士が、寝室のカーテンを開けながら、跪いた。

「なんじゃ、騒々しい。」

不機嫌そうに歪められた表情に、帝国の騎士は震え上がりながら、床に額をこすりつける。

「ルーチェ王が拉致されました!」