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短編集25(過去作品)

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 そんなイメージの話だった。カバーの裏にあらすじが書かれているが、内容を読まない限り、本当の面白さは分からないと感じた。なぜなら、時代の違いを感じるからである。時代背景を想像するには、あらすじを読むだけでは到底及ばない。実際にストーリー展開から時代に思いを馳せ、想像力を豊かにしていくことで、自分が小説世界に入り込まなければ、本当の面白さを実感できない。
 しかし、実際にその面白さに陶酔してしまえば、現代版ミステリーの比ではなかった。私は、ミステリーの父と呼ばれる作家の話に陶酔していた。
 彼の作風はトリックもさることながら、不気味なストーリー展開の中で醸し出されるその時代独特の雰囲気が私を惹きつけて離さなかった。変わり者の芸術家が出てきたりするのだが、その中で気持ち悪くて誰も立ち入ることのないアトリエが出てきたり、防空壕の跡で発見される死体であったりと、おおよそ今の世の中では想像できないような背景に自分の想像力は全回転していた。
 彼の作品を読んでいて、私の気を引いた作品があった。題名を「悪魔のアトリエ」と言ったっけ。内容もさることながら、プロローグから怪しげな雰囲気にすっかり魅了されたのだ。
 殺人予告なるものから始まるストーリーは、明治維新に貢献した人の屋敷に住む男を中心に展開されていた。殺人予告は屋敷に住む人々に次々に起こるものだった。その内容たるや、毎日警告される日付のカウントダウンである。
 その不気味さは屋敷の中の冷たい感じを想像させ、私を嫌が上にも、不気味な世界へと誘っているかのようである。まるで子供のように胸をドキドキさせながら、ストーリーに嵌まっていく自分を感じていた。
――殺人予告のカウントダウン――
 その不気味さとは別に、「カウントダウン」という展開が初めて読むものではないような気がして不思議な感覚を私に植え付けていた。
――今までに読んだことのある小説の中にそんな内容の話があったのだろうか――
 思い返してみるが、実際の内容を思い出すことはできない。しかし、確かにこの感覚は初めてではない。では一体、いつ味わったのであろう?
 疑問を感じながらも、ストーリー展開に酔っている私だった。予告どおり殺人が起こり、それに対して警察は後手に廻るだけだった。犯人はそんな警察を嘲笑うかのように、殺人予告をした上で、予告どおりの犯行を繰り返す。探偵が登場するまで……。
 探偵が登場してからは、事件は急転直下、解決へと向かうのだが、それまでの展開に引き込まれた読者は、探偵の手腕にただただ舌を巻くだけだろう。それこそが作者の思惑で、読者は見事にその術に嵌まってしまう。分かっていて作者の思惑に嵌まることへの快感を覚えてしまうのは、今まで結構本を読み込んできたからだろう。
 ミステリーの醍醐味を感じてしまうと、そこにホラー性を見てしまう。時代への思いが私の中にあり、知らない世界が目を瞑ればそこに広がっている。
――カウントダウンへの思い入れ――
 初めてカウントダウンのシーンを読んだ時に感じた恐ろしさは、胸騒ぎのようなものでもあった。それが初めてではないと感じた理由であって、心のどこかに燻ぶっていたもののように感じる。
 恋愛小説を最初の頃には興味を持って読んでいた。しかし、ある作品を境に急に読まなくなったのだ。読み込んでいくうちに感じてくる男女間の嫌らしさ、それが耐えられないもののように思えてきて、嘔吐にも似た感覚に陥ってしまったのだ。
 男の私が読むにはあまりにもきつい内容だったように思う。ホラーであれば、架空の物語として気持ちの中で整理できるのだが、恋愛小説の中での出来事は、まるで自分に隣り合わせの出来事のように感じてしまう。
――決して起きえない出来事ではない――
 という感覚が付きまとい、抜けないでいる。
 恋愛小説恐怖症といってもいいだろう。それからの私は恋愛小説を読まなくなった。特に女性が書く恋愛小説は、敬遠してしまう。ドロドロとした内容には嫌悪以外の何ものも抱かなくなったのは、私の性格上のことだろう。すぐに本気にしてしまう私は、恋愛小説の出来事を、すでにただの小説の中のストーリーとして見ることができなくなっていたのだ。
 その時だったように思う。カウントダウンのような恐ろしさを恋愛小説にも感じていた。そこにはミステリーのカウントダウンで感じたホラー性があったようにも思うが、ホラー性だけではなく、いずれ感じるであろうという予感めいたものがあったように思えて仕方がない。きっとミステリーを読んでそのことを思い出したのだろうが、ゾクゾクした感覚を、「思い出した」ように感じたのは、それが予感めいたことにあったからだろう。
 それから私の選ぶ本には、カウントダウンで感じたようなゾクゾク感を感じるようになっていた。

 私こと水沢数馬は今、結婚しようかと思っている。相手の女性とはすでに一年以上の付き合いで、相手もすでにその気になっているように思う。
「あなたの思っていることが、私には分かるのよ」
 この一言が結婚への決意だったかも知れない。なぜなら、彼女はすでに付き合い始めて数ヶ月で私の行動パターンを把握していた。喜怒哀楽がハッキリしている私を見ていて分かるのだそうだ。
「あなたといると安心できるわ」
 何を根拠になのだろうか?
「行動パターンが分かるから?」
 と聞いてみるが、
「ううん、違うの。あなたのそばにいる自分が私には見えるの」
「どういうことだい?」
 きっと身を乗り出して訊ねていたことだろう。
「私には時々、自分が見えることがあるの。表から自分を見ているんだけどね。客観的に見ている自分がいるの」
「うん、僕も感じることがある」
「あなたも?」
「うん、そんな時って、見ている自分に感情はないんだよね」
「ええ、そうなの。見られている主人公である自分の感情も分からないから、自分で何を考えているか分からない。それどころか、本当の自分なのかどうかも、不思議に思うことがあるの」
「そんな時の自分って、幸せな時が多いような気がするんだ」
「ええ、だから、あなたのそばにいる私が幸せな表情をしているのが見えるのね。私があなたを好きなんだと思える瞬間だと思うの」
 彼女の話を聞いていて、私もその場面を想像してみた。暖かい肌が触れ合っているが、実際に肌の温もりを感じることができるか考えてみた。実際に感覚が麻痺するくらいに自然な触れ合いこそが、一番気持ちいいと感じているので、きっと、感じることはないだろう。私によって彼女はそんな女性である。それも結婚を決意した重大な理由の一つでもあった。
 彼女は名前を塔子といい、私にとても従順な女性である。
 塔子に不安がないわけではないはずである。私よりも三歳年上の三十三歳であり、しかも子供がいないとはいえ、離婚歴がある。
「若気の至りってとこかしらね。まだ二十歳そこそこだった頃、優しくしてくれた人に参っちゃって、そのまま一気に結婚したの」
 塔子は笑いながら話してくれたが、その笑顔は心からというにはあまりにもかけ離れていたように見えた。引きつった笑顔が何を物語っているのか、私にはハッキリと分からなかった。
作品名:短編集25(過去作品) 作家名:森本晃次