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⑩残念王子と闇のマル

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誓い


カレンの大きな手が素肌を撫でるたびに、身体中に甘い疼きがかけめぐり、たまらず麻流は腰を大きく揺らす。

「っあ…んっ」

抑えられない嬌声が寝室に響き、体の奥から溢れだす愛欲をカレンの指で絡め取られ、更に身もだえた。

「…マル…」

耳元で名前を呼ばれ、一気に体が熱くなる。

「ん…っあ…あぁっ」

高く上がった声に自ら驚いた瞬間、麻流は肩を大きく揺さぶられた。

「マル!」

ハッと目を開けると、視界いっぱいにエメラルドグリーンの瞳が広がる。

「っ!?」

その瞳は恐ろしいほど真剣で冴え渡っており、鬼気迫る表情に麻流の火照っていた体から一気に熱がひいていった。

「どうした、マル?うなされていたけど…。」

(うなされていた?)

そこで、麻流はようやく状況を理解する。

(そうか…私、カレンに抱かれる夢を見ていたんだ…。)

あまりにも恥ずかしすぎる夢に、麻流の体から汗が噴き出した。

「めちゃくちゃ汗かいてるじゃん!」

カレンが、ぎゅっと麻流を抱きしめる。

「どんだけ怖い夢見たの…。」

言いながら唇を重ねてきたカレンから、麻流は強いワインの香りを感じた。

「ごめんな、ひとりにして。」

優しく背中を撫でながら、カレンは麻流に謝罪の言葉を繰り返す。

「最近、マルのこと…ほったらかしにしてるもんな…。」

花の都に戻って半月。

カレンは麻流と婚約したと発表したことで、花の都の有力者や重鎮達と連日、晩餐会や謁見を行っている。

麻流も共に参加するのだが、王女の公務は22時までと決められており二次会などには参加できないため、夜はカレンと離ればなれに過ごし独りで眠ることが増えていた。

時計を見れば、もうすぐ1時になろうとしている。

「本日も、遅くまでお疲れさまです。」

麻流がぎゅっと抱きしめ返しながら逞しい肩に頬を寄せると、カレンがふーっと大きく深呼吸をした。

「今日はね…疲れたよ~…。」

カレンは今までのイメージが悪すぎた為、なかなか花の都の重鎮達から認めてもらえず、実は婚約発表したもののそのお披露目式の日取りがいまだ決まっていない。

前回滞在していた時に、王子としての仕事や人柄をかなり高く評価されたけれど、婚姻となると話が別のようだ。

「でもね、ようやく宰相殿が『いつにしますか?』って言ってくれた!!」

カレンは声を弾ませながら、麻流の息が止まるほど強く抱きしめる。

「ほんとですか?」

麻流が驚いてカレンの顔を見上げると、輝く笑顔で大きく頷いた。

「でね、セイカ様が、諸外国の来賓も集まるカヅキ様の戴冠式の翌日でいいんじゃないか、って仰って♡」

言いながら、カレンは麻流の耳たぶに口づけを落とす。

「だから、明日からここにつけてよ、妃のピアス♡」

ほろ酔いの熱い唇にそこを軽く食まれた瞬間、麻流の身体に甘い疼きが湧き上がった。

「…ん…。」

思わずため息混じりの甘い声を漏らすと、カレンが麻流の顔をのぞきこんでくる。

「…誘ってるの?」

ワインの香りがする吐息に、麻流の頭の芯がぐらりと揺れた。

「なに…その色っぽい目つき…。」

言いながら唇を重ねてくるカレンに、麻流はしがみつく。

まるで麻流から乞うように口づけを深めると、カレンが麻流の服に手を差し入れてきた。

「そういえば…再会して、まだ一度も抱いてない。」

「っぁ…!」

するりと素肌を撫でられて麻流が思わず声をあげると、カレンの瞳に熱情が生まれる。

カレンは麻流から離れると、手早く冠やアクセサリー、マント等を外し、片付けた。

「マル…。」

艶やかな表情で麻流をふり返ると、ベッドを軋ませてカレンが覆い被さってくる。

「愛してるよ。」

襟元をゆるめながら妖艶に微笑んだカレンは、誘うように視線を麻流に絡めた。

「私も、愛してます。」

麻流は甘やかに導かれ、その首に腕を回し、ひきよせる。

深く重なった唇は角度を変えながらお互いを求め合い、想いを交わし合う音が室内に響いた。

カレンは、麻流の服をそっと脱がせる。

「ん?」

脱がせた服を何気なく見たカレンは、ニヤリと意地悪な笑顔を浮かべた。

「もしかして…さっきのはうなされてたわけじゃない?」

一気に熱くなった頬を隠すように麻流が顔を逸らすと、カレンはわざとその顔をのぞきこむ。

「夢の中で、僕に抱かれてたんでしょ?」

言いながら、既に潤んでいる麻流の体の芯を指で触れた。

そのとたん、電気のように甘い痺れが走り、麻流の体が跳ね上がる。

カレンの瞳を見つめた瞬間、麻流から愛欲が溢れだした。

「…ぁ…あ…っ」

嬌声混じりの浅い呼吸を繰り返す麻流を見下ろしながら、体の反応を楽しむかのようにカレンが深く愛撫する。

「…やっ…も…カレ…」

その疼きに堪えられなくなった麻流がカレンを求めると、カレンは余裕のある笑顔を浮かべた。

「まだだよ。」

そして、丹念に麻流の身体を愛撫し、麻流の反応をひとつひとつ確かめるように妖艶な表情で見つめる。

麻流の体が悦ぶと嬉しそうな笑顔を浮かべ、そこを集中的に触れていった。

「カ…レンっ。」

麻流が喘ぎながら再びカレンを求めると、カレンの瞳の温度が上がる。

「もっと。」

言いながら、細くて白い喉元に噛みつくように口づけた。

「もっと、僕を求めて…。」

掠れた声が、更に麻流の体に甘い疼きをもらたす。

「…ん…ぁ…カレン…」

翻弄されるばかりで悔しくなった麻流は、大きく膨らんだカレンの情熱に手を伸ばし、そっと触れた。

「…っ!」

驚いたカレンが身動ぐけれど、麻流はカレンを見つめたまま撫で上げる。

「マ…マルっ…」

カッと頬を紅潮させ、今までの余裕が消え失せたカレンの情熱は更に熱く大きく膨らんだ。

背中から汗が噴き出し、麻流の手の動きで呼吸が乱れ、その瞳が虚ろになる。

「…カレン…」

名前を呼びながらカレンを抱き寄せ、麻流は間近でエメラルドグリーンを見つめた。

熱にうかされた瞳が、獲物を捕らえた獣のように光る。

あの、最後の夜のカレンのように。

麻流と視線を交わしたカレンは、ゆっくりと唇を重ねてきた。

小さな水音を立てながら交わされる口づけに、お互いの体が自然と重なりあう。

いつもならこのままひとつになるのだけれど、カレンは不意に体を離し、口に何か咥えた。

「…それ…」

今までなかったことに驚く麻流の前で、カレンはピッと封を切ると、優しく笑う。

「もう、二度と麻流を傷つけたくないから…。結婚するまでは、ね♡」

麻流の瞳が潤むと、カレンは眉を下げて微笑み、再び唇と体を重ねてきた。

麻流の頭を何度も優しく撫で、口づけながらカレンはその細い腰を引き寄せ、一気に深く繋がる。

「あっ!」

久しぶりにカレンを受け入れた麻流の瞳から、再びひとつになれた嬉しさが涙となってこぼれ落ちた。

「…ツラい…?」

カレンが呼吸を乱しながら、麻流の顔を覗き込んでくる。

「幸せで…。」

麻流が涙を流しながら微笑むと、カレンの頬が更に紅潮した。

「…かわいすぎ…。」

目を逸らして呟いたカレンは、もう一度麻流を見つめ、妖艶に微笑み返す。
作品名:⑩残念王子と闇のマル 作家名:しずか